第162回日商簿記1級講評~商業簿記・会計学

11月20日に実施された日商簿記1級~商業簿記・会計学について講評していきます。

商業簿記

今回の商業簿記は、問1貸借対照表の作成、問2主に商品関連の損益額が問われました。収益認識基準からの出題もしっかりあって、比較的難しかった印象です。Ⅱ期末整理事項等の順に講評していきます。詳細な解説はこちらからどうぞ。

  1. 受取手形ー手形割引の処理が問われました。手形の割引額が売却損になることや貸倒引当金が保証債務に置き換わる事等、特に難しい内容ではありません。ただ、「金利部分を別処理しない方法」という指示の意味が分かったかどうかは微妙なところですね。通常通りの手形額面での処理でいいのですが、この文言に惑わされて取りこぼしていたらもったいなかったです。
  2. 今回一番の難所は商品関係でした。返品権付販売のY商品に、「予想される返品については収益認識しない」という収益認識基準の論点が含まれています。未処理なのは2月販売3月予想返品分の処理だけなので、これさえできれば問1貸借対照表の数値や問2(1)(2)(3)も求められます。(4)売上高は決算整理前残高試算表の金額が不明なため、売上原価と売上総利益率から推定しなければなりません。前期の売上総利益率が36%で当期は38%となっているのですが、前期に販売分(36%)の返品を当期38%の利益率で再販売している事が各数値にどのように反映しているかが読み取れないと解けません。他で得点できるならここはパスで問題ないでしょう。
  3. 為替予約の振当処理はパターン化して解けるので確実に得点すべき箇所です。
  4. 本問の貸倒引当金は簡単かつ解答箇所も多いので確実に埋めにいきましょう。
  5. 車両の買換えです。買換えの処理自体は決算整理前残高試算表に反映されているので、車両の取得原価と車両購入手形、利息相当額の長期前払費用との関係を整理できたかがポイントでした。利息を級数法で期間配分する計算も18枚と手形数が多いので、いわゆる階段状の図をイメージして「171=当期分51+翌期分114+以降分6」に区分します。
  6. 固定資産の減価償却では200%定率法の償却率を算定する必要がありました。覚えていないと無理ですね。
  7. 備品の減損処理は200%定率法での減価償却後の簿価からの帳簿価額切り下げです。使用価値は割引計算が必要ですが売却可能価額が回収可能価額になるので、割引計算で間違えても問題ありません。
  8. 自己株式の消却原資はその他資本剰余金です。期末にマイナスのその他資本剰余金は繰越利益剰余金から填補することになります。
  9. 経過勘定は通常通りです。
  10. 未払法人税等の計算も通常通りです。

会計学

会計学は質・量ともに控え目な出題でしたし、時間をかけても分からないもの(知らない理論)は仕方がないので、時間配分として70:20位で商業簿記に時間をかけて、会計学は効率重視で良かったと思います。

第一問 理論正誤問題

(1) ア:棚卸資産の収益性低下の判定は正味売却価額で行い、再調達価額は正味売却価額の代理数値と出来る例外的な場合にのみ利用可能です。イ:特許権のような無形固定資産も減損処理の対象です。ウ:より大きな単位での減損処理では共用資産を含むより大きな単位とすることで増加した減損損失を共用資産に優先的に配分します。この際に、共用資産減損処理後の簿価は回収可能価額を下限とします。エ:その他有価証券の減損処理は切放法なので戻入は行いません。よってエが正しい文章です。

(2) ア:予想される売上割戻は、変動対価うち「計上した収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分」にあたらないので、収益を認識しません。よって引当金を計上することも出来ません。イ:保証債務について引当金を設定する場合は①発生可能性が高く②金額を合理的に見積もれる場合なので、引当金の設定を要する場合があります。よってイは正しい文章です。ウ:破産更生債権等についても原則として貸倒引当金を設定します。直接減額は容認処理です。エ:役員賞与は費用であり、剰余金の処分の一項目ではありません。

(3)ア:子会社株式(有価証券)の取得関連費用は、個別財務諸表上は有価証券の取得原価に含まれます。イ:負ののれんは生じた期の特別利益になります。ウ:共同支配企業には持分法が適用されます。エ:研究開発の途中段階の成果に配分された取得原価は、公正評価額に基づき評価し資産計上します。よってエが正しい文章です。

(4)ア:市場価格のある有価証券は価格変動リスクがあるので資金の範囲に含まれません。イ:資金自体に生じた為替換算差額は「現金及び現金同等物に係る換算差額」として表示されます。ウ:子会社株式の追加取得から生じたキャッシュ・フローは非支配株主との取引として財務活動によるキャッシュ・フローに表示されます。よってウが正しい文章です。エ:法人税等の支払額は営業キャッシュ・フローの区分に一括して表示されます。

(5)ア:同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は固定の区分に相殺して純額表示です。よってアが正しい文章です。イ:繰延ヘッジ損益は、貸借対照表の純資産の部の評価・換算差額等に表示されます。ウ:トレーディング目的の棚卸資産に係る損益は純額を売上高に表示します。エ:資産除去債務に係る利息費用は減価償却費と同区分に表示されます。

5つの中では(3)と(4)が難しかったですね。よって5問中3問は正答したいところです。

第二問 計算を含む空欄補充問題

1.収益認識基準から、取引価格の算定と配分の問題です。取引価格を独立販売価格の比で配分し、サービスについては履行義務の充足についてて収益認識します。サービス分についても先に対価を受け取っているので、履行義務の充足につれて契約負債を取り崩す処理になります。

2. 連結会計については、子会社株式の追加取得とその他有価証券評価差額金が論点でした。追加取得仕訳は当然、暗記していたでしょうし、その他有価証券評価差額金については利益剰余金と同様の取扱いをすれば良いので、完答しておきたい問題でした。

3.転換社債型新株予約権付社債の問題です。区分法を採用しているので、社債部分には償却原価法(利息法)が適用され、新株予約権の権利行使時の社債払込額はそのときの償却原価になります。

収益認識基準の論点も対策していれば簡単な問題ですので、15箇所のうち1と3は完答できたはずです。

以上です。