令和2年度 公認会計士論文式試験 講評~租税法vol.1

租税法の講評です。毎年、分量が異常に多く、難易度も高いため、解ききれることはありません。
本年度は、分量は例年通り多かったですが、所得税法の計算を除き、難易度は例年ほどではありませんでした。4時間で解くのであれば、75%以上狙えそうなレベルです。ただ、現実には2時間しか与えられないので、47%~52%程度が合格ラインと予想します。

第1問 理論(40点)

例年同様、第1問は理論です。配点は、問題1が@4×5=20点、問題2が@5×4=20点で、合計40点です。合格ライン予想は、問題1が12点/20点、問題2が10点/20点となります。

問題1:(20点)

問1 法人税法(グループ法人税制)
平成28年度において、A社は、完全支配関係にあるB社に土地(譲渡損益調整資産)を売却し、同年度の確定申告で譲渡益3,000万円を減算調整しているはずです。
当事業年度において、B社がグループ外のC社に当該土地を売却したため、A社は、平成28年度確定申告で減算した3,000万円を加算調整します。グループ法人税制の典型論点です。

問2 法人税法(グループ法人税制)
平成28年度において、B社は、完全支配関係にあるA社から土地(譲渡損益調整資産)を購入しました。このとき、時価8,000万円を取得原価としているはずで、B社は平成28年度の確定申告において、別表4の調整は不要です。
当事業年度において、B社は、グループ外のC社に帳簿価額8,000万円の土地を時価12,000万円で売却しているので、4,000万円の売却益を計上しているはずです。従って、別表4の調整は不要です。但し、法人税の答案作成は総額の考え方をとるので、売却した土地の帳簿価額8,000万円を当事業年度の損金の額に算入し、売却額12,000万円を益金の額に算入する、と表現します。

問3 法人税法(不正行為等に係る費用等)
「課徴金」という言葉の響きからして、損金になりそうにはありません。あとは、条文探しですね。55条4項三号です。

問4 法人税法(役員への低額譲渡)
法人税法では、常に時価課税の考え方をとるので、誰に売却していようとも時価で売却したことになります。従って、時価1,000万円を益金の額とし、帳簿価額100万円を損金の額とします。ここで、A社は、現実には300万円しか手にしていないので、1,000万円との差額である700万円は、役員給与と考えます(役員や従業員に対する「寄付」という考え方はありません)。そして、この役員給与700万円は、定期同額給与等に該当しないため、損金不算入となります。

問5 所得税法(源泉徴収義務)
本問は、難しいです。税理士事務所では、クライアントの給与計算を代行しますので、「給与計算といえば源泉徴収」というイメージがありますが、受験生の立場からすれば、「何を書けばいいのかよくわからない」問題だったと思います。

問題2:(20点)

問1 法人税法(リース取引に係る所得の金額の計算)
問題文の取引が法人税法64条の2のリース取引の適用を受けるかどうかを判定する問題ですが、同条文には、適用要件となる2要件の記載もあるので、平易な問題でした。

問2 消費税法(特定役務の提供を受けた場合)
国外事業者である米国の俳優が行う演劇は、典型的な「特定役務の提供」です。国内において、「特定役務の提供」が報酬を得て行われた場合、特定役務の提供を受けた事業者が納税義務を負います。これも典型論点です。

問3 所得税法(非課税所得)
生活に必要な動産(ex.タンス)の譲渡益が非課税となるように、奨学金の返還免除も非課税となることは容易に想像できますが、根拠条文となる所得税法9条1項十五号には、「奨学金の返還免除」という文言自体はないので、条文探しが難しかったと思います。

問4 所得税法(限定承認と単純承認)
最近、個人的に「限定承認による包括遺贈」というレアケースを税務実務で扱ったばかりですが、受験生にとっては手薄な論点です。限定承認の場合、死亡したAは時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得課税となります。これに対し、単純承認の場合は、死亡したAは非課税となります。一応、講義でも事例問題を通じて解説していますが、平均的な受験生にとっては厳しい論点です。

第2問 計算(60点)

例年同様、第2問は計算です。問題1の法人税法が30点、問題2の所得税法が15点、問題3の消費税法が15点とないます。

問題1:法人税法(30点)

問1の総合問題ですが、難解な論点は、役員給与のみです。これは、国税庁のホームページにある事例をほぼそのまま出題したものですが、難解ゆえ、ここで1点を失うのは仕方ありません。その他の論点は、平易でした。ただ、平易な問題であるがゆえに、欲が出て、時間をかけすぎてしまったかも知れないですね。

問1 総合問題(24点)

1. 受取配当等の益金不算入
(1) A社株式: 計算期間を通じて完全支配関係にあるため、完全子法人株式等に該当します。 ∴ 受取配当等の益金不算入額 6,500,000円(減算)
(2) B社株式: 計算期間を通じて完全支配関係にあるため、完全子法人株式等に該当します。 ∴ 受取配当等の益金不算入額 14,000,000円(減算)
(3) C社株式: 基準日に3%保有(5%以下)しているので、非支配目的株式に該当します。∴ 受取配当等の益金不算入額 = 3,000,000円×20%= 600,000円(減算)

2. D社株式(みなし配当)
保有割合10%= 5%超1/3以下 ∴ その他の株式等
みなし配当= 交付金銭等50,000,000円 - 資本金等の額 100,000,000円×10%= 40,000,000円
∴ 受取配当等の益金不算入額 = 40,000,000×50%= 20,000,000円(減算)

3. 源泉所得税額等
(1) 配当分
A社株式1,327,300 + B社株式2,858,800 + C社株式459,450×6/12+D社株式8,168,000= 12,583,025円
(2) 利息分
銀行預金 122,520円
(3) 別表1での控除額
(1) + (2) = 12,705,345円

4. 役員給与
事前確定届出給与が定めどおりに支給されたかどうかの判定ですが、理論的一貫性を欠く論点なので、やっかいです。
以下を参考にして作問された問題です。役員Eと役員Fのどちらか一方が正解であれば、大丈夫です。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/16.htm
(1) 役員E
上記国税庁の質疑応答事例を参考にすると、令和元年6月10日支給分(届出400万円、実際支給450万円)の全額である450万円が損金不算入となります(前事業年度までは咎めにいかない)。
(2) 役員F
こちらも上記国税庁の質疑応答事例を参考にすると、令和元年6月10日支給分(届出210万円、実際支給210万円)の全額である210万円が損金不算入となります(前事業年度12月支給分240万円は、前期分確定申告で加算調整されている)。

5. 減価償却
(1) 建物G(取得原価に算入べき付随費用)
建築のための調査費用1,100,000円、測量費2,200,000円は取得原価に算入する必要があります。
登録免許税704,000円は、損金経理を要件に損金とすることができます。
∴ 1,100,000 + 2,200,000 = 3,300,000円(加算)

(2) 機械装置H(前期からの繰越償却超過額あり)
会社計上償却費6,300,000 - 償却限度額(31,912,640+200,000)× 0.200 = △ 122,528円
200,000 > 122,528
∴ 過年度の繰越償却超過額を当年度の償却不足額122,528円の範囲内で認容減算します。122,528円(減算)

(3) 機械装置I(中古資産)
再取得原価5,000,000×50% ≦ 資本的支出 2,600,000 ∴ 耐用年数 = 法定耐用年数7年
会社計上償却費(改良費2,600,000+受贈益計上漏れ999,999)- 償却限度額(取得時の時価1,000,000+改良費2,600,000)× 0.286×11/12 = 2,656,199円

(4) ソフトウェアJ
会社計上償却費 0 - 償却限度額7,500,000×0.200 = △1,500,000
ここで、過年度からの償却超過額=会社計上償却費合計7,500,000-償却限度額7,500,000×0.200×42月/12月=2,250,000円
∴過年度からの償却超過額2,250,000円を当年度の償却不足額1,500,000円の範囲内で認容減算します。1,500,000円(減算)

(5) ソフトウェアK
会社計上償却費 0 - 償却限度額6,640,000(注) = △6,680,000
ここで、過年度からの償却超過額=会社計上償却費合計20,000,000-償却限度額20,000,000×0.334×24月/12月=6,640,000円
∴ 過年度からの償却超過額6,640,000円を当年度の償却不足額6,640,000円の範囲内で認容減算します。6,640,000円(減算)
(注)税務上の期首簿価 6,640,000 < 20,000,000×0.334= 6,680,000
税務上の期首簿価を超える償却費は計上できません。従って、当期の償却限度額は 6,640,000円となります。

6.貸倒損失
(1) 得意先L社(売掛債権の特例)
売上債権の特例が貸付金には適用されない、という良くある問題です。
会社損金経理 4,949,999 - 税務上の貸倒損失 3,749,999 = 1,200,000円(加算)
(2) 仕入先M社(債務超過継続+書面による免除=法的債権の消滅)
会社損金経理(純額)10,000,000 - 税務上の貸倒損失 20,0000,000 = △ 10,0000,000円
前期の確定申告で加算調整した10,000,000円を認容減算する。

7. 交際費等
(1) 損金経理交際費について
① 総会後の役員のみの飲食費300,000円は、部外者がいないため、交際費等となる。
② 飲食費3,000,000円は交際費等(5,000円超接待飲食費)
③ 記念品代900,000円は交際費等となる。
④ 飲食費4,700,000円は交際費等(5,000円超接待飲食費)となる。
⑤ 交際費等の金額= ① + ② + ③ + ④ = 8,900,000円
⑥ 交際費等(5,000円超接待飲食費)の金額 = ② + ④ = 7,700,000円
⑦ 別表4の調整
交際費等の損金不算入額 = (1)⑤ 8,900,000 - (1)⑥ 7,700,000×50% = 5,050,000円(加算)

(2) 仮払交際費等について
① 仮払いの飲食費785,000円は、接待した期(当期)の交際費等(5,000円超接待飲食費)となる。
② 別表4の調整
a. 仮払交際費認定損 785,000円(減算)
b. 交際費等の損金不算入額 = 785,000 - 785,000×50% = 392,500円(加算)
∴ a + b = 392,500円(減算)

8.租税公課
(1) 前期確定申告分の納付
私流の下書きなので、ちょっと分かりにくいかも知れないですが、資料を整理整頓すると以下の仕訳になります。
(借)未払法人税 63,000 / (貸)現金預金 100,000
(借)未払住民税 10,500
(借)未払事業税 26,500
ここで、税務上、損金算入できない法人税と住民税を、会社でも損金経理していないので、別表4の調整は不要です。
これに対し、事業税26,500千円は、申告した期の損金となりますが、会社は損金経理していないので、別表4で減算します。
∴ 納税充当金支出事業税 26,500千円(減算)

(2) 中間納付及び期末未払法人税等の概算計上
ここも私流の下書きなので、FINの受講生以外は分かりにくいと思います。
① 中間納付分(仮払法人税等は中間勘定なので、私は時間節約のため使いません)
(借)法人税 34,000 / (貸)現金預金 53,000
(借)住民税  5,750
(借)事業税 13,250
② 期末未払法人税等の概算計上
(借)法人税 43,000 / (貸)未払法人税等 69,500
(借)住民税  7,000
(借)事業税 19,500
③ 別表4の調整
①と②の仕訳のうち、法人税と住民税は損金算入できないですし、事業税の概算計上額も損金算入できません。結局、損金算入できるのは、中間納付した事業税13,250千円のみです。これに対し、資料によると、会社は、次のように経理処理しています。
(借)法人税等 97,000 / (貸)未払法人税等 56,500
(借)租税公課 12,500 / (貸)仮払法人税等 53,000
つまり、会社は、109,500千円(=97,000+12,500)を損金経理していますが、先に示したように、損金算入できるのは13,250千円のみです。従って、109,500-13,250= 96,250千円を別表4で加算調整する必要があります。

(3) 過怠税等
印紙税の過怠税136,000円、固定資産税4,200,000円(∵ 賦課決定のあった翌事業年度の損金)、交通反則金30,000は、当期の損金とはならないため、4,366,000円(=136,000+4,200,000+30,000)を別表4で加算します。

(4) 法人税等調整額
会社経理で計上している法人税等調整額はすべて、別表4で打ち消していきます。本問では、法人税等調整額5,000,000円(貸方)は、収益計上していることになるので、これを打ち消すために、別表4で5,000,000円の減算調整を行います。

9.退職給付引当金
法人税法では、原則として、費用の見積もり計上が認められないため、当期に会社が計上した退職給付費用15,500,000円は、損金不算入として、加算調整となります。一方で、退職一時金の支給額 13,000,000円は当事業年度の損金となるため、減算調整を行います。
∴ 15,500,000 - 13,000,000 = 2,500,000円(加算)

10.青色欠損金の繰越控除
繰り返し改正を受けている論点です。
平成29年3月期からの繰越欠損金43,500,000円は、当事業年度の所得金額の50%を上限として、当期の損金とすることができます。
43,500,000円 ≦ 410,000,000×50% ∴ 43,500,000円(減算)

vol.2へ続く・・・・・