第72回 税理士試験講評~簿記論

2022年8月に実施された第72回税理士試験について講評していきます。詳しい解答・解説はこちらからご確認ください。

第1問

問1:大陸式簿記法

キャッシュ・フロー計算書、開始残高勘定、損益勘定、閉鎖残高勘定について金額の空欄補充していく問題です。まず(1) で「大陸式簿記法」であることを答えさせるのですが、「簿記の勉強を始めたときに聞いたことあるかも…」な知識ですよね。これが答えられなくとも、(2) (3) を解くにあたって支障はないので気にせず先に進めましょう。

(2) は消耗品の棚卸計算法による仕訳順を問うています。簿記一巡の知識があれば正しい仕訳順は自ずと明らかです。大陸式簿記法に不案内でも「閉鎖残高勘定=貸借対照表」であることはすぐに気づけるので、③開始残高から消耗品に戻して→⑥一旦すべて消耗品費へ→④購入分をすべて消耗品費へ→②未消費分を消耗品へ→①差引消費分を損益へ→⑤在庫を消耗品から閉鎖残高へ、という流れです。ただ、「仕入/繰越商品、繰越商品/仕入」みたいに、⑥は④の後、②の前でもいい気がします(他校の速報では別解も出ています)。

(3) の金額の空欄補充はほぼパズルです。+-が逆になると厄介なので、「資産の増加=COF、負債の増加=CIF」というキャッシュ・フロー計算書の知識だけでなく、下書きのT勘定で損益と収支の関係を確認しながら解く方がお薦めです。また、【資料3】に明記されていない期中の取引がしれっと含まれているので(例えば新株発行による資本金・資本準備金の増加、別途積立金の積立)、これを見落とさないように注意が必要です。

問2:委託買付

買い付けの委託なので、委託販売・受託販売ではなく委託買付・受託買付です。この勘定を委託先・受託先への債権・債務を処理する勘定として用いる事さえできれば(1) ~(4) の仕訳は記入できると思います。(5) だけは収益認識基準の知識が必要なので、対策してないと厳しいでしょう。予想される返品は将来の返金の義務を負債(返金負債)として認識し収益認識からマイナスします。

第2問

問1:減損処理

標準的な共用資産(研究施設)のある減損処理の問題です。完答が必要な問題です。

問2:有価証券

(1) 満期保有目的債券については、償却原価法(利息法)が適用されているので、利払日の仕訳を積み重ねて満期償還直前の償却原価を求めることもできますが、「償却原価=将来キャッシュ・フローの割引価値」という知識があれば「償却原価=額面と最終の券面利息の割引額」で求めるのが最短です。

(2) 売買目的有価証券は、期末時価評価を洗替るか切放すかの問題でした。洗替ると「簿価=取得原価」、切放すと「簿価=前期末時価」という整理が出来ていたかです。

(3) 少しだけ連結会計・持分法会計から出題されました。⑥~⑧は当期純利益に持分比率35%を乗じるだけの基本的な計算です。⑨~⑪は個別上の関係会社株式の減損処理です。

第3問

建設業と不動産賃貸業が含まれる総合問題です。決算整理前残高試算表に決算整理事項等を加味して決算整理後残高試算表の空欄補充をする典型的な形式の出題でした。例年よりも資料も少なく散らばりも控えめで解きやすかった印象です。以下、決算整理事項等の項目毎に確認していきます。

  1. 建設業でしたが、残高試算表に完成工事未収入金勘定等がないので契約資産・契約負債勘定を使用していきます。収益認識は原価基準による工事進行基準ですが、原価集計もほぼ終わっているので簡単でした。B工事については翌期の予想損失を工事損失引当金に計上する必要がありますが、予想総損失から当期までの既計上損益を控除することで翌期の損失を計算すると早いですね。
  2. 不動産賃貸業では、返還されない預かり保証金を月割りで収益認識します。
  3. 本社部門の現金・当座預金は良くある内容ですね。
  4. 投資有価証券では、部分純資産直入法であることに注意です。
  5. 貸倒引当金では、未収入金や契約資産に対する貸倒引当金の設定を忘れないようにしましょう。長期貸付金のキャッシュ・フロー見積法での貸倒引当金の設定は、当初約定利率での割引計算で評価額を算定します。
  6. 諸税金は、法人税等については収益計・費用計の全てを正しく集計する必要があるので、時間がなければ消費税等だけあわせにいきます。雑損失が案外大きくて心配になりますが問題ありません。
  7. 部門を横断する項目として、まず減価償却費です。備品Cの減価償却費が建設業の経費に集計されますが、このような後から数値が出てくる要素を効率的に集計できるように下書きを整備しておけるかも受験生に必要な能力です。
  8. 建物Dの積立金方式の圧縮記帳では、税効果も含めて減価償却に応じた取崩を行います。未償却残高の比を利用してもいいですし、解説のように一旦全額計上してから減価償却に応じて取り崩しても良いと思います。
  9. ソフトウェアのリースは、リース料の支払いが毎月末になっているのですが、割引計算のための資料は年単位のものだけなので、毎月の支払リース料の合計(前T/B)を年単位の利息とリース債務の返済に充てる処理になっています。
  10. 賞与引当金と退職給付引当金については建設業分が労務費として振替済みなので、残額が本社部門と不動産賃貸業に回ります。退職給付引当金は簡便法かつ建設業分が計上済みなので、退職給付引当金が23,000,000になるような退職給付費用を計上すれば良いだけです。

以上です。