日商簿記1級 147回 解答・解説 商業簿記・会計学

 会計学

今回の出題は以下の通りでした。

第1問:理論の正誤問題

第2問:税効果会計

第3問:事業分離

第1問:理論

ア~エの4つの文章の中から正しい文章を1つ選ぶ問題が5問出題されました。

(1) は、アの株主資本変動計算書の文章だけは、簡単に誤りが指摘できましたが、それだけでは正答できません。イ~エは指定国際会計基準・包括利益計算書・四半期財務諸表と、そもそも対策していなかった受験生も多かったのではないでしょうか。出来なくても仕方のない問題だと思います。

(2)は、ア~ウまで収益性の低下の文章です。イが正しいことは明らかですし、その他の文章も難しくないので、正答できたと思います。

(3)は、いずれも表示区分に関する文章で、イの自家建設に要した借入資本利子が、原則として取得原価不算入である文章が正しい文章でした。これも簡単だったと思います。

(4)は、アの電子記録債権の文章が正しい文章でしたが、電子記録債権なんて、知識のある受験生が果たしていたのかな?と思ってしまいました。経理部に勤務している社会人の方なら、実務で接している可能性があるかもしれませんが...。調べたところ、電子記録債権・電子記録債務というのは、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することが、発生・譲渡の効力要件となる債権・債務で、電子債権記録機関が電子記録債権の登記所のように機能するのだそうです。イ~エがさほど難しくなく誤りが指摘できるので、消去法でアを選べた方もいるかも知れません。イで、金銭債権に社債が含まれると思わずに、買掛金や支払手形だけを想定してしまった方は、イを選んでしまい結果間違えてしまいそうです。

  電子記録債権は、最近の日商簿記2級の出題範囲の変更により、2級の範囲に含まれて論点です。出題範囲変更後に2級→1級と学習された方はご存じかと思いますが、それ以前に2級に合格して1級へ、という受験生の方は、きっと初耳では?という論点です。

(5)は、純資産の部からの出題です。4つとも比較的簡単に正誤が判定できます。エの繰延ヘッジ損益が純資産の部の株主資本以外の区分に計上されるとの文章が正解でした。デリバティブが苦手で、繰延ヘッジの処理が出来なくても、純資産の部の評価・換算差額等に計上される知識はあったのではないでしょうか。

以上から、5問中3問は正答したい問題でした。

第2問:税効果会計

とてもシンプルな問題ですが、税効果の仕組みを知っていますか?という出題意図がよく分かる良問だと思います。

まず、問1で当期と前期の繰延税金資産を求めさせています。将来減算一時差異に適用税率を乗じるだけなので、うっかり将来加算一時差異を使わないかぎり、正答できたはずです。

次に問2では、損益計算書の当期純利益以下を記入させています。案外「法人税・住民税・事業税」で間違えたりして、と思うのですが、いかがでしょうか。我が国の場合、簡単にいうと、当期純利益に損金不算入項目・益金算入項目等を加減算して課税所得を求め、これに税率を乗じて支払税額が決まります。普段、商業簿記・会計学の問題では所与となっているので、いざ計算しなさいと言われて混乱してしまったのではないかと思うのです。これが、回答欄6箇所中3箇所に影響してしまうので、受験生によって完答か半分かに大きく差が出てしまう問題でした。

第3問:事業分離

A社からa事業を、B社からb事業を分離して、C社を新設するという計算パターンが出題されました。
問1 A社及びB社の個別F/SにおけるC社株式の金額を算定する問題です。
分離した事業の譲渡対価が株式の場合、分離した事業への支配が継続しているかを考えます。
事業分離後も支配関係(関連会社の関係も含みます)が継続しているのであれば、移転損益は認識せずに、譲渡した資産・負債とC株式を帳簿上、入れ替えるようなイメージになります。従って、A社であれば、譲渡したa事業の資産・負債の帳簿価額でC社株式を評価し、B社であれば、b事業の資産・負債の帳簿価額で評価するだけです。問1は得点したいところです。

問2 A社による取得とされた場合のC社B/Sの作成問題です。
A社の立場に立って、C社によるa事業の受入とb事業の受入を別々に考えていきます。
まず、a事業の受入ですが、A社が取得企業ということは、a事業に対する支配が継続していると考えられるので、a事業の諸資産及び諸負債は簿価のまま受け入れます。
これに対し、取得企業のA社にとって、b事業は新規取得事業となるので、超過収益力も含めた時価(=事業価値)で取得したと考え、b事業の諸資産及び諸負債を時価で評価すると共に、のれん(超過収益力)も認識します。

問3 共同支配とした場合のA社及びB社の連結会計上のC社株式の金額を算定する問題です。
共同支配の場合、A社とB社がC社を完全支配しているので、「非支配株主」という立場の株主は存在しない、と考えることができます。そこで、連結会計上は、持分法のように、C社株式の評価替えを行っていきます。
まず、A社の連結会計上のC社株式の金額を検討します。A社は、事業分離前は、a事業を100%所有していましたが、事業分離後はa事業を60%、b事業を60%所有することになります。そこで、① a事業の60%部分は、事業分離後も保有し続けているので、単純にa事業の簿価の60%をC社株式に置き換えます。そして、②A社はa事業の40%を失う代わりに、C社株式を取得することで、b事業の60%を新たに保有することになります。このため、取得したC社株式は、新たに保有することになったb事業の時価の60%で評価します。
B社の連結会計上のC社株式の金額も同様に計算します。詳しくは、解説をご参照下さい。

以上です。