公認会計士 論文式試験 ~ 企業法の過去問分析 Part.1

出題形式について
このところ、大問が2問、そして、各大問がそれぞれ小問2問から構成されています。
30分問題が4問、というイメージです。
答案の文字数は、おおよそ、小問1問あたり600字(40文字×15行)程度なので、600字×4問=2,400字ほどになります。
同じ理論科目である監査論の答案用紙が4枚あるのに対し、企業法は2枚です。
企業法は、本試験中に条文を参考にすることができますし、解答すべき文字数も少ないので、監査論に比べて楽なように思えます。
ところが、実際に受験してみると、結構キツいです。
監査論は頭の中にあるものを答案にしていきますが、企業法は条文を確認している間に時間を消費してしまいます。
また、条文を参考にできる分、沢山、書きたくなるので、取捨選択を思案しているうちに、あっという間に2時間が経過します。
「あまり点数に差がでる科目ではない。」と割り切って、あまり凝らずに、書きすぎずに、問われている条文・制度の趣旨を重視したシンプルな答案作成を心掛けて下さい。

 

2017
第1問
問題1  株券の交付を伴う株式の譲渡があったが、株主名簿の名義書換請求が拒絶された。この場合、譲受人Bは、株式譲渡を会社に対し主張できるか。
事例問題なので、基本的な答案構成は、「問題提起 → 関係条文の立法趣旨から考察 → 結論」ということになります。
理論問題の答案構成としては、「起承転結」が良いという意見もあります。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40584
会計士の試験でも、昔は、1,200文字×2問だったので、「起承転結」のパターンで答案を作成することがありました。
最近は、600文字×4問なので、「転」の段階、すなわち、「あえて少数説を書いた上で、これを攻撃する」といった段階は省略します。

まず、次のように、問題提起を行います。
株券発行会社の場合、株式の譲渡は、株主名簿の名義書換えを受けない限り、当該株券発行会社に対して主張することはできない(130条2項、1項)。この株主名簿の確定的効力が、株主名簿の名義書換を会社が不当に拒絶した場合にも認められるかが問題となる。

次に、制度趣旨と本問へのあてはめです。
ここで、株主名簿に確定的効力が与えられているのは、会社と株主との間の法律関係を画一的に処理することで、会社の事務処理の便宜を図るためであることからすれば、名義書換を会社が不当に拒絶した場合にまでその確定的効力を認めるべきではない。本問では、代表取締役Aが株主Bの発言力を抑制するために、故意に名義書換を放置しており、不当な拒絶といえる。

最後に、結論です。
従って、株主Bは、Cから譲り受けた30株について、自己が株主であることを甲会社に主張することができるため、甲会社に対する配当金の支払い請求は認められる。

以上が、答案の核となる部分ですが、「少し、答案スペースが余りそう」と感じたら、例えば、「株券発行会社において、株券を交付して株式を譲渡しているため、当該株式譲渡はBとCの間では、有効である(128Ⅰ)。 」といったことに言及していきます。
ただ、こういったデコレーションは、やり過ぎると、論点のぼやけた答案になっていくので、注意して下さい。
長年にわたって、大手専門学校で答練の採点もやりましたが、賢い人ほど、シンプルな答案を作成しています。

 

問題2  株式譲渡を条件に、譲渡対価とは別に、排除したい株主へ現金を贈与した。当該贈与は120条1項の利益供与に該当するか。
事例問題なので、問1と同じように展開していきます。

まず、問題提起です。
本件の問題点は、株式の譲渡を条件に行われた財産の贈与が、120条1項のいう、「株主の権利の行使に関し」行われたかにある。

次に、制度趣旨と本問へのあてはめです。
Bは、全株式を譲渡することで、株主としての権利を行使できなくなるため、本件贈与は、「株主の権利の行使に関し」行われたものではないと解することもできる。しかし、当該贈与は、名義書換を不当に拒絶されたことでAに攻撃的行動を繰り返すことなった株主Bを会社から排除する目的で行われており、これを認めると、会社財産を利用して、自己に都合の悪い株主を排除できることとなり、会社運営の健全性が害される結果となる。
思うに、本条項の趣旨が、会社財産の浪費防止と、会社運営の健全性確保にあることからすれば、株主Bに株式の全部を譲渡させ、株主としての権利を奪うことも、「株主の権利の行使に関し」て行われたと解するべきである。

最後に、結論です。
従って、本件贈与は,120条1項が禁ずる利益の供与に該当すると考える。

 

2017
第2問
問題1  子会社丙が行った金融取引によって子会社に5億円の損失が生じた。これにより生じた子会社株式の評価損に対して、親会社役員は損害賠償責任を負うか。

まず、問題提起です。
本件では、子会社が行った金融取引に起因して生じた評価損に関し、親会社取締役Aらが423条1項の任務懈怠責任を負うかが問題となる。

次に、要件へのあてはめです。
本条項の責任を負うためには、取締役の故意又は過失による任務懈怠があり、当該任務懈怠と会社に生じた損失との間に相当因果関係があることが要件とされる。
ここで、乙会社は公開会社であり、取締役会設置会社であることから、子会社の業務の適正を確保するために必要な内部統制の整備について決定しなければならない(362条4項6号)が、取締役Aらは内部統制を整備しないまま、Dに丙会社の経営を任せきりにしていたことから、少なくとも過失による任務懈怠があったといえる。そして、内部統制が整備されていないことに乗じて、Dが行った高リスクの金融取引により、乙社保有の丙社株式に評価損が生じたため、任務懈怠と損失の間に因果関係があったといえる。

最後に、結論です。
従って、Aらは、乙会社に対して、423条1項の損害賠償責任を連帯して負うことになる。

423条の任務懈怠責任は、繰り返し、繰り返し出題されていますね。

 

問題2  子会社丙の代表取締役Dは、丙会社に対して損害賠償責任を負うこととする。親会社乙の株主Eがこの責任を追及する方法を説明しなさい。

まず、論点が847条の3にあることを示します。問題提起の形式でも構いません。
親会社は、株主代表訴訟により子会社役員等への責任追及ができる(847条1項)。しかし、親子会社間の馴れ合いにより、株主代表訴訟に至らない可能性がある。このため、子会社の役員等の任務懈怠により子会社に損害が生じ、その結果、親会社にも損害が生じる場合には、一定の親会社株主が子会社役員等の特定責任を追及できることとされている(847条の3)。

次に、要件へのあてはめです。
ここで、提訴権者の要件は、6ヶ月前から引き続き、最終完全親会社等の総株主の議決権の100分の1以上の議決権、又は最終完全親会社等の発行済株式の100分の1以上の株式を有する株主とされている(同条1項)が、Dは、2年前から引き続き、最終完全親会社等である乙会社の総株主の議決権の100分の3の議決権を有していることから、提訴権者の要件を満たしている。
また、特定責任とは、責任の原因となった事実が生じた日において、最終完全親会社等及びその完全子会社等における当該子会社株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超える場合における当該発起人等の責任をいう(同条4項)が、乙会社の丙会社株式の帳簿価額10億円は、乙社の総資産額30億円の5分の1超であり、特定責任に該当する。

最後に、結論です。
よって、Eは、丙会社に対し、特定責任追及の訴えを提起することを請求でき(847条の3第1項)、請求から60日以内に丙社が提訴しない場合には、Eは自ら特定責任追及の訴えを提起できる(同条7項)。

この第2問  問題2の答案スペースは、14行なので、560字~630字です。
上の解答例で、約620字になります。
30分で600字というのが標準的なペースなので、まず、「600文字を書くだけで何分かかるのか?」を把握して下さい。
そこから、逆算した時間を「答案構成に何分、条文検索に何分、見直しや修正に何分かけることができるのか?」に振り分けて、自分なりの時間配分を計画しておくことが重要です。

Part.1は以上です。