公認会計士論文式試験(令和元年)企業法~講評

第1問:取締役の責任

 
2019年度は、直前期に論証例だけのテキストを作って、全問解説動画をつけました。結果的に、問題1は、全問しっかりとカバーできていました。特に、問2の取締役報酬の減額については、判例ベースなので、特有の言い回しや結論を知っているかで、答案に差が出ます。
「しんどい思いをして解説動画を作っておいて良かった。」と思わせてくれる出題でした。

問題1①:利益相反取引の効力

答案構成の柱としてまず、思いつくのは、(1) 重要な財産の処分(362Ⅳ)と(2) 利益相反取引(356Ⅰ)です。作問者が(2)の利益相反取引を中心に書かせたがっていることは、乙会社が「Aの100%子会社で、かつAの配偶者が乙会社の唯一の取締役」という設定から明らかです。ただ、本件土地が総資産額の5%相当であるとの設定もおかれていることから、「・・・5%というだけでは重要な財産に該当するか、判断できない。次に、本件取引が利益相反取引に該当するか検討する。・・・」といった展開が安全な答案といえそうです。
また、前述した乙会社の設定からすれば、本件が「直接取引にあたる旨」はしっかりと論述しておきたいところです。
この後は、いつも通りの展開です。「利益相反取引の効果については明文規定がない」→「取引の相手方は、甲会社の利益を犠牲にして自己の利益を図った甲会社の代表取締役A自身といえるから、取引の安全性を考慮する必要はない」→「甲会社は、Aに対して無効を主張しうる。」→「ただし、第三者への土地の譲渡は取引行為であり、会社の利益よりも、取引の安全が優先されるべきであるから、第三者が取締役会決議を経ていないことを知り、又は知ることができた場合を除き、有効であると解する。」

問題1②:会社に対する損害賠償責任

423条1項の任務懈怠による損害賠償責任を負うことになる3要件へのあてはめ問題です。
(1) 取締役の職務執行に故意又は過失による任務懈怠があったこと
(2) 会社に損害が発生したこと
(3) (1)と(2)の間に相当因果関係の存在が認められること
さらに、直接取引であることから、無過失責任(428Ⅰ)である点にも言及しておきたいところです。

問題2:明示的な同意のない報酬の減額

判例(平成4.12.18)をベースとした問題なので、特有の言い回しを思い出しながら、近い表現で答案作成できれば理想的です。
「・・・・株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議することとしている場合であっても、報酬額は、会社と取締役間の契約であり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後、取締役会が当該取締役の報酬を非常勤取締役の標準報酬である30万円とする決議をしたとしても、Aがこれに同意しない限り、報酬の請求権を失うものではない。この理は、取締役の職務内容に著しい変動があり、それを前提に報酬減額が決議された場合であっても異ならない。・・・」
直前期に一度でも目を通しているかで、点数に差が出た問題です。

第2問:株式交換

組織再編行為等は論文対策としては手薄な分野かと思います。しかし、手許に条文もあるわけですし、短答式試験対策で身につけた知識で問題1と問題2の半分は論じられたのではないでしょうか。

問題1:承認決議の例外

株式交換契約において、存続会社等(株式交換完全親会社)での承認決議を要しない場合を問われました。原則として株主総会の特別決議による承認が必要な旨(783条1項、309条2項12号)は指摘すべきと思いますが、その必要性までは詳しく説明する必要はないでしょう。

承認決議を要しない場合といえば、略式手続きと簡易手続きが思いつきます。本問は当事会社間に株式保有関係がないことが断られているので、簡易手続き(796条)について説明すれば良いことになります。簡易手続きの例外(承認決議を省略できない場合)については、①存続会社等が非公開会社で株式が対価の時、②株式交換差損が生じる時(対価が金銭等)は本問にはあてはまらないので、③一定数の株主の反対がある場合(796条3項)について指摘するだけで十分です。

問題2:会計帳簿閲覧請求

株式交換の問題の一部として出題されていますが、内容は株主の会計帳簿閲覧請求権です。株主の会計帳簿閲覧請求権は少数株主権ですから(433条)、まず、この要件を充足しているかを論じます。次に、閲覧請求に当たり請求の理由を明らかにすることも要件となるので、これも検討します。ここまでは、問題文にも要件を充足することが丁寧に説明されていますし、条文をみれば当てはめるべき要件も直ぐ分かります。

本題は、「本件帳簿の閲覧請求を拒むことができるか」なので、ここから請求拒否事由(433条2項)を検討することが答案の中心になります。5号ありますが、請求者の親会社が丙会社の業務と実質的に競争関係にあるので、3号の「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。」に該当するか否かが問題となります。「実質的に競争関係にある」とは、競業をなすものであるという客観的事実があれば良いので、請求者が競業していれば話は早いのですが、本問は請求者の親会社が競業しています。そこで、「請求者と親会社が一体として事業を営んでいる」という問題文上のヒントと、法が拒否事由を設けている趣旨から、結論づけていければ良かったと思います。

以上です。