令和4年度公認会計士短答式試験講評~管理会計論

令和2年第Ⅱ回 管理会計論 短答式本試験の講評です。
今回もいつも通り16問が出題され、理論8問、計算8問という内訳でした。計算では、難しい計算問題が2問出題され、その他に作問ミスが1問ありました。
難問2問への配点15点を失うのは仕方がないので、できるだけ時間をかけずに他の問題に移行しておきたかったところですが、この2問に関しては、難問の匂いがプンプンしているので、賢明な受験生は直ぐに手を引くことができたと思います。
心配なのは、作問ミスの問題に足を引っ張られなかったかです。作問ミスがあったのは、問題2で、計算問題の最初の問題ということもあって、7~8分投入してしまった受験生が多かったはずです。
実は、過去に何度となく皆さんをいたずらに悩ませてきたのが、計算問題の1問目です。つまり、歴代の本試験の作問者達は、費目別の作問が苦手です。そういった経験則を知っていれば、問題2からも早めに手を引けたはずです。

詳しい解答・解説はこちらからどうぞ。

問題1:帳簿**(理論)

何をして良いのか解りづらい問題なので、初見の受験生は出鼻をくじかれてしまったかも知れません。実は、2005年や2010年にも同様の問題が出題されています。この手の問題は、コツを知っていれば1~2分で解けるので、講義では10分ほど費やして丁寧に解説しています。計算科目では、特徴的な過去問をオマージュした問題が定期的に出題されます。こういった問題の対策を怠らず、きちんと準備しておけば、短時間で正答でき、大きなアドバンテージを築くことができます。

問題2:費目別計算(計算)

本問は「解なし」です。仮に、「直接工賞与」の全額を直接労務費とし、「直接工賃金」を直接作業賃金と読み替えれば、3.が正答になります。しかし、原価計算基準に準拠するならば、「直接工賞与」は間接労務費ですし、「直接工賃金」のうち、直接作業時間分だけが直接労務費で、間接作業賃金や手待賃金は間接労務費になります。古くからそのように理解してきた蓄積があるので、作問ミスであることは明かです。計算問題の1問目ということもあって、受験生にとっては迷惑な問題でした。問題10や問題14のように、受験校の講師では思いつかないような高いレベルの作問ができているだけに、作問者としては後悔の残る一問となったことでしょう。

問題3:個別原価計算**(理論)

ア. は、「個別原価計算においては、多数の製品があるときにその全てがカスタム・メイドで異質の製品である状況が想定される。」とありますが、「カスタムメイド(特注)」よりも、「オ-ダーメイド(受注)」とする方がしっくりしますし、イ. にしても「ジョブとは、別個の識別しうる製品ないしサービスを市場に提供する上で、資源消費の対象となる仕事を意味する。」とありますが、「本当にこのように定義づけられているかなぁ?」といった疑念を持ってしまいます。
ただ、ウ. はロット別個別原価計算の存在からすればす、明らかに「誤り」ですし、エ. は「原価計算基準」からの出題ですが、基準32で「予定発生額」といった文言が使われていなかった印象は持てたと思います。

問題4:部門別計算 ~ 階梯式配賦法***(計算)

本問は、「誰でも正答できるようにする」という確固たる意思のもとで作問されています。
本試験の計算問題は、毎回、難易度の差が大きく区別されて出題されます。今回は、問題4・6・7の3問が「簡単」な問題です。
簡単といっても、本問は階梯式配賦法ですから、補助部門の順位付けを行う必要があり、本問のように指示がない場合には、まず、「他の補助部門に対する用役提供先の数」で判定し、同数のものは、「補助部門費の金額」で判定する、ということくらいは覚えておく必要がありました。

問題5:総合原価計算 ~ 原価計算基準***(理論)

「原価計算基準」の24~27です。基準の克服は、穴埋め問題集を利用するのが効率的です。

問題6:累加法による工程別実際総合原価計算***(計算)

本問も誰でも正答できるようにという意思のもとで出題されています。受験生は、そういった作問者の期待に応える必要があります。
仕損は終点発生で、負担関係は進捗度に応じて判定ということなので、完成品のみ負担となります。第1工程完成品210,000kgに10,000kg分の仕損費を負担させ、第2工程では100kgを1個として受け入れるので、2,100個を受け入れたと考えます。

問題7:標準原価計算 ~ 差異分析***(計算)

簡単な問題です。

問題8:原価差異の会計処理 ~ 原価計算基準***(理論)

「原価計算基準」47の原価差異の会計処理に関する正誤問題です。

問題9:管理会計の基礎知識**(理論)

ア. アンソニーによる「組織の経営管理プロセス」という頻出分野です。どこの専門学校でも取り扱っているはずですが、仮に知らなくても、字面から、戦略策定はトップマネジメントが、経営統制はミドルマネジメント以上が、業務統制はロワーマネジメントが担うことは容易に想像できたはずです。
イ.  類似の過去問がいくつかあります。PDFの解説に2011年第Ⅰ回の印象的な文章を入れておきました。
ウ.  SWOT分析は経営学で学習します。経営学が未学習の方にとっては、知らない論点です。経験則として、「知らない論点は、『正しい』を選択しておけば正答できる可能性が高い。」というのも頭に入れておきましょう。
エ.  バランスト・スコア・カード(BSC)は、かつては試験範囲に明示されていましたが、今は除外されています。にもかかわらず、出題は続いているという不思議な論点です。受験生にとっては負担となりますが、出題される以上、テキストにも収録して講義動画もお届けしています。
非財務の業績評価指標が向上してから、財務的な業績評価指標が向上するまでにタイムラグがあるというのは周知のことで、「実際に業績評価するにあたっては、当然にそのタイムラグが考慮されるだろう。」というのが自然な発想ということになりそうです。

問題10:業務的意思決定 ~ 最適プロダクト・ミックスの決定**(計算)

グラフ法で解こうとしても、解けそうにないので、一巡目では直ぐにあきらめて次の問題へ移行するのが賢明でした。もし、時間が余って、二巡目で本問に戻ってきたら、両製品ともに最大販売可能量まで生産できないかを試してみるべきでした。本問の場合、それが可能だったため、正答できる可能性があった問題といえます。
時間的制約が厳しいという短答式試験の対策としては、本問のように試行錯誤が必要な問題は復習しなくても大丈夫です。ただ、論文式の受験生は、復習しておいた方が良いでしょう。

問題11:予算管理**(理論)

ア.  予算が「利益管理」のツールであることは、非常に有名な論点です。
イ.  標準原価差異分析で学習する「例外管理」と同様の論点です。
ウ.  ボトム・アップ方式が問われていますが、「予算ゲーム」とか「予算スラック」というワードと結びつけて、「全社的な計画との整合性を持つよう各部門の活動を調整することは困難である。」と判断できたはずです。
エ.  ローリング方式という予算の編成方式も周知のものですが、これが「継続的予算」と呼ばれているかは確信が持てなかったかもしれないです。ローリング方式の内容からすれば、継続的予算と呼ばれていても不思議ではなさそうです。

問題12:管理会計の基礎知識***(理論)

ア. 「ゼロルック(企画段階)VE」、「ファーストルック(開発段階)VE」、「セカンドルック(生産段階)VE」は、頻出論点なので、正答が必須です。
イ.  原価企画が「プロダクトアウト思考」ではなく、「マーケットイン思考」であることは基本論点です。
ウ.  ベンチマーキングが「優良事例を探し出して分析し、それを指標に自社の活動を測定・評価し、変革を求める経営手法」であることも基本論点です。
エ. マイルストーン管理は、広く一般に用いられる管理手法なので、原価企画の場面でのみ用いられる手法というわけではありません。その点、やや違和感は感じますが、「ざっくり正しい」という判断でよいでしょう。

問題13:活動基準原価計算(ABC)**(計算)

今回の計算は、簡単なのが問題4・6・7の3問、中程度が問題13・16の2問、難しいのが問題10・14でした。本来であれば、問題2も中程度の問題となるはずでしたが、残念ながら作問ミスで「解なし」でした。
管理会計論の理論問題ではあまり差はつきません。もちろん、簡単な計算問題でも難しい計算問題でも差はつきません。従って、受験生は、問題13や16のような中程度の問題を仕留めることができるかで合否が決まることを肝に銘じるべきです。
本問で求めるのは、製品Bの単位あたり売上総利益ですから、製品Bの販売量の情報が必要です。そのためには、製品Aの売上総利益から、売上高基準で計算する製品Aの管理活動原価を逆算し、さらに、この製品Aの管理活動原価から製品Bの売上高を逆算し、製品Bの販売量を求める、といった解答への手順を頭の中で組み立てる必要があります。そういった能力があるかを試されるのも短答式試験の一面といえるでしょう。

問題14:差額原価収益分析*(計算)

今回の本試験では、本問が最も難しい問題でした。その類題が直後の論文式本試験に出題されたことがあるので、論文受験者には短答式本試験の難問を解くことを薦めています。しかし、本問については、このまま論文式本試験に出題されて、30分の持ち時間が与えられたとしても、正答できるのは、論文合格者の10%にも満たないようなレベルの難問です。従って、復習する必要はありません。

問題15:分権組織の管理会計***(理論)

ア. インベストメント・センターの事業部長には、利益だけでなく、投資に対する責任と権限も委譲されています。従って、その事業部長の業績は、投資額と利益の複合的指標で評価されます。このとき、その代表的な指標であるROIで事業部長の業績を評価すると「部分最適化問題」が生じてしまいますが、「業績評価指標をRIに変更することで部分最適化問題を解消できる。」という基本論点を確認する問題でした。
イ. 設定される内部振替価格の大きさによって、各事業部で計算される利益が変動するため、内部振替価格を幾らに設定するかは、各事業部長の利益最大化行動に直接的な影響を与えます。そこで、内部振替価格は、①各事業部長の意思決定の結果が全社利益の最大化に誘導されるような価格であること、さらに、②本部が各事業部長の業績を公平に評価できるような価格であることが望ましい、とされています。
ウ. 集権化されたピラミッド型組織には、「現場の情報がトップマネジメントに伝達されるまでに時間がかかったり、歪められたりする。」といった問題点があります。これも基本論点です。
エ. 「異なる目的には異なる原価を」という有名な言葉があります。事業部の業績指標と事業部長の業績指標とでは、その利用目的が異なります。事業部自体の業績指標は、その事業部への追加投資や事業分野からの撤退といった全社的意思決定に利用されるのに対し、事業部長の業績指標は、事業部長の経営手腕を測定するのに利用されます。「異なる目的には異なる利益を」といったところでしょうか。

問題16:取替投資の経済計算**(計算)

典型的な取替投資の問題です。計算要素の計上漏れを回避するために、まず、ダックスフントがひっくり返ったようなタイムテーブルを下書き用紙に書いて、次に、問題文を読みながらタイムテーブルに数字を埋めていくのが良いです。