令和4年度第2回公認会計士短答式試験講評~企業法

令和4年 第Ⅱ回 公認会計士短答式試験 企業法の講評です。
企業法の出題内訳は、商法総則商行為2問、会社法16問、金商法2問でした。これは、いつも通りです。
会社法16問の内訳は、設立1問(2問)、株式2問(2問)、機関7問(6問)、計算等2問(2問)、持分会社0問(1問)、資金調達等1問(2問)、組織再編等3問(1問)でした。
括弧内がスタンダードな出題数です。今回は、それよりも、設立、持分会社、資金調達は1問ずつ少なく、逆に、機関は1問、組織再編等は2問多かったです。
組織再編等の出題は1問がスタンダードで、2020年第Ⅱ回でも2問出題されていましたが、3問も出題されたのは想定外でした。ただ、3問中2問は難易度が高く、合否に影響はなかったと考えています。
試験傾向が変わっていくわけではないでしょうから、次回以降もスタンダードな問題数を想定して学習すると良いでしょう。
以下、各問毎に講評していきます。

問題1:名板貸し**

2015年第Ⅰ回第1問でほぼ同じ内容の問題が出題されています。
今回、問われたのは、① 名板貸人と名板借人の営業の同種性、② 重大の過失による誤認、③ 黙示の許諾、④ 不法行為に対する責任ですが、これら4つの論点とも2015年の本試験で問われています。
判例問題ですが、講義でも取り扱っている過去問の類題であることからすれば、正答を期待したい問題でした。

問題2:商行為**

匿名組合、仲立人、問屋、運送人について問われました。基本的な条文ベースの問題なので、すべて講義で取り扱っている内容でした。最初の2問を正解して、気持ちよくスタートして貰いたいということもあって、商法総則・商行為のテキストを改訂したばかりで、功を奏した結果となって良かったです。

問題3:設立時募集株式の引受人***

設立関連の条文は複雑で、嫌な分野ではありますが、今回のアとイが基本論点で、「誤り」なのが明らかでした。

問題4:株主の権利**

本問では、主人公となる会社を「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定める株式会社」に限定していました。そうすると、監査役は置かれていますが、監査の範囲を会計に関するものに限定しているため、「監査役設置会社」にはあたらないことになります(会社法2条9号)。また、定款でこのような規定を設けることができるのは、「非公開会社」です(389Ⅰ)。
会計限定の監査役を設置している会社が「監査役設置会社」ではなく、かつ、「非公開会社」であることは、テキストでも確認できますが、直近10回分の過去問まで遡ってみても、冒頭で同様の制約をおいた問題はないので、戸惑った受験生も多かったと思います。
例えば、ア. の文章の「取締役会の招集を請求した株主は,当該請求に基づいて招集された取締役会に出席し,意見を述べることができる。」というのは、重要条文367条4項の文言なので既知ですが、問題文の冒頭に色々と制約が与えられていたので、「×」と判定してしまった受験生も多かったはずです。また、イ. にしても、「回復することができない損害が生ずるおそれ」が要件とされるのは監査役設置会社の場合で、本問のように監査役設置会社でない場合は「著しい損害が生ずるおそれ」へと要件が緩和されていることや、本問は非公開会社なので、360条1項にある、6ヶ月保有の要件も不要となります。このように、細かい知識が要求されるため、初学者には、難しい問題だと思います。

問題5:単元株式**

イ. は190条の条文通なので「○」、エ. は、議決権のない単位未満株主に株主総会の招集通知を発する必要がないのも容易に想像できるので「×」、というのは易しいです。これに対し、ア. の「法定の要件を満たす場合には」というのは、曖昧な表現ですし、ウ. は「単元未満株主は、株式会社に対し、自己の有する単元未満株式を買い取ることを請求することができる。」という192条1項が強行規定なのか任意規定なのかによって結論が変わってきそうで、自信の持てないところです。ただ、弱者救済の規定は強行規定とされるので、定款をもってしても、単位未満株式の買取請求権を否定することができない、と判定するのが読み筋でしょう。

問題6:株券**

ア. 種類株式発行会社が特定の種類株式についてだけ株券を発行することはできない(214)は、基本論点です。

イ. 株主名簿(121)と株券(216)の記載事項については、受験上、押さえておくべき論点です。株券には、株券発行会社の代表取締役(指名委員会等設置会社にあっては,代表執行役)が署名し,又は記名押印する必要があるというのも、基本論点といえそうです。

ウ. 「株券発行会社の株主は、当該株券発行会社に対し、当該株主の有する株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。」という217条1項の条文は、誰しもが知っているところです。ところが、本問では「公開会社である株券発行会社の株主は、・・・」というのが書き出しだったため、「公開会社の場合は、株券の不所持は不可だっけ?」という疑問がわいてきます。公開会社であれ、非公開会社であれ、株券不所持制度の対象ですが、作問者は、皆さんを混乱させるために、故意に、文頭に「公開会社である」という文言を加えています。これも落とし穴のパターンの一つです。

エ. これは、224条(名義人等に対する通知)2項そのままです。ただ、細かな規定なので、テキストでは取り扱っていませんでした。

問題7:株主総会***

取締役会非設置会社を前提とした問題です。なので、株主総会が万能の意思決定機関として一切の事項を決議できるので、ア.は「○」、ウ. は「×」というのは容易な判定です。2択までは絞れますが、ここからは少し難しかったかも知れません。エ. については、議決権の不統一行使の許否を取締役会で検討する取締役会設置会社では、3日前までにその通知が必要とされていますが、取締役会非設置会社では事前通知が不要とされています。イ.はもう一段階難しく、取締役会非設置会社は非公開会社であることから(327Ⅰ)、3/100以上の議決権を保有していれば、株主総会の招集請求権が認められ、6ヶ月間の保有要件は不要である(297Ⅰ、Ⅱ)ことを確認させています。

問題8:株主総会の議決権の代理行使***

ア. ~ ウ. は、310条のみで正誤判定できます。エ. については、とても有名な判例絡みの論点ですが、論文用のテキストでしか取り扱っていません。短答教材の学習が一通り終わったら、総合コースの方は、論文用の教材にまで手を広げるようにして下さい。

問題9:株主総会の議事***

ア. の議長の権限については、「秩序を乱すものを退場させることができる。」なんていう印象に残る条文ですし、エ. の「親会社社員が裁判所の許可を得て、株主総会や取締役会の議事録の閲覧又は謄写の請求ができる。」というのも基本論点です。

イ. の316条も条文通りですし、ウ. については2017年第Ⅱ回でほぼ同じ問題が出題されています。
従って、本問は正答したい問題でした。8264

問題10:取締役の報酬**

重要条文である361条からの出題です。
ア. 監査等委員である取締役の報酬等は、監査役と同様に独立性を確保する必要があるため、監査等委員の報酬とは区別して、株主総会の決議で定めることとされています(361Ⅱ)。周知の論点です。

イ. とウ. は、どちらかが「○」で、もう一方は「×」になるという、たまにあるパターンです。まず、思い出したいのは、監査等委員である取締役に関する規定は、監査役の規定とリンクしているので、株主総会において、監査役が監査役の報酬等について意見を述べることができる(387Ⅲ)のと同様に、監査等委員である取締役は、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができます(361Ⅴ)。個人が個人の報酬について意見を述べることができるわけですが、イ. では、「監査等委員会の意見」とされている点に違和感を感じる必要があります。また、取締役には、監査等委員ではない人たちもいるわけですが、その人達の報酬については、ウ. にあるように、監査等委員会の意見を監査等委員が述べることができるとされています(361Ⅵ)。従って、イ. は「×」、ウ. は「○」ということになります。

エ. については、細かな規定なので正誤判定できなくても仕方がないですが、取締役の報酬の透明性を高めるために、監査等委員会設置会社等においては、取締役の個人別の報酬等の内容の決定に関する方針を取締役会で決定する必要がありますが、監査等委員である取締役の報酬は対象外とされています(361Ⅶ)。

問題11:特別取締役による取締役会***

ア. 指名委員会等設置会社は取締役会の迅速な意思決定が可能な機関設計となっているため、特別取締役による取締役会によって迅速な意思決定を図る必要がありません(373Ⅰ)。

イ. 特別取締役による取締役会によって迅速な意思決定を図る趣旨と整合しないため、株主に招集請求権はありません。

ウ. 特別取締役による取締役会決議の他の取締役への報告義務(373Ⅲ)とエ. 監査役の特別取締役による取締役会への出席義務(383Ⅰ)です。特別取締役による取締役会の機動的な開催、迅速な意思決定という制度趣旨から派生する内容です。

問題12:会計参与***

会計参与の権利は、計算書類を作成・報告する過程で必要なものか、という観点から考えると判断しやすいと思います。

ア.イ. 会計に関する報告は「いつでも」求められます(374Ⅱ)が、業務及び財産の状況の調査は「職務を行うため必要があるとき」であれば求められます(374Ⅲ)。

ウ. 会計参与は計算書類を作成する者ですから、監査・監督機関である監査役のような取締役会の招集請求権はありません(383Ⅱ)。

エ. 会計参与は計算書類を作成する者として株主総会での意見陳述権があります(377Ⅰ)。

問題13:公告(公開会社かつ大会社)*

会社計算規則136条の注記事項です。これを判別するのは不可能だと思います。

問題14:資本金及び準備金**

資本金・準備金を減少する場合の債権者の異議申立てについての正誤判定です。

ア.イ. 資本金の額を減少する場合は、必ず債権者異議手続きが必要です(449Ⅰ)。

ウ. 準備金の資本組み入れはむしろ債権者保護になるので、債権者異議手続きは不要です(449Ⅰかっこ書き)。

エ. 定時株主総会での欠損填補のための準備金取崩の場面です。既に生じている欠損を填補するためであれば、債権者異議手続きは不要なはずです(449Ⅰただし書き②)。

問題15:社債権者集会***

ア.イ. 株主総会と異なり(359Ⅰ)、裁判所に社債権者集会の招集は認められていません。社債権者集会の招集権者は、社債発行会社・社債管理者、一定の社債管理補助者・社債権者です(717ⅡⅢ.718ⅠⅡⅢ)

ウ. 社債権者には、議決権の代理行使(725)、書面投票(726)、電子投票(727)、不統一行使(728)が認められています。

エ. 社債権者集会の決議の効力発生には裁判所の認可が必要なため(734Ⅰ)、決議取消しの訴えのような特別の訴えの制度は設けられていません。

問題16:事業譲渡等***

ア. 子会社の議決権の過半数を失うような子会社株式の譲渡は、子会社を通じて親会社が行っている事業の重要な一部の譲渡と実質的に異ならないとして会社法上の事業譲渡等に含まれます(467Ⅰ⑤)が、譲渡後も子会社を支配できている子会社株式の譲渡は事業譲渡にはあたりません。

イ. 事業全部の譲受は会社法上の事業譲渡等に含まれます(467Ⅰ③)が、一部の譲受は含まれません。

ウ. 略式手続きの規定です(468Ⅰ.467Ⅰ)。

エ. 事業譲渡は取引法上の行為であるので、組織再編のような特別の訴えの制度は設けられていません。

問題17:組織再編の反対株主の株式買取請求*

ア. 株式買取請求の価格決定についての規定です(786Ⅱ)。

イ. 協議期間満了後から利息を算定します(786Ⅳ)。

ウ. 判例では株式買取請求日を基準日としています。

エ. 企業価値増加のある場合はシナジー効果を含んだ価格が「公正な価格」とされています。

細かすぎる内容、判例であり受験上はパスで問題ないでしょう。

問題18:株式交付*

ア. 株式交付は親子会社関係の創設を目的とするため、効力発生後の議決権割合として過半数が求められます(774の3Ⅱ)。

イ.エ. 株式交付子会社は株式交付の当事者ではないので、株式交付計画の承認(816の3Ⅰ)や効力発生日の変更(774の9Ⅰ)に関与しません。

問題19:確認書***

確認書の要否(金商法24の4の2.24の4の3.24の4の8)は一覧にしてまとめておきましょう。

問題20:公開買付け*

「発行者による」公開買付けは自己株式取得にあたるため、支配権比率の変動は生じませんが、自己株式取得による弊害があることから利害関係者への情報開示を求めています。

ア.「発行者以外による」場合には新株予約権や新株予約権付社債も対象とありますが、「発行者による」場合は支配権比率の変動は生じないこともあり上場株券のみが対象となっています(27の22の2Ⅰ)。

イ.ウ.エ.「発行者による」場合は、公開買付の対象者と公開買付者が同一なので、意見表明報告書の提出は不要です(27の10は準用せず)が、投資家向けの公開買付説明書の交付、買付条件等の公告・公開買付報告書の提出は必要です(27の9.27の13は準用)。

以上です。