日商簿記1級 156回 商業簿記会計学講評

 

商業簿記

第1問:純資産の部

剰余金の配当、自己株式の取得・売却、ストック・オプションの費用計上の部分については適切に処理したいところです。

積立金方式の圧縮記帳が、特に特に難しかったと思います。200%定率法が適用されているので、まず自ら償却率0.25(=1/8年×200%)を算定し、この償却率に従って圧縮積立金を取り崩しているとして処理しなければなりません。しかも税効果会計も適用されているので税引後で処理する必要もあります。

新株予約権の権利行使では、自己株式と新株が同時に交付されています。自己株式処分差益はその他資本剰余金とし、自己株式処分差損は新株への払込から控除するという非対称的な処理が必要になります。①権利行使された新株予約権と払込額の合計を、②自己株式の処分の対価と新株への払込額に株式数で配分してから、③自己株式の処理を先に行うという手順で練習していれば正しく処理できたと思います。ただ、問題文に「自己株式処分差損は資本等増加限度額から控除」と親切な指示があるので、誤ってその他資本剰余金をマイナスすることはなかったはずです。

第2問:連結財務諸表(損益計算書のみ)

資本連結が不要なため、かえって難しさを感じたかもしれません。

ポイントは、子会社の建物と商標権の時価評価後の償却計算に修正(原価ベースから時価ベースへ)が必要な点、内部取引の相殺に当り、親会社から仕入れた商品の一部が子会社で広告宣伝費とされた額を内部利益が含まれない額(3万円→2.1万円)にする必要がある点です。

また、T社の取得の際に支払われているコンサルティング会社への支払手数料は、「さらに」支払われているので、取得対価の1,000,000千円には含まれていないとして処理すべきでしょう。過去の類題では取得対価に含めていた問題があったのでこれと混同してしまった方もあったかもしれません。


商業簿記が2問形式なのは珍しい出題形式です。その分総合問題のボリュームが控えめでしたが、引っかかりどころが多く難しかった印象です。

会計学

第1問:理論穴埋め

「賃貸等不動産」は時価の注記に係るもので、特に会計処理には関わらないため、学習外としていた場合も多いはずですので、ここは言葉が出てこなくとも仕方ないと思います。

第2問:有価証券

保有目的の変更が3銘柄も含まれていました。原則は変更前の保有目的での評価を確定させてから変更後の保有目的での評価に移ります。具体的には、B社株式は売買目的有価証券としての評価損益を確定してからその他有価証券とします。G社株式は関係会社株式なので取得原価のままその他有価証券に振り替えます。注意が必要なのはその他有価証券からの保有目的の変更ですが、E社株式はその他有価証券が追加取得により関係会社株式となっているものの、厄介な「部分時価評価法+前期末の時価評価により評価損」という条件にあてはまらないので、取得原価で関係会社株式に振り替れば良いだけです。

C社社債は外貨建の満期保有目的債券ですから円換算が必要になります。償却原価法適用後にCR換算が求められます。うっかりHR換算のままとしないよう注意が必要です。

第3問:理論の正誤問題

特に難しいところはなかったので正答したい問題です。

(1)利息と配当金のキャッシュ・フローの記載区分は2通りからの選択です。a.の投資活動によるキャッシュ・フローが誤りです。損益認識される受取利息・配当金と支払利息を営業活動、支払配当金を財務活動とする区分です。

(2)資産除去債務の記述に誤りはありませんでした。無理に誤りを探そうとして、かえって難しいかもしれません。

(3)減損損失の回収可能価額の選択は、経営合理性の観点から正味売却価額と使用価値のいずれかc.低い方ではなく高い方ですね。

(4)退職給付会計では、個別財務諸表上と連結財務諸表上の表示科目が異なります。連結財務諸表上はc.退職給付引当金ではなく退職給付に係る負債という科目になります。

(5)a.所有権移転ファイナンス・リースではなく、所有権移転外ファイナンス・リースの会計処理の説明でした。


会計学は理論比率が高い代わりに、計算の難易度が少し高めでしたが、有価証券という最重要分野からの出題ということも有り、大きく失点することはなかったのではと思います。

以上です。