第69回税理士試験 講評~財務諸表論

本試験、お疲れ様でした。炎天下の中、会場に向かうだけで消耗しそうな3日間でした。

今回の財務諸表論は、理論の第一問が文章量が多く難しめだった割に、第三問の総合計算問題もしっかり量があったので、全体として難易度が高かったと思います。以下、個別に講評していきます。解答解説は現在作成中ですので、しばらくお待ちください。

第一問

問1 概念フレームワーク等

(1)~(3)では概念フレームワークの空欄に対応する文章を選択する問題まで出題されました。概念フレームワーク自体が抽象的内容が多い上に、原文を読み込んでいる受験生も多くないと思うので、かなり難易度が高かったと思います。選択肢の中にはよく読むと全く見当違いな文章もあるのですが、試験会場ではなかなか冷静に選べないですよね。

(1)②は見知らぬ概念もあるでしょうが消去法で、(1)③は時価の把握が困難な有価証券は取得原価評価という計算の知識から、(4)も同様に計算の知識からなんとか選択できそうです。(5)はトレーディング目的にもなる棚卸資産と気づけたでしょうか。

(6)は、たとえ時価が把握できたとしても事業投資対象資産は時価評価することなく取得原価評価すべき理由を答える。という典型論点ですが、問題に「代替的な投資機会の取扱い」を踏まえるよう指示されているので、「中古車として時価で売却するという代替的な投資機会があったとしても、営業活動への使用により成果を生み出すという投資目的に応じた評価を行うこと」についても言及する必要がありました。

問2  引当金

キャッシュ・フローの見積り方法に関する「期待値法」と「最頻値法」に関する問題でした。(1)~(3)は簡単なのでここまでできれば問題なしだと思います。(4)の記述は、引当金A(製品保証引当金のような引当金設定対象の多い場合)なら期待値とすることで予想(引当金)と実際の損益の相違を最小化でき、引当金B(損害補償損失引当金のような単一の債務の場合)には最頻値とする方が予想と実際の差異が小さく、損益の変動も最小化できることに気づけば何かは書けたでしょうか。

第二問

問1 企業会計原則

企業会計原則の空欄補充等は問題なくできたでしょう。

(3)は「金融商品に関する会計基準」の金融資産の評価やその他有価証券の評価の理論として考えれば、答案は用意してあったと思います。

問2 リース取引

(1)はファイナンス・リース取引の判定に関する数値基準です。語群も用意されていましたから正答できたと思います。

(2)は所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引で減価償却計算が異なる理由が問われました。所有権移転外ファイナンス・リース取引がもつ性質が会計処理が異なる論拠となっているので、その点を指摘することができます。

第三問

貸借対照表と損益計算書の作成が求められました。キャッシュ・フロー計算書の空欄補充問題もありましたが、キャッシュ・フローの区分等を問われたくらいでキャッシュ・フロー計算書の作成までは求められたとはいえないでしょう。

預金

外貨建預金の決算時レートでの換算替えと長期性預金の振り替えだけで簡単でした。

売上債権

ここでは丙社に対する債権のうち切捨後の5%部分を破産更生債権等に表示することを忘れないようにしましょう。2019年4月1日に回収されているので、本来なら流動資産に表示すべきです。税効果会計の適用もありますが、後でまとめて処理した方が効率的でした。

有価証券

CCC社社債については、その他有価証券ですが1年以内に償還されるため流動資産に表示する点に注意が必要です。

有形固定資産

特に難しい内容はありませんが、キャッシュ・フロー計算書で「減価償却費」と「有形固定資産の売却によるキャッシュ・フロー」だけは数値を求められているので、そのための計算をここで済ませておくとよかったですね。

借入金

金利スワップの特例処理が採用されています。暫定的ですがすでに処理済みとなっているので、受取利息で処理されている額を支払利息に振り替えるだけですみました。「結果的に適用された(+03%後)」とある利率の資料を読み間違えて、うっかり+0.3%してしまうと誤りになってしまいます。

賞与引当金

従業員賞与は、役員賞与と異なり株主総会決議を要するという不確実性もないため「未払費用」とすべきですが、税効果会計の資料との整合性から賞与引当金としています。

自己株式

自己株式の取得原価に含めてしまった付随費用を費用処理する修正が必要です。今回は手数料の処理について様々な勘定との関連で確認させられました。

税効果会計

もし、税効果会計の注記が求められていたなら、各勘定で繰延税金資産を求めてから回収不能な評価性引当額を控除する必要がありましたが、資料12(2)に「一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づき繰延税金資産を見積る」とあるので、52,000千円に税率30%を乗じた繰延税金資産を計上するだけですみました。これに先に気づいて途中の一時差異等の把握を行わずに計算してこれたか、といえばそんなはずもなかったと思います。「税効果の資料は先に見ておいた方が良い」というのが今後への教訓になった問題でした。

以上です。