公認会計士 論文式試験(令和元年)監査論~講評

今回の監査論も、例年通りの出題形式(第一問が純理論的問題、第二問が事例問題)でした。第二問よりも第一問が書きやすい印象でした。以下、個別に確認していきます。

第一問、問題1:試査

問1、2は典型論点です。以下で指摘しているように、解答すべき内容の選択さえ間違えなければ完答も可能な内容でした。問3は捻りのある問で、解答すべき内容が思いつきにくかったかもしれません。3カ所も答案スペースが用意されていますから、なんとか1カ所、できれば2カ所は埋めておきたいところです。

問1:試査の採用理由

試査採用理由には、①監査資源の制約、②財務諸表監査の目的についての社会的合意、③内部統制の存在、④統計技術や統計理論の発達、が挙げられます。題意より、4つのうち①以外から2つを説明する必要がありました。②~④のどれを解答しても問題ないと思いますが、問2との関連で②、問題2との関連で③を説明するのがベターな気がします。

問2:精査と絶対的保証

監査によって絶対的保証が得られない理由、といえば「監査固有の限界」が思いつくはずです。とすれば、①財務報告の性質(判断や見積要素の存在)、②監査手続きの性質(実務上の限界と法令上の限界)、③監査を合理的な期間・コストで実施する必要性、が挙げられます。問題文に「精査を実施しても」とあるため③は除外され、「不正による重要な虚偽表示」とあるので、①ではなく②、特に実務上の限界を説明すべき問でした。

問3:棚卸資産の実在性・状態についての監査証拠

監査証拠の信頼性(証明力)は、情報源・種類によって影響を受け、その証明力は、「物理的証拠>文書的証拠>口頭的証拠」となる点をまず思いついたはずですが、本問はそれだけでは答案になりませんから、棚卸資産の実在性と状況について各証拠が入手される監査手続きを想定して、留意すべきことを指摘すると書きやすかったと思います。

棚卸資産の実在性と状況について、物理的証拠が入手されるのは実査・立会、文書的証拠が入手されるのは証憑突合・帳簿突合の閲覧や第3者保管在庫の確認、口頭的証拠が入手されるのは状態についての質問、というように監査手続きが想定できれば、留意事項も指摘できたと思います。

第一問、問題2:内部統制監査

問1は確実に解答したい問題です。問2は問題文中にヒントが山盛りですから、出題意図を酌み取れたかどうかで差が出たと思います。

問1:内部統制の有効性

「財務報告に係る内部統制が有効である=開示すべき重要な不備がない」であることを解答するだけでオッケーです。もちろん、開示すべき重要な不備とは何かを説明することも必要です。

問2:内部統制評価の基準日

問そのものは典型論点ではありませんが、以下のように考えて答案を作成できたのではないでしょうか。

まず、問題文の「内部統制の不備が期中に発見された場合の対応」から、評価時点である期末までに是正されていれば内部統制は有効と評価できる、という報告面の典型論点が浮かんだと思います。次に「この制度の目的に適う」とは「経営者の評価と監査を通じて内部統制の有効性を確保しようとするもの」であることも問題文から読み取れます。そこで、期中に不備を発見 → 評価の基準日までに不備を是正して内部統制は有効であるとの内部統制報告書が作成できるよう動機づける → 内部統制の有効性の確保が促される、という論拠が説明できそうです。

第二問:事例問題

事例問題には、絶対の正解があるわけではないので自由に書きすぎてしまいがちですが、与えられた資料にヒント、つまりは出題者の意図が隠されているので、それをうまく拾い上げて答案を作成するようにしたいところです。

問題1:監査チーム内の討議

監査チーム内では、不正による重要な虚偽表示の可能性について重点的に討議されるので、資料1の中から、不正リスク要因になり得る情報を指摘すると答案が書きやすかったはずです。「増収増益への経営者の高い関心」や「増益という計画が未達傾向にあること」、「業績連動型の報酬制度」は、不正を実行する動機やプレッシャーの存在を示す事象や状況といえます。

また、「技術革新が激しく厳しい競争環境にある」ことは、企業が直面している事業リスクとして討議の対象になります。

問題2:案件A

案件Aは、2月以降に予想外のコストが発生したとの情報があり、仕掛品原価が大きく、受注金額との比較において予想される利益が計画よりも少なくなっていることが想定されます。このため、仕掛品勘定の評価に注目すべきことが読み取れます。

問題3:案件B

案件Bは、大きな利益が計上できる案件であること、納入期限が4月であるにも係わらず3月に売上計上されていることに注目できます。3月末を基準日とする売掛金の確認に甲社が不同意であることも合わせて考えると、増益の業績予想を達成するために、売上を前倒しで計上したという虚偽表示リスクが想定できると思います。

問題4:案件CとD

案件Cと案件Dは担当者が同じであり、3月の発生原価の異常な推移から、案件Dの原価を案件Cに付け替えることで、案件Dによって計上される当期の利益を水増ししたのではないか、という虚偽表示リスクが読み取れます。

監査役等とのコミュニケーションが必要となる事項はいくつかありますが、監査手続きの結果コミュニケーションが必要と判断しているので、「監査上の重要な発見事項=担当者の不正又はその可能性の発見」と考えるのが妥当でしょう。

以上です。