第161回 日商1級 講評 ~ 工業簿記・原価計算

工業簿記は「部品を自製している場合の標準原価計算」、原価計算は「全部標準を前提とする月間の予算編成」でした。
両パターンとも、もう少し難しい問題を答練で出題していたので、集計ミスなどがなければ、合格ラインに届いたはずです。
以下、個別に講評していきます。

工業簿記

「部品を自製している場合の標準原価計算」は、古くからある計算パターンの一つですが、「自製部品Bを自製するために、自製部品Cを消費する。」というのが本問の特徴でした。
また、本問の場合、部品製造部門と製品製造部門の2工程モデルのため、買入部品dを例にとってみても、その標準消費量の計算は2通りの方法が考えられます。
2つのうち、正しい標準消費量は1つだけです。工程別の標準原価計算に共通する論点なので、整理しておきましょう。

計算方法①
製品製造部門における製品YとZの実際生産量は1,900個と1,780個で、それぞれ自製部品Cが1個ずつ必要なので、両製品のためには3,680個(=1,900+1,780)の自製部品Cを消費するはずです。
同様に、自製部品Bの実際生産量4,760個からすると、4,760個の自製部品Cを消費するはずです。
従って、自製部品Cは全部で8,440個(=3,680+4,760)必要ということになります。
そして、自製部品C8,440個のためには、買入部品dが2個ずつ必要なので、
買入部品dの標準消費量は16,880個(=2×8,440)とする。」というのが一つ目の計算です。

計算方法②
製品製造部門における製品YとZの実際生産量は1,900個と1,780個で、この生産のために、実際に自製部品Cを3,700個消費しました。
そして、①と同様に、自製部品Bの実際生産量4,760個からすると、4,760個の自製部品Cを消費するはずです。
従って、自製部品C8,460個(3700+4,760)のためには、買入部品dが2個ずつ必要なので、
買入部品dの標準消費量は16,920個(=2×8,460)とする。」というのが二つ目の計算です。

2つの計算方法による買入部品dの標準消費量の差は、40個(=16,920個-16,880個)です。
差が生じている原因は単純です。
製品製造部門では、製品YとZの生産にあたって、自製部品Cの消費能率が標準よりも悪く、
自製部品Cを20個(=実際3,700個-標準3,680個)余分に消費しています。
自製部品Cには、買入部品dが2個ずつ投入されているため、自製部品Cを20個余分に消費すると、自動的に、買入部品dを40個(=2×20個)消費したことになるわけです。
この買入部品dを40個余分に消費したのは、「製品製造部門が自製部品Cを20個余分に消費したことが起因になっている。」ことからすると、この40個分の差異は、部品製造部門に負担させるべきではありません。
従って、部品製造部門に40個分の消費量差異を負担させないように、「買入部品dの実際消費量16,950個と比較すべき標準消費量は16,920個。」ということになります。
以上から、正しい標準消費量を計算しているのは、計算方法②ということになります。
この点、問5の問題文において、「部品製造部門における標準消費量、標準作業時間の計算は、製品製造部門における自製部品の実際消費量を前提として行うことにより、部品製造部門における差異に製品製造部門における能率の良否が混入しないようにすること。」と指示されています。この「製品製造部門における自製部品の実際生産量」は、自製部品Cの例でいうと、実際消費量3,700個のことです。
本問では、丁寧な指示が与えられていましたが、指示がなくても、本問のように計算します。

もう少し、考えておきましょう。
「買入部品dを40個余分に消費した。」ということですが、この差異を部品製造部門が負担しないということは、製品製造部門が負担しているということでしょうか?
問6の解説を見ても、差異分析のボックス図に買入部品dのものがないので、「買入部品dを40個余分に消費したことによるロス(不利差異)は、製品製造部門でも把握されていないのでは?」と疑問に思う受験生がいるかも知れません。
実は、この差異は製品製造部門が負担しています。
「買入部品dを40個余分に消費した。」といっても、
自製部品Cを20個(=実際3,700個-標準3,680個)余分に消費したため、自製部品Cに投入されている買入部品dも40個余分に消費したことになる。」というのが実際のところです。
従って、問6の解説にある自製部品Cの消費量差異20個(=3,700個-3,680個)に買入部品d40個分の差異が含まれていることになります。
そして、この20個分の不利な数量差に乗じる@10,500円/個に買入部品d2個分の標準原価も含まれているので、自製部品Cの消費量差異の中に「買入部品dを40個余分に消費した」ことによるロス(不利差異)が全て含まれていることになります。

あと、もう一つだけ、検討しておきましょう。
問5の問題文で、「なお、部品製造部門における自製部品Cの消費量差異は、自製部品消費量差異として分離せず、買入部品消費量差異、直接労務費作業時間差異、製造間接費能率差異の中に含めて把握すること。」と指示されています。
この指示は、どのような内容でしょうか?
部品製造部門では、自製部品Bを4,760個生産しましたが、自製部品B1個あたりの自製部品Cの標準消費量は1個なので、自製部品Cの標準消費量は4,760個です。
ところが、実際には、4,770個消費しています。つまり、部品製造部門では、自製部品B4,760個の生産にあたって、自製部品Cを10個余分に消費したことになります。
そうすると、自製部品Cには買入部品dが2個ずつ投入されているので、「買入部品dを20個余分に消費した。」ことになります。
つまり、買入部品dの消費量差異30個(=16,950個-16,920個)には、自製部品Bの生産にあたり自製部品Cを浪費したことを起因とする差異(=自製部品消費量差異)が20個分が含まれていて、残りの10個分が、自製部品Cの生産にあたり買入部品dを浪費したことを起因とする差異ということになります。
このように、差異を原因別に細分析することもできますが、本問では、「原因別の細分析までは必要はない。」と指示していたわけです。

今回紹介した2つの指示の説明は、とても難しく感じたと思います。公認会計士の論文式試験合格レベルの受験生でも、1つ目の指示の内容が理解した上で解答できるのは半数程度、2つ目の指示はほとんどの受験生が読み飛ばすはずです。
ただ、本問の問題文と解答用紙からすれば、この2つの指示がなくても、解答通りに解くことになるので、指示の内容が明確に理解できなくても、「なんとなく解ける。」という状況にもっていきたいところです。
そのために、上記の内容がよく分からない受験生も、以下のことはしっかり頭の中に入れてください。
本問は部品製造部門と製品製造部門に分かれていて、累加法による工程別総合原価計算に全部標準原価計算を組み合わせるという、オーソドックスな前提に立っています。
工程別の場合、例えば、第1工程のSQ、SHを算出するときに、第2工程以降の生産データは一切使いません。
これは、当たり前のように、いつも皆さんが計算している方法ですが、計算方法①は、この当たり前の計算ができていません。
皆さんは、第1工程のSQ、SHを算定するときに、決して、「第2工程以降の生産データを使用して、あるべき第1工程の作業量を算定し、これに標準能率を乗じてSQ、SHを計算する。」といったことはしないはずです。
ところが、本試験で、少し普段と異なる資料が与えられると、計算方法①のような計算を思いついてしまい、「計算方法②の計算とどちらが正しい計算なのか?」と迷ってしまい、頭の中が真っ白になったりすることがあります。
第1工程のSQ、SHの算定は、第2工程以降の生産データとは切り離して行うことを、再確認しておきましょう。

原価計算

第1問「全部標準を前提とした月間の予算編成」第2問「理論の穴埋め」でした。
第1問は典型的な予算編成の練習問題よりはやや平易、第2問の理論も基本的な内容でした。

第1問:全部標準を前提とした月間の予算編成

予算編成の問題は、全部原価計算を前提にしたものと、直接原価計算を前提にしたものとがあります。
直接原価計算を前提としたものは、最適セールスミックスの決定や、営業利益の予実分析といった論点と組み合わされることが多いです。
それに対し、今回のような全部標準を前提とした予算編成の問題では、操業度差異の取扱いや、キャッシュフローが論点となることが多く、本問も典型的な問題といえます。ただ、手形の取扱いもありませんでしたし、月末の余剰現金で借入金の返済をするといった論点も含まれていなかったので、比較的解きやすかったはずです。
操業度差異の発生が予定されるという論点は、季節的な需要変動の激しい製品を想定すると分かり易いです。
例えば、傘を生産販売している場合、梅雨時は月間の予定生産量を多く設定し、乾燥する季節は月間の予定生産量を少なく設定するはずです。これに対し、基準操業度は、年間の基準操業度を単純に12で割った操業度なので、月間の予定生産量が多く設定されている梅雨時は「有利な操業度差異」が予定されますし、月間の予定生産量が少なく設定されている乾燥した季節は「不利な操業度差異」が予定されるはずです。
本問では、月間の基準操業度は10,000hですが、2月は8,500hしか操業しない予定なので、1,500h分の不利な操業度差異が予定されることになります。これを月間の売上原価に賦課して、予算P/Lの売上原価とします。問1問2は完答しておきたいですね。
問3の2月末の予算現金残高を間違えると、問4問5も連動して間違えることになります。期首の現金残高に対して加減算を必要とする項目が12ほどあるので、集計ミスが怖い問題です。
問3が正解できれば、問4問5も得点できたはずです。問3~5への配点は、6~8点程度が予想され、得点できた人は余裕で合格点、得点できなかった人は問1問2で取りこぼしていないことが合格への条件となりそうです。

第2問:理論の穴埋め

問1
原価計算基準でも、予定配賦率による計算が原則とされています。
問2
ライフサイクル・コスティングに関する文章なので、「品質コスト」ではないことは明かです。