第71回 税理士試験 講評~簿記論

例年通り、時間内に解ききれない問題量でしたが、第3問の総合問題は例年よりもボリュームが控えめで解きやすかった印象です。第1問が相対的に難易度が高く、出鼻を挫かれてペースを乱されなかったか心配です。以下、問題毎に講評していきます。

第1問

問1:個人企業

損益勘定と残高勘定の空欄補充をする総合問題でした。個人企業といっても、解きなれている一般企業と共通する項目も多いので、丁寧に仕訳を起こしていけば大方が埋まったはずです。見慣れない問題ですし、掛売上高や掛仕入高を差引で算出する当りが手間を要するので、受験上は後回しでも良かったかも知れません。

問2:割賦販売

割賦売掛金に含まれる利息要素を、重要な金融的要素として収益認識から除くという「収益認識基準」を適用した問題でした。売り手側の処理ではリース取引の貸手の処理を、買い手側の処理ではリース取引の借手の処理を対応させて考えると処理しやすかったと思います。販売時の180,000の受払いがなければより解きやすかったのですが、リース料の前払として考えることもできなくはないですね。

受験生によって出来不出来に差が出るタイプの問題でしたが、少なくとも半分は正答したい問でした。

第2問

問1:固定資産

自家建設、交換、総合償却について仕訳が問われました。それぞれの仕訳が独立しているので、簡単なところ(機会Cの除去以外)をさくっと解いて次に、という問です。

自家建設は取得原価に算入する利息の計算期間(稼働前まで)に注意が必要です。同一種類・同一用途の備品の交換は帳簿価額を引き継ぎます。総合償却は平均耐用年数を求めて総合償却費を算定するまでは出来てほしいところです。

問2:連結会計

土地の評価差額に対する税効果会計、子会社株部式の一部売却を論点とする問題でした。日商1級合格レベルの受験生の平均が7割、会計士短答合格レベルの受験生の平均が8~9割程度となるような難易度です。
税理士事務所のクライアントで連結会計を導入している企業はごく僅かなので、本試験で出題されるのが不思議な気もしますが、少なからず出題実績があるので、他の受験生に負けないくらいには学習しておく必要があります。FINでは、会計士講座と共通の連結会計テキストを使用しているので、ややオーバースペックとなりますが、取捨選択しながら教材を活用することで、しっかり得点できるようになるはずです。

第3問:本支店会計を含む総合問題

本支店合併前の決算整理後残高試算表の金額を求めるため、本支店会計らしい箇所はあまりありません。時間の制約があるので、支店に絡まない箇所を優先して解いていくのも一つの方法かと思います。ただし、全体として例年よりも簡単でしたので、第1問や第2問で手応えのない場合は、より多く時間を割く価値はあったかもしれません。

  1. 現金預金では、現金が金庫の保管高で求められますし、当座預金のうちX銀行が当座借越であることから、すぐに3箇所が求まります。
  2. 本支店間取引では、在外支店のため円換算が必要な点、内部利益控除が必要な点に注意します。本店の帳簿上は支店損益のみを受け入れるとあるので、支店の処理をまるごとスルーしても本店T/Bに影響するところは少ないですね。
  3. 商品でも本店だけ考えるならば期末評価もシンプルですから、T/Bの繰越商品も商品評価損も容易に求まります。
  4. 債権債務では、珍しく外貨建買掛金の為替予約が独立処理になっています。デリバティブとして期末時価評価をするだけですから、損益が逆転しないようにだけ注意すれば問題なしです。
  5. 有価証券は、H社株式・I社株式については間違えられないですね。ゴルフ会員権は預託保証金よりも時価が低いので、まず預託保証金まで減損処理して、時価までは預託保証金の貸倒扱い(貸倒引当金の設定)になります。これは出来なくてもいいかもしれません。
  6. 有形固定資産は、保険差益の圧縮記帳、リース取引が含まれています。圧縮記帳は直接減額方式なので簡単です。リース取引はセール・アンド・リースバックですが、所有権移転外ファイナンス・リースなため、リース資産・リース債務をリース料総額のPVと貸手の現金購入価額である売却額との比較で求める必要があります(しかもPVが選択されます)。このプロセスを省いてしまうとその先の処理が無意味になってしまうので要注意です。
  7. 投資不動産は、減損の兆候はあるものの減損処理には至らないため、減損認識の判定さえできれば簡単でした。
  8. 借入金には金利スワップが組み合わされています。しかし、特例処理が適用されているので、期末に何の処理も必要なく、利息の計算だけで済みます。貸方でも支払利息勘定を用いることだけ忘れないようにしましょう。
  9. 社債では買入償還の処理の際に、償却原価で償還すること、端数利息(指示により月割)を償還損益に影響させないこと、に注意します。
  10. 債権の貸倒は、貸倒売掛金が回収できているので、前期貸倒処理分だけ償却債権取立益にします。
  11. 税効果会計や法人税等は、例年の第3問であれば欲張らない箇所かと思いますが、第1問、第2問の個人企業・割賦販売や連結会計を回避気味な場合は、こちらに手間を掛ける価値はありそうです。

以上です。