公認会計士 論文式試験(令和2年)管理会計論~講評

新型コロナウィルス感染拡大の影響により、令和2年の論文式本試験は、2日間に短縮され、3ヶ月遅れで実施されました。受験生の皆様は、お疲れ様でした。

今回の管理会計論は、① 部門別計算(補助部門費の配賦)② 度外視法と非度外視法の計算(理論はマテリアルフローコスト会計)③ 予算実績差異分析④ 事業部制組織の管理会計(残余利益)から出題されました。

受験生が苦手とする、意思決定会計や資金管理からの出題はありませんでしたが、推定箇所が多く、算数の力を必要としたため、ここ数年の中では、最も得点しづらい印象です。

以下、個別に講評していきます。

第1問

問題1  部門別計算(補助部門費の配賦)

資料にサッと目を通すと、計算資料が少ないため、短時間で完答できそうでしたが、実際には30分程度必要な問題でした。本問が一番易しかったので、結果として、本問から解き始め、本問でしっかりと得点できた受験生は、合格ラインに到達しやすかったはずです。

理論については、以下の論点が出題されました。
問3(1) : 補助部門では操業度差異が管理不能となる理由
問4(1) : 複数基準配賦法における変動費及び固定費の配賦基準
問4(2) : 単一 + 実際配賦の問題点(2つ)
問5(2) : 複数基準配賦法において、固定費をサービス供給能力基準で配賦する理由

補助部門費配賦における伝統的な理論が問われました。昨年度も、補助部門費配賦方法の改善策(3つ)が問われていましたが、伝統的な配賦理論については、どこの専門学校のテキストにも掲載されている基本論点です。ただ、答案スペースが少なかったため、コンパクトにまとめるのに苦心したと思います。

計算については、逆進問題が出題されました。
小さい頃から受験勉強に慣れ親しんでいた人にとっては、この程度の逆進問題は難なく解けたかもしれませんが、算数が苦手な受験生にとっては、やや辛い問題でした。

問1: 各製造部門に対する保全サービス部(補助部門)の実際配賦額が与えられていたため、この合計額8,207,000円を保全サービス部の実際稼働時間2,900hで除して、保全サービス部の実際配賦率@2,830円/hを逆算で求めることができます。

問2「単一基準 + 予定配賦」から「複数基準 + 予定配賦」へと展開していきますが、「単一基準 + 予定配賦」では固定予算制度による差異分析を行ったり、逆進で解かせたりと、作問者の工夫がみられる問題でした。

まず、「単一基準 + 予定配賦」からです。詳細な計算過程は解答解説で示すので、ここではポイントだけになりますが、まず、予定配賦率@2,750が与えられているので、これに基準操業度3,000hを乗じて、基準操業度における製造間接費予算8,250,000円を計算します。実際操業度は2,900h、保全サービス部の実際発生額は8,207,000円(=各製造部門への実際配賦額合計3,962,000円+4,245,000円)なので、これらを固定予算制度の差異分析図に計上していけば、②差異総額、③予算差異、④操業度差異が算定できます。

次に、「複数基準 + 予定配賦」です。基準操業度における予算額8,250,000円から固定費の予算額4,500,000円を控除すれば、基準操業度3,000hにおける変動費予算額3,750,000円を算定できるので、これを3,000hで除せば、変動費率は、1,250円/hとなります。実際操業度2,900hや保全サービス部の実際発生額8,207,000円は、上記と同じなので、これらを「複数基準 + 予定配賦」の差異分析図に計上していけば、⑤の予算差異が算定できます。さらに、実際発生額8,207,000円は変動費3,915,000円と固定費4,292,000円から構成されていることから、これを分析図に計上すれば、⑥変動費予算差異と⑦固定費予算差異を算定できます。

問題2  度外視法と非度外視法の計算(理論はマテリアルフローコスト会計)

マテリアルフローコスト会計は、かつては試験の出題範囲に含められており、2009年、2011年、2012年、2013年の短答式試験でも出題されています。その後、試験の出題範囲から除外されたので、ほとんどの専門学校で、講義の対象から除外しています。しかし、残念ながら、本試験では、このような論点も出題さます。そこで、FINでは、試験の範囲外であることを明示した上で、短答対策のテキストで5ページ費やして、マテリアルフローコスト会計の理論と計算の解説講義を行っています。

ただ、本問の計算は、伝統的な度外視法と非度外視法の計算だけです。問題文中に、マテリアルフローコスト会計というワードを連呼しておきながら、特徴のある計算を行うマテリアルフローコスト会計の計算自体は問われていません。

理論については、以下の論点が出題されました。
問3: 異常仕損費の会計処理
問4: 副産物の会計処理
問5: マテリアルフローコスト会計(語句の選択)
問3の異常仕損費の会計処理ですが、「原価計算基準5: 非原価項目」において、異常仕損費が非原価とされるのは周知の通りです。非原価は、「製造原価+販管費」以外ということで、営業外費用か特別損失とされます。「基準」はここまでしか規定していませんが、「特別損失」というと、土地売却損や火災損失と行った、臨時的・偶発的な損失項目ということになります。本問の異常仕損費は、当月までは継続的に発生していたことが読んで取れるため、「営業外費用」としておくべきでしょう。
問4は、基準28です。原価計算基準は、穴埋め問題集で克服するのが効率的です。
問5は、マテリアルフローコスト会計についての語句の穴埋め問題4つです。試験の範囲外なので、ゼロでも構いません。ただ、マテリアルフローコスト会計の計算は、非常に特徴的なので、一度でも囓ったことがあるのであれば、頭に残りやすく、4問中3問は簡単に得点できる問題でした。

計算については、以下の論点が出題されました。
問1: 度外視法による計算
問2: 非度外視法による計算
計算条件は、先入先出法、仕損は定点発生、正常仕損にも異常仕損にも評価額あり、正常仕損費を以上仕損品にも負担させる、といった、ごく一般的な総合原価計算の計算問題です。

第2問

問題1  予算実績差異分析

資料を見れば、予実分析とABCが問われていることがすぐに分かります。予実分析は「パターンに当てはめれば簡単なはず!」、ABCも同じような計算を繰り返すだけなので、「手間がかかるが難しくないはず!」といった印象でスタートしていったはずです。
ところが、推定箇所が多く、ほとんどの受験生がABCにたどり着くことなく、タイムアップとなったであろう難しい問題でした。

第一問の「問題1:部門別計算」と、「問題2:度外視法、非度外視法の計算」でしっかり得点できているのであれば、本問は壊滅状態でも合格ラインにはたどり着けるでしょうから、解けなかった受験生も、あまり気にする必要はありません。作問者が多大な時間をかけて制作した力作です。

理論については、以下の論点が出題されました。
問1: トップダウン型の予算編成の利点
問3 設問1: 例外管理
問3 設問2: 会話の穴埋め
問4: 総需要量差異(不利差異)と製品戦略

前述したように、計算が厳しく、問4の理論も計算絡みなので、問1、問3で得点したいところです。しかし、問3設例1の「製造部門長の意見の基礎にある考え方を答えなさい」というような問われ方だと、「例外管理」というワードは中々思いつかないものです。また、問3設例2の「会話の穴埋め」は、「何を書けば良いのか、皆目見当がつかないなぁ」という印象を受けたはずです。検討してみましょう。

「(注1)からすれば、操業度に関連する活動ドライバーを持つのは、加工活動と管理活動なので、この2つが『単位レベルの活動』かなぁ?」 → 「そうすると、『工場支援レベルの活動』は存在しないことになるので、「他の活動」は、段取活動、搬送活動、注文処理活動、検査活動の4つになるなぁ?」 「あれっ??、問題文では、『3つの活動を優先的に削減でき』としているぞ」となって、「そっか、「 C 」には、4つの活動が3つに絞り込まれている根拠を書けばいいんだ!!」という連想ゲームのような展開を期待した作問なのかもしれません。ほぼ、回答不能な問題です。

問4の 「総需要量差異(不利差異)と製品戦略」については、受験生の能力を測るという意味では、良い設問ですが、残念ながら、計算に時間がかかりすぎて、ここまでは、たどり着けないでしょう。また、この問題の答案に多くのスペースをとるくらいなら、第一問の配賦計算の伝統的な理論にもう少し答案スペースを用意して欲しかったところです。

計算については、推定箇所が多く、難しかったです。
まず、製品Aの原価標準中の(イ)を基準操業度の設定と絡めて推定計算します。基準操業度52,000hは(イ)×40,000個+(イ+0.2h)×10,000個で設定されているはずです。これにより(イ)= 1h/個。そして、(ウ)= (イ)1h/個+0.2h/個=1.h/個となります。

次に、製品Aの原価標準は、販売価格@9,000 ×(1-売上総利益率0.3)= 6,300円/個となるので、これと先程算定した(イ)を利用して、直接材料費の原価標準を1,150円/kg×2kg/個と計算します。これにより、製品Bの標準材料費が1,150円/kg×(2kg×1.5)となりますので、加工費を加えて、製品Bの原価標準が@8,250円/個となります。

ここからは予実分析図を埋めながら計算していくことになります。製品Aの総需要量差異が△14,400,000円で販売価格が@9,000円/個なので、総需要量差異算定のベースとなる販売量の差異は、△14,400,000円÷9,000円/個= △1,600個となり、分析図のB’Oが38,400個(=40,000個-1,600個)となります。これは、実際総需要量192,000個に予算の市場占有率を乗じたものですから、予算市場占有率は20%(=38,400個÷192,000個)と逆算で求めることができます。製品Aの予算販売量40,000個は、予算の総需要量に、この予算市場占有率20%を乗じて計算されているはずなので、製品Aの予算の総需要量は200,000個(=40,000個÷20%)と逆算することができます。

さらに、製品Aと製品Bの予算の総需要量は等しいと言うことなので、製品Bの予算の販売量10,000個を製品Bの予算総需要量200,000個で除して、製品Bの予算市場占有率が5%と算定できます。

そして、全体の売上数量差異が+3,980,000円で、そのうち製品Aの分が+2,880,000円(=@9,000×(40,320個-40,000個))なので、製品Bの販売数量差異は+1,100,000円となります。これを利用すれば、製品Bの総需要量差異は△22,000,000円(=+1,100,000円-23,100,000円)と計算できます。

そうすると、製品Bについて、次の関係が成立します。
市場占有率差異+23,100,000円=予定価格×実際総需要量×(6%-5%)
総需要量差異△22,000,000円=予定価格×(実際総需要量-予算総需要量200,000個)×予定市場占有率5%
予定価格をX、実際総需要量をYとして、連立方程式を解くと、予定価格=13,750円/個、実際総需要量=168,000個となります。

長くなるので、当ブログはここまでとして、あとは解答解説に委ねます。また、ABCの計算資料を与えておきながら、計算問題は、「(サ)削減後の製造間接費の総額」だけでした。「削減後の製造間接費の総額」は、計算に時間がかかるのが容易に想像できるので、手をつけないのが賢明です。
仕事熱心な作問者が時間をかけて、誠実に作り上げた問題ですが、30分では、到底、解ききることのできない問題でした。

問題2  事業部制組織の管理会計(残余利益)

問題1の「予算実績差異分析」を早々に切り上げて、この「事業部制組織の管理会計」に集中していれば、良い結果が得られたはずです。計算は「また、推定問題!」でしたが、理論問題も含めて、比較的得点しやすく感じました。

理論については、以下が出題されました。
問3 設問2: 単年度ベースの残余利益による業績評価の問題点
問3 設問3: 複数期間ベースの残余利益による業績評価の利点
設問2については、過去問で出題されたこともあるので、正答する必要があります。
設問3は、問題の作られ方から、「残余利益の割引現在価値合計」が「正味現在価値」と一致することを書いてほしそうです。与えられている資料を使って、両者を計算してみると、確かにそうなります。
残余利益の割引現在価値 = △5,436/1.09 + 2,880/1.093 + 10,254-1.093 = 5,372.57・・・千円
正味現在価値(NPV)= 33,024/1.093 + 38,460/1.093 + 43,044/1.093 - 90,000 = 5,372.57・・・千円
長期的な投資案の優劣を判定する際の判断基準については、「正味現在価値法が最強!」とされています。その「正味現在価値(NPV)」と「残余利益の割引現在価値」が等しいということであれば、「業績評価指標については、『残余利益が最強!』っていっていいんじゃない?」というような話です。 

計算については、以下の論点が出題されました。
問1: ROE(=税引き後利益÷自己資本)と、投下資本に対する営業利益の割合の計算(推定あり)
問2: 各事業部の投下資本営業利益率の計算、及び損益計算書の空欄の推定
問3: 各事業年度の残余利益の計算

問1は、またもや推定箇所のある問題です。(ア)は、〔資料Ⅰ〕の1. ではなく、2. から計算します。
自己資本コスト率×75%+支払利子率2%×(1-税率40%)×25% = 9.3%が成立するので、自己資本コスト率(ア)= 12%となります。
次に、(イ)は、投下資本営業利益率ということなので、分母となる「投下資本」と分子となる「営業利益」の金額を計算します。先に、投下資本ですが、有利子負債216,000千円と自己資本比率75%から、投下資本は 864,000千円(=216,000÷(1-0.75))となります。自己資本は 648,000千円(=864,000-216,000)です。
さらに、ROE(12%)=税引後当期純利益 ÷ 自己資本648,000が成立するため、税引後当期純利益は 77,760千円、税引前当期純利益は129,600千円(=77,760÷(1-税率0.4))、そして、税引前当期純利益 129,600に負債利子4,320(=負債利子216,000×支払利率2%)を加えると、営業利益は、133,920千円となります。従って、(イ)は、133,920 ÷ 864,000 ×100 = 15.5%となります。

同様にして、ウ~ケを埋めていきますが、詳細については、解答解説をご参照ください。