公認会計士 論文式試験(令和元年)管理会計論~講評

本試験、お疲れ様でした。残暑が厳しく、体力勝負の3日間でした。

今回の管理会計論は、資金管理の問題が出題されなかった分、問題量も平均的で、普段の実力が反映されるような問題でした。ただ、第2問の問題1の品質機能展開の論点を知らない受験生には、精神的に厳しかったかもしれないです。以下、個別に講評していきます。解答解説は現在作成中ですので、しばらくお待ちください。

第1問

問題1  実際部門別個別原価計算

資料にサッと目を通して、25点中20点を狙える問題であること、部門別個別は補助部門費の配賦計算に時間がかかることが多いので時間配分に留意する必要があること、が意識できれば良かったです。
理論については、以下が出題されました。
問2: 予定配賦のメリット(2つ)
問3: 総就業時間と直接作業時間の構成要素の違い
問5: 固定予算の問題点
問6: 責任会計の内容と本問における補助部門費配賦方法の改善策(3つ)
問7: 個別から総合へ移行するために必要な情報
問2、問3、問5は、どこの専門学校のテキストにも掲載されている内容です。特に、問5は、会話形式の問題である点も含めて、2003年度の本試験と同じ問いです。
問6は、補助部門費配賦が単一+実際配賦で行われているので、改善策2つは直ぐに思いつきますが、あと1つをひねり出せたかです。責任会計の内容が頭に残っているかについては、普段、受講している講義の質が反映される問題です。問7は、個別原価計算から組別総合原価計算への移行問題を思い出しながら論述すれば良いでしょう。

計算については、以下が出題されました。
問1: 仕掛品勘定の記入
問4: 固定予算による差異分析
本問は、丁寧な計算条件が与えられているので、しっかりと得点しておきたい問題です。

問題2  標準原価計算

標準原価計算は、毎年出題されますが、作問者の指示一つで変幻自在となる性質があるため、多くの受験生が苦手意識を持っています。「理論をしっかり書いて、計算は一点でも多く積み上げる。」意識で対処して下さい。

理論については、以下が出題されました。
問2: 標準原価概念や原価管理に関する小問6つ
問3: 当月の生産活動が良好であったかの判定とその理由
問2は「原価計算基準」の知識が必要とされるので、短答合格者有利な問題です。少し難しめな箇所は、語句群を資料に与えてくれていたため、完答も期待できる問題でした。問3は計算結果に依存するので、時間をかけずに、あっさりとした答案で構いません。

計算については、以下が出題されました。
問1: 原価標準に含まれる正常仕損費の計算
問3: 標準仕損発生数量(個数)
問4: 仕損差異
計算問題のための資料はごくわずかです。これだけしか資料がないと、標準原価計算といえども、複雑な計算になるはずがありません。「標準仕損発生数量は標準投入数量の20%である」ということなので、「1投入したら0.8が良品で、0.2が仕損品」として解き始めることになります。あとは、加工費をどのように計算すれば良いのか、下書き用紙に図を書いて考えていくことになります。

第2問

問題1  原価企画(品質機能展開)

メインとなるのが品質機能展開の計算で、過去にも出題されたことのある論点です。FINでは、短答用・論文用の両方のテキストに、本問とほぼ同じ内容の設例を使って丁寧に説明しています。知っていれば問4までは完答が可能、知らなければ手が出ないので、点数に差が出る問題となりました。
理論については、以下が出題されました。
問1: 目標原価計算に対比する概念
問2: 源流管理の重要性
問3: 会話の穴埋め
問4: 価値比率の算定目的
問6: 原価企画の運用につき、留意すべき点
前述したように、問4までは、完答の期待できる定型的な問題です。問6では、差別化戦略を実行する上での、原価企画運用の留意点について問われましたが、何を書くべきか迷いました。原価企画の逆機能のうち価格決定権の放棄の話もできそうですし、問5と絡めて財務的な判断が製品差別化と整合しなくなる可能性の話もできます。価値分析を行って、機能増が見込めるサブシステムが判明しても、結局は機能増のための具体策を創出できるかに依存せざるを得ない話など、色々な別解が予想できます。

計算については、以下が出題されました。
問3: 品質機能展開の穴埋め
問5: 差額原価分析
問3は知っていれば簡単です。問5の差額原価分析は、時間的に厳しそうであればパスしても構いません。

問題2  設備投資の経済計算

出題形式から、問5は固有の資料が多いので捨て問、問1~問3は正解必須、問4は共通する制約条件が一つの最適セールス・ミックスの決定問題なので、できれば正解したい問題という方針を立てられると良かったです。
理論については、以下が出題されました。
問3: 内部利益率の欠点(2つ)
沢山の知識が邪魔して書き始めに迷う問題ですが、時間を浪費しないように、シンプルな答案で大丈夫です。

計算については、以下が出題されました。
問1: 加重平均資本コストから負債割合の逆算、原価標準のうちの材料Aの金額
問2: 正味現在価値と回収期間
問4: 最適セールスミックス
問5: 最適セールスミックススと正味現在価値
問1の負債割合の計算は、算数の問題です。材料Aの計算も歩留率から投入量が計算できるので難しくありません。問2はタイムテーブルが書けるかが問われていますが、本問の合格ラインに到達できるかを分ける設問なので、踏ん張りどころです。ここまでと問3の内部利益率に関する理論が正解できれば十分ですが、問4も新たに与えられた資料が多くないのと、共通する制約条件が機械運転時間だけなので、腕に自信のある受験生は正解できたかもしれないです。

今回は、資金管理の問題が出題されなかったので、じっくりと取り組むことができたはずです。実力差のでる良問だったといえます。