令和5年度第Ⅱ回公認会計士短答式試験講評~企業法

令和5年 第Ⅱ回 公認会計士短答式試験 企業法の講評です。
最近の想定合格ラインは安定して65点前後と予想されていました。
今回は、出だしの3問の難易度が通例よりも高く、リズムに乗りにくかったと思います。一方で、比較的難易度の高いはずの金商法からの出題が得点しやすい論点だったので、合格ラインは67.5点と予想しています。
出題内訳はいつも通り、商法2問、会社法16問、金商法2問です。
会社法16問の内訳は、設立2問、株式2問、機関6問、計算等1問、持分会社1問、資金調達等2問、組織再編等2問です。
試験傾向が大きく変動するとは考えにくいので、次回以降も同様の問題数を念頭に置いて学習すると良いでしょう。

以下、各問毎に講評していきます。

問題1:商行為**

ア.「鉱業を営む者」という印象に残るワードは、擬制商人(商法4条2項)の条文で使用されています。
絶対的商行為は501条の4つの限定列挙になりますから、鉱業のような原始産業がこれにあたらないことはよく知られた論点で、「誤り」と判定できます。
イ.「手形その他の商業証券に関する行為」が501条の絶対的商行為に列挙されているので、「正しい」と判定できます。この時点で、選択肢を2つにまで絞り込みことができます。
ウ.仲立ち又は取次ぎに関する行為は、営業としてするときは、商行為で(商502⑪)、自己の名をもって商行為をすることを業とする者は固有の商人であり(商4Ⅰ)、商人がその営業のためにする行為は、付属的商行為となる(商503Ⅰ)、という基本的なロジック通りの記述になっています。ただ、3つの条文を連携させる必要があるので、容易ではないと思います。
エ.は、債務の履行場所に関する論点です。商法516条の内容が頭に入っている受験生は少ないはずですから、その場で判断するほかありません。本問における債務の履行場所が、債権者の営業所ではなく債務者の営業所とされているのは、違和感を感じるべきところだと思います。

問題2:会社の登記**

ア.登記はいやな論点ですが、合資会社の社員は直接責任を負うため、債権者の立場からすれば、社員の住所は登記されていてしかるべきです。「誤り」と判定してほしい記述です。
イ.合同会社の社員は間接有限責任しか負わないため、債権者の立場からすれば、会社の資本金は登記されていてしかるべきです。従って、「誤り」と判定できたはずです。
ウ.は最高裁判例、エ.は新株予約権行使による変更登記の期限という細かい論点なので、正誤判定は困難です。なんとか、ア.とイ.の記述だけで正解にたどり着きたい問題です。

問題3:設立**

ア.公開会社は取締役を3人以上設置する必要がありますが、発起人の最低必要人数についての規定はありません。「そのような規定はない」という嫌なパターンですが、発起人の最低必要人数について規定がない、という論点は多くの受験生が正答できるはずです。イ.37条(発行可能株式総数の定め等)2項通りの記述です。30条(定款の認証)2項の「一定の例外」を示した内容で、基本的な論点なので、正答率は高いはずです。この時点で、選択肢を2つにまで絞り込むことができます。
ウ.設立無効の訴えを提起できるのは「株主等」に限定されており(828Ⅱ①)、「等」に債権者が含まれないのも基本的な論点です。
エ.会社計算規則21条にある規定で、一般的な受験生は会社計算規則の規定までは手を広げていないはずなので、ア.~ウ.までで正しい選択肢を選ぶ必要があります。

問題4:設立***

ア.38条(設立時役員等の選任)4項は、重要条文なので、「誤り」と判定できる必要があります。
イ.会社法33条(定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任)8項も重要条文なので、「正しい」と判定できるはずです。
ここまでで、2択にまで絞れます。
ウ.創立総会の目的以外の事項であっても、「定款の変更又は株式会社の設立の廃止」については決議することができる、というのもよく知られている論点なので、「正しい」と判定できます。
エ.が「誤り」となる根拠は、「そのような規定はない」という嫌なパターンです。従って、本問はア.~ウ.までで正しい選択肢を選ぶ必要があります。

問題5:株式分割・無償割当***

ア.条文知識がなくても、例えば2株につき1株を無償割当する場合、所有する株式数が奇数の場合には、当然に0.5株の端数が生じます。条文知識がなくても「誤り」と判定できます。
イ.株式無償割当では、①異種の株式の交付が可能、②自己株式への割当てなし、③自己株式の交付可能というのは暗記事項となっているので、「正しい」と判定できる必要があります。
ウ.上述したように、株式無償割当において、「自己株式への割当てなし」というのは、知っておくべき論点とされているので、「正しい」と判定できる必要があります。
エ.が「誤り」となる根拠は、「そのような規定はない」という嫌なパターンです。従って、本問はア.~ウ.までで正しい選択肢を選ぶ必要があります。

問題6:自己株式***

ア.自己株式に対して株式の無償割当ができないことからすれば、当然に新株予約権の無償割当もできないと判断すべきです。
イ.453条(株主に対する剰余金の配当)かっこ書きが根拠となりますが、自己株式に剰余金の配当があった場合の会計処理を財務会計論で学習したことがないことからすれば、条文知識がなくても、「自己株式に対して配当を受けることはない。」と判断すべきです。
ウ.とエ.も難しくはないですが、ア.とイ.が明らかに「正しい」ので、正答必須です。

問題7:新株予約権***

ア.「金銭払込みに代えて財産の給付・債権との相殺を行う場合には会社の承諾が必要である(246Ⅱ)。」というのは、新株予約権の学習において、基本的な論点です。
イ. は、「そのような規定はない」というパターンなので、とりあえず保留して、ウ.とエ.の記述を検討することになります。
ウ.とエ.ですが、エ.の「新株予約権を行使した新株予約権者は、当該新株予約権を行使した日に、当該新株予約権の目的である株式の株主となる。」というのは282条(株主となる時期等)第1項で、これも新株予約権を学習する上での基本条文とされているので「正しい」と判定してほしいところです。また、ウ.の245条(新株予約権者となる日)1項については、条文知識がなくても「払込期日に予約権者となる」という内容が「理にかなっていない。」と判断できそうです。

問題8:書面による議決権行使**

イ.とエ.は、会社法単独で正誤判定が可能です。これに対し、ア.とウ.は会社計算規則を根拠としており、細かすぎる印象です。
会社計算規則にまで手を広げていない一般的な受験生は、ア.書面と電磁的方法とで異なる議決権行使があった場合の取り扱いを取締役会が定めることができるか、ウ.議決権行使書面に「棄権」の欄を設けることができるか、をその場で判断する必要があります。こういう場面では「これらの事項について、わざわざ禁止規定が設けられているか?」といった視点から考察することになります。本問の場合、2つとも禁止規定は置かれていないというのが結論になります。

問題9:電子提供制度***

2023年第Ⅰ回試験に引き続いて、問題9は、令和元年会社法改正論点からの出題となりました。
ア.~エ.のいずれの論点も各専門学校のテキストに収録されているであろう基本的な内容なので、正答してほしい問題です。

問題10:株主総会決議の効力を争う訴え(判例)**

4つの記述ともに判例からの出題です。判例については、「事前に準備できるのはごく一部」というのが実情なので、多くの場合、その場で正誤判定を下していく必要があります。
イ.の2週間前までに招集通知がない場合は、招集手続の法令違反の代表的な事例です。また、他の株主に対する招集手続に瑕疵がある場合、株主総会で公正な決議が行われない不利益を招集手続に瑕疵のない株主も被る可能性があることからすれば、ウは「誤り」と判定できそうです。判例問題ではありますが、2択にまで絞り込めそうなので、Bランクとしておきました。

問題11:社外取締役***

ア.社外取締役も他の役員と同様に株主総会の普通決議で解任されます。
イ.監査等委員会設置会社では、社外取締役からの監視機能が強化されています。「3人以上かつ過半数は社外取締役」は指名委員会等設置会社の各委員会と同様の規定なので覚えやすいですね。
ウ.公開会社かつ大会社である監査役会設置会社で有価証券報告書提出会社は社外取締役の設置義務があります。設置していない場合には株主総会で理由の説明が必要となっています。

エ.以外は、覚えておきたい論点なので是非正答してほしい問題です。

問題12:内部統制システム**

内部統制システムの規定について横断的に出題されています。

ア.監査等委員会設置会社は内部統制システムを利用した組織的監査を前提としています。
イ.指名委員会等設置会社も内部統制システムを利用した組織的監査を前提としています。取締役会が監督に専念できるように業務執行の意思決定が執行役に委任できますが、内部統制システムの決定は委任できません。

ウエは正誤判断が難しいと思いまので、*よりの**です。

問題13:監査役設置会社の取締役会***

ア.監査役に同様の招集請求権があるため、監査役設置会社の株主には記述のような招集請求権はありません。
イ.取締役会はと取締役・監査役全員の同意があれば招集手続きは不要です。これは監査役会も監査役全員の同意があれば招集手続きが不要であることとあわせて覚えると良いでしょう。
ウ.取締役会の書面決議には定款の定めが必要です。
エ.監査役でけでなく、会計参与・会計監査人も取締役・監査役全員に通知すれば報告を省略できます。

頻出論点ばかりなので正答できたと思います。

問題14:剰余金の配当等**

ア.自己株式を配当財産にできないように、権利行使により株式となる新株予約権も配当財産とできません。
イ.定款の定めにより取締役会決議で配当できる条件等は覚えていても、原則である株主総会決議による配当にどう影響するかはカバーできていないかも知れないですね。細かい気がします。
ウ.300万円の財源規制は必ず覚えておくべき内容です。
エ.現物配当かつ株主に金銭分配請求権を与えない場合は、株主保護のため特別決議が必要です。

イ.以外は正誤判断できそうなので***です。

問題15:持分会社の種類変更・会社の組織変更*

ア.は何とか正誤判断できなくもないですが、受験上パスでよい問題です。

問題16:社債*

すべて細かすぎる内容なので受験上パスの問題です。

問題17:組織変更、吸収合併及び組織に関する訴え**

ア.ウ.エ.精算の開始原因は、解散、設立無効の訴えの認容判決・株式移転無効の訴えの認容判決の確定です。
イ.吸収合併消滅会社の権利義務は包括承継されてしまうので、消滅会社は通常の精算を経ることなく合併の効力発生により解散と同時に消滅します。

精算の開始原因を整理しておく必要があったようです。

問題18:新設合併、吸収合併、株式交換、株式移転***

ア.株式会社・持分会社間の合併、設立会社を持分会社とする合併も可能です。
イ.承継会社は制限がありませんが、分割会社は株式会社・合同会社に限られます。
ウ.エ.完全子会社・株式移転設立完全親会社は株式会社に限られますが、株式交換完全親会社は合同会社も認められます。

組織再編の持分会社の可能・不可能は整理しておきましょう。

問題19:開示書類の公衆縦覧期間***

開示書類の提出期限や公衆縦覧期間等は整理してあったと思います。

問題20:有価証券の募集**

ア.イ.募集と売出しの定義は整理しておきましょう。その一環として、私募の内容についても確認できると思います。
ウ.エ.有価証券届出書は株主への募集事項の通知が省略できる場合でも必要です。この届出書の受理から15日間の待機期間を経て効力を生じます。

若干複雑な募集・売出しの定義ですが頑張って覚えておきたいところです。ウエは細かいとは思うので、**にしています。

以上です。