令和4年度公認会計士論文式試験講評~企業法

令和4年8月21日(日)に実施された論文式 企業法の講評です。
例年通り、大問2が2問、その中に小問が2問ずつ出題され、近年の試験傾向に沿う形で、いずれも現場対応型の事例問題でした。
第1問は機関(取締役)、第2問は組織再編(新設分割)から出題されました。第2問 問題2以外は、論点、必要条文が掴みやすく、比較的書きやすかった印象です。

第1問 :機関(取締役)

問題1:本則的な選任・選定手続きを経ていない代表取締役による借入契約の有効性

解答スペース:18行
必須条文番号:362条2項3号、362条4項2号、(329条1項、295条2項)

問題文を読むと、会社法の本則的な手続きによっていないところが明確に分かるので、次の3点について論述しておけば、無難にやり過ごすことができたはずです。
①Bは株主総会決議ではなく、一人株主Aの指名により取締役に選任されているが、適法に選任された取締役といえるか
②Bは取締役会決議ではなく、一人株主となったBが自ら代表取締役に決定しているが、適法に選任された代表取締役といえるか
③200万円の借入れは、「多額の借財」か
このうち、②については、株主総会によっても代表取締役を選定しうるとの定款規定が有効かが中心論点になります。
この点、立法担当者の見解を紹介しておきます。
「株式会社に関す一切の事項(295Ⅰ)が株主総会の権限となり得ることを前提とし、取締役会設置会社において、定款で株主総会の決議事項とすることのできる事項については、特に制限はない。そのため、代表取締役の選定を、各会社の実情に合わせて、定款で株主総会の権限としても差し支えない。」
大変に心強い結論ですが、論拠について触れられているわけではないので、解答速報では、無効説に触れた上で、「株主総会が代表取締役を選定した場合であっても、取締役会はその解職を議題とする株主総会を招集することで、監督権限の実効性を維持できるはずである。従って、本件規定は有効であると解する。」としています。もっと単純に、362Ⅱ③が代表取締役の選定を取締役会の職務としているのは、合理的な経営のためであって、最高意思決定機関である株主総会への委譲を禁止する趣旨ではない、といった書き方でも構いません。
あとは、一人株主による決定は株主総会決議と同視できること、会社にとって200万円が362Ⅳ②の多額の借財に該当しないことが書けていれば、合格点です。

問題2:正当な理由なく解任された取締役による損害賠償請求

解答スペース:12行
必須条文番号:339条1項、2項

本問が339条2項を論点とする問題で、私怨による解任が「正当な理由」にあたらず、Cが会社に対して損害賠償請求できるという結論も明白です。答案構成としては、339条1項を根拠にしてCの解任が適法であることを示したうえで、339条2項の趣旨から「正当な理由」の内容を説明して本問へあてはめ、さらに、損害賠償額の内容を説明して本問へあてはめる、ということになりますが、こういった方針もほとんどの受験生が皆同じだったはずです。受験生皆横並びで、点数に差のつきにくい問題といえそうです。
ただ、問題1よりもマイナーな論点ということもあって、専門学校の解答速報にあるような答案を作成することは難しかったと思います。それも受験生皆同じですから、自分としては、「正当な理由」や「損害賠償額」の具体的内容について自信が持てなくても、自分のもっている会社法の知識を総動員して、丁寧で合理的な答案作成を目指すよう、心掛けるだけです。

 

第2問:新設分割

問題1:異議を述べることができる債権者

解答スペース:10行
必須条文番号:810条1項2号

新設分割について異議を述べることができる債権者を、本問に当てはめて特定します。810条1項2号を探し出せたなら、本件新設分割計画①~③と条文を照らし合わせて検討する答案を作成します。つまり、「新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行を請求することができない新設分割株式会社の債権者」が、①よりβ事業の債権者であることを指摘します。丙社が連帯保証人となっている場合は実質的に請求可能となるので、そうではない点も②より指摘できます。763条765条には当てはまらない(人的分割でない)ことも③から明らかです。このように、810条1項2号の文言と①~③がきれいに対応しているので、一つ一つ検討して見せた上で、β事業の債権者と特定してみせます。包括承継による債務者の交替となることから債権者保護の必要性ある旨も指摘できれば尚良いでしょう。

問題2が難しい分、問題1を丁寧に説明して少しでも多く得点していきたい問題です。

問題2:不法行為によって生じた債務の債権者・省略できない各別の催告

解答スペース:20行
必須条文番号:(810条1項2号)、764条2項、810条3項

まず、Aが薬害(不法行為)を根拠とした損害賠償請求権をもつβ事業に係る債権者であること、そして時系列から「各別の催告を受けなかった分割会社の債権者(764条2項)」として丙会社に対して一定の限度のもと債務の履行を請求することができることを説明します。ここで、丙会社が「官報及び電子公告の方法による公告」を行うときは「各別の催告を要しない(810条3項)」とされますが、「不法行為による債務の債権者に対する各別の催告は省略できない(810条3項かっこ書)」ことにも当てはめていきます。これは、公害や薬害のような不法行為による債務の債権者は一般人であることが多いため、個別催告の必要性を認めた規定です。

問題1からの流れで、Aが「新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行を請求することができない新設分割株式会社の債権者」に当てはまることは指摘できると思います。しかし、Aが「不法行為による債務の債権者」で「各別の催告を受けなかった分割会社の債権者(764条2項)」として保護されるところまではなかなか行き着けなかったのではないでしょうか。

以上です。