公認会計士論文式試験 平成29年度 講評~第1回

 第2問

被監査会社の概況と売上高・売掛金の月次推移、取引先の状況等が資料として与えられ、分析的手続の結果得られた発見事項(各問題となっている)について、主に監査人の対応が問われました。

問題1:特定の取引先が確認先とならなかった理由

解答上のポイントは、重要な虚偽表示リスクが低いこと、確認以外の他の監査手続によって十分かつ適切な監査証拠が入手できること、の2点と考えられます。

その理由として、重要な虚偽表示リスクの低い点については、得意先A社の特徴(信頼性ある安定的取引先)や販売取引の推移(毎月ほぼ一定)であること、販売プロセスの内部統制が有効であること等を具体的に説明します。他の監査手続としては、期末日後の回収状況を確かめることが指摘できたはずです。

重要な虚偽表示リスクが低いことと、発見リスクが高くとも許容できるため確認によらなくても良いことを関連づけられたならなお良かったと思います。

問題2:売掛金の評価の妥当性

期末にかけて売掛金が滞留し、取引停止となった(資料から読み取る)B社について、留意事項ととるべき対応が問われています。

B社の状況は資料から読み取る必要はありますが、非常に分かりやすく示されているので、まず気づけたと思います。

従って、気付いた内容と売掛金の回収可能性と貸倒引当金の十分性という留意点を結びつけて説明できれば、6割得点です。

次に、とるべき対応として、具体的な監査手続を思いつくだけ指摘できれば良かったと思います。

問題3:期末近くの売上高の急増

決算月のみ月次売上高が1.5倍ほどに急増している(資料から読み取る)C社について、留意事項ととるべき対応が問われています。

C社の状況も非常に分かりやすく資料に示されているので、気付くのは容易かったと思います。

従って、気付いた内容と架空売上の可能性、売上高の期間帰属の適切性等の留意点と結びつけて説明できればOKです。

次に、とるべき対応として、売掛金と売上高の実在性に関する具体的監査手続、期間帰属にはカットオフテストを指摘できれば十分です。

架空売上の動機として、業績予想の売上高13,000百万円について指摘しても良いと思いますが、問題4の方が金額的に関連させやすいので、無理に書かなくても良かったと思います。

問題4:関連当事者間取引と監査計画の修正

第4四半期になって、100%子会社であるD社と多額の販売取引が行われている事(資料から読み取る)に関連させて、監査計画の修正の内容を問うています。

まず、指摘すべき事項として、① D社が関連当事者であること、② C社と被監査会社甲社の業態から通常の取引過程から外れた取引であること、③ 金額的にも質的(業績予想の売上高の達成を左右する取引であること)にも重要性が高いこと、が挙げられます。この①~③により、D社との販売取引には、特別な検討を必要とするリスクがあると判断されるからです。

従って、特別な検討を必要とするリスクには個別に対応する手続が必要となるので、そのための監査計画の修正が行われたと説明できます。

監査計画に盛り込まれた内容として、取引の実態があるのか、取引に事業上の合理性があるか等を検討する監査手続が具体的に指摘できればなお良いと思います。

 


第2問は比較的解答しやすい内容でした。そのため、理由は理由らしく説明する、留意点と対応を分けて記述する、監査計画修正の理由にとどまらず修正の内容までしっかり記述する、といった出題の意図・形式にそった答案が書けているかで得点に差が出たかもしれません。また、具体的な監査手続を多く書けた方が加点になったと思います。

 

以上です。