第72回 税理士試験講評~消費税法

2022年8月に実施された税理士試験~消費税法の講評です。
理論は書きやすい問題が多く、計算は時間のかかる問題でした。
合格ボーダーは、理論33点/50点、計算29点/50点、合計62点/100点と予想します。
大手専門学校のボーダー予想は、理論30点~34点、計算29点~33点、合計60点~67点となっています。
やはり、理論の方がやや得点しやすかったようです。
以下、問題毎に講評していきます。

第一問

問1:記述問題 (2問)

前年は小問3問構成でしたが、本年は小問2問構成となっています。
(1) 特定課税仕入に係る対価の返還等
暗記条文集にそのまま掲載されている論点です。
問われいるのは、次の5つです。
① 特定課税仕入れの意義
② 特定課税仕入れに係る対価の返還等の意義
③ 特定課税仕入に係る支払い対価の意義
④ 当該消費税額にかかる内容と要件
⑤ 相続、合併又は分割があった場合の取扱い
①について、自分の知識を書き並べていると先に進めなくなってしまうので、書きすぎに注意です。
こういった問題は、配点を考慮して解く必要があります。
本問で、書くべき内容が最も多いのは④の「当該消費税額にかかる内容と要件」ですが、問1(1) への配点が15点だとすれば、④への配点は最大でも5点でしょう。採点者は、5点配点の問題であれば、採点のポイントを4つ(各1点)設定した上で、プラス印象点1点として採点するのが一般的です。作問者が想定したであろう採点ポイントにヒットするように4~5つくらいの内容をコンパクトに書くことを心掛けてください。
逆に、書くべき内容が最も少ないのは③です。こういうところは、配点があっても2点と予想して、貴重な時間を必要以上には投下せず、問題文を軽くなぞらえるような答案で逃げるのも受験上のテクニックになります。
常に、「配点以上に得点することは出来ない。」ことを肝に銘じ、例えば、①に対して、知っている知識を長々書くような答案作成は避け、バランス良く得点するようにしましょう。

(2) 価格の表示
総額表示義務は平成16年4月より実施されていましたが、特別措置法により令和3年3月31日までは税抜き表示も認められていました。それが令和3年4月1日以降は総額表示が必要になった、というのが経緯です。
つまり、総額表示の義務化自体は、法的にはずいぶん昔から始まっており、たとえば、総額表示していないホームページは、平成26年頃であってもヤフーにホームページの検索広告は出せませんでした。
なので、旬を過ぎてしまったということもあって、多くの専門学校で、出題可能性をCランクとしていた論点です。
ただ、本年度の理論は、本問以外は比較的容易で、点数の差がつきにくい問題だったので、本問での得点差が合否に直結した可能性はあります。出題可能性の低い分野までカバーできているベテラン組が有利な問題でした。

問2:事例問題 (5問)

前年は小問4問構成でしたが、本年は小問5問となっています。
論点は次の通りです。
(1) 船荷証券の譲渡(船荷証券は国内、荷物は国外)
(2) 特許権の譲渡(2以上の国で登録)
(3) 非上場で株券不発行の株式の譲渡(発行法人は外国法人)
(4) 非居住者に対する貸付金の利息
(5) 登録国外事業者以外から受けた電気通信利用役務の提供
専門学校の教材を確りと学習している受験生であれば、5つのうち4つは、論拠も含め、優秀な答案を作成できたはずの論点で、日頃の努力が反映される、良心的な良問といえます。25点中16~20点程度得点しておきたい問題でした。

第二問

問1は総合問題、問2は簡易課税の問題でした。
問題用紙はA4で11枚と多めです。
例えば、理論で45分使った受験生は、計算で使える時間は75分ということになります。そうすると、「問1の総合問題で45分、問2の簡易課税で30分使う。」というのが標準的な時間の使い方になると思います。
問題量からすれば、時間的に厳しいということもあって、合格ラインは、問1が17点/30点、問2が12点/20点で合計29点/50点、58%と予想します。

問1:総合問題

納税義務の判定は、会計士試験ではほぼ出題されませんが、税理士試験では毎年出題され、本体の税額計算よりも難解なことの多い論点です。
本問では、前々課税期間と前課税期間は「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」、当課税期間は「分割等があった場合の納税義務の免除の特例」が論点となっていました。
納税義務の判定については、解答速報に示したように、定型的に項目を区切って、部分点を拾うことを心掛け、深入りしすぎないようにしてください。本問の場合、納税義務の判定への配点は9点/30点程度はあるはずですが、4~5点確保しておけば十分です。
次に税額計算についてですが、かつては、与えられた資料の「仕入取引と売上取引について、それぞれ課税区分の判定ができるか?」にかかっていましたが、令和元年以降は、これに加え、「適用される税率が標準税率か軽減税率か?」の判定も加わることになりました。
日頃から受験生は、これらの判定にポイントを置いて切磋琢磨していて、専門学校の教材で紹介されている取引については、判定をほぼ習得した上で受験しています。それでも、本試験では、判定に迷う取引が出題されます。そして、判定に迷う取引が3つあると「難問!」、5つあると「お手上げ!!」という印象を持ってしまいます。
本問で出題された「判定に迷う取引」は、「開店一周年のキャンペーンによる店内飲食代金の5%の値引き」、「料理の残りを折り詰めにして持ち帰った分の料金」、「感染症予防等の観点から産業医として招いた個人開業医に支払った報酬」、「災害被災地での料理ボランティアで料理を提供したことによる謝礼金」などです。
こういった取引が4つもあると、受験中に不安を覚えますし、受験直後の印象も「合格の手応えなし。駄目かも?」となってしまいます。ただ、この4つの取引の判定を全部間違えても、失うのはマックスで4点です。こういった取引の判定で合否が分かれるようなことはないので、試験中は、集中力を途切れらせることなく、自分の知識で判定可能な取引をノーミスで判定して、答案用紙に反映することに執着することが肝要です。
第二問 問題1の総合問題は、毎年相変わらず取引の資料が膨大なので、本試験の計算を解ききるための体力を養うことも大切です。

問2:簡易課税

簡易課税の問題ですが、「5事業種で、そのうち、2事業種に複数税率が適用されている。」ということなので、計算量はかなり多くなります。
専門学校のテキストで紹介されている簡易課税の複数税率の設例は、「2事業種で、その2事業種とも複数税率が適用されている。」といったものが一般的です。そういった簡素なモデルでも、複数税率の簡易課税の問題は、税額計算まで行うと20分程度必要です。
本問が「5事業種で、そのうち、2事業種に複数税率が適用されている。」というのは、問題文を読んで直ぐに分かるので、「税額計算まで行うと、40~50分程度かかるはず。残り時間は30分しかないので、税額計算はあきらめて、計算プロセスで部分点を丁寧に拾っていく戦術をとるべき。」と判断する必要がありました。
本年も昨年に引き続き、計算量が多すぎて、ほとんどの受験生が税額計算まではたどり着かなかったはずです。そういった場合こそ、「答案用紙に計算過程を丁寧に書いて部分点を拾う。」といった姿勢が大切です。
以上です。