令和2年度公認会計士短答式試験第Ⅰ回~講評~企業法

今回の企業法は、出題分野は例年並みで大きな変化はなかったようです。後半は細かな内容が多く、難しかった印象です。Aランク9問、Bランク10問、Cランク1問です。以下、個別に確認していきましょう。

 

問題1:営業譲渡 A

ア.誤り(商法16条1項)
譲渡人が一定の区域内で同一の営業を20年間行ってはならないのは、当事者の別段の意思表示がない場合に限られます。

イ.誤り(商法16条2項)
同一の営業を行わない旨の特約は、10年ではなく、30年の期間内に限り、その効力を有するものとされています。商法16条2項

ウ.正しい(商法18条の2第1項)
譲渡人が残存債務者(譲渡されない債務の債権者)を害することを知って営業を譲渡した場合、残存債務者を害する事実を譲受人が知らなかった場合を除き、残存債務者は譲受人に対して、継承した財産の価額を限度として債務の履行を請求できます。

エ.正しい(商法18条1項)
譲受人が債務引受の広告をした場合は、商号の続用がないときであっても、譲受人は、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負うこととされています。

問題2:商人の報酬等 B

選択肢エ以外は、どこのテキストに掲載されているような基本論点ですが、苦手にする受験生が多いので、Bランクとしています。
ア.誤り(512条)
商人は営業の範囲内の行為について、特約がなくとも報酬を請求できます。

イ.正しい(550条2項)
宅地建物取引業者は、他人間の商行為の媒介をなすことを業とする者であるから仲立人にあたります。仲立人の報酬は当事者双方が平分して負担することとされています。

ウ.誤り(583条2項)
運送を完了した場合、運送人は特約がなくとも報酬(運送賃)を請求できます。そして、その債務は、荷送人と運送品受取後の荷受人の連帯債務とされています。

エ.正しい(商法611条)
倉庫営業者は、寄託物の出庫の時以後でなければ、保管料等の支払を請求することができません。ただし、寄託物の一部を出庫するときは、出庫の割合に応じて、その支払を請求することができることとされています。

問題3:株式会社の設立 A

設立は範囲が広いので、2問出題してほしい分野です。すでに過去問で、多くの論点が出題されていて、エは2012年第2回と全く同じ問題です。
ア.正しい(30条1項)
株式会社の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じないこととされています。

イ.誤り(28条3項)
株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称については、定款に記載し、又は記録しなければ、その効力が生じないこととされています。

ウ.正しい(34条1項但書)
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付する必要があります。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げないこととされています。

エ.誤り(参考:832条)
持分会社には設立取消訴えの制度(832)がありますが、株式会社にはこのような規定はありません。

問題4:株券 A

選択肢ウでは判例が問われていますが、テキストにも掲載のある有名な判例であること、アとイが明らかに「正しい」ので、Aランクとしています。
ア.正しい(131条2項)
株券の交付を受けた者は、その者に悪意又は重大な過失があるときを除き、当該株券に係る株式についての権利を取得します。

イ.正しい(128条1項但書)
株券発行会社の株式の譲渡は、原則として、株券を交付しなければ、その効力を生じませんが、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでないこととされています。

ウ.誤り(最判昭40.11.16)
株券は、会社が株券を作成し株主に交付したときに効力が発生します(判例)。

エ.誤り(228条1項)
株券喪失登録された株券は、株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過した日に無効となります。裁判所の決定は不要です。

問題5:特別支配株主の株式等売渡請求 B

細かい条文知識が必要になるため、Cランクに近い問題です。
ア.誤り(179条の2第1項2号)
株式売渡請求は、株式売渡請求により株式を売渡株主に対して売渡株式の対価として交付する金銭の額又はその算定方法を定めてしなければならない(179の2Ⅰ②)、とされているため、売渡株式の対価は「金銭」に限られます。

イ.誤り(179条の3第3項)
特別支配株主は、株式等売渡請求をしようとするときは、対象会社に対し、その旨及び一定の事項を通知し、その承認を受ける必要がありますが、取締役会設置会社においては、その承認をするか否かの決定は、株主総会の特別決議ではなく、取締役会の決議によることとされています。

ウ.正しい(179条の7第1項1号)
株式売渡請求が法令に違反する場合、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、特別支配株主に対し、株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができます。

エ.正しい(846条の2第1項)
株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得の無効は、取得日から6箇月以内(対象会社が公開会社でない場合にあっては、当該取得日から1年以内)に、訴えをもってのみ主張することができます。

問題6:公開会社の募集株式の発行 B

細かい条文知識や判例知識が必要になるため、Cランクに近い問題です。
ア.正しい(207条9項1号)
募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合は、当該募集株式の引受人が給付する現物出資財産の価額については、検査役の調査は不要とされています。

イ.誤り(208条3項)
募集株式の引受人は、出資の履行をする債務と株式会社に対する債権とを相殺することはできません。

ウ.誤り(209条3項)
仮装払込があった募集株式を譲り受けた者は、その者に悪意又は重大な過失があるときを除き、当該募集株式についての株主の権利を行使することができます。資本充実よりも株式取引の安全が優先されています。

エ.正しい(最判昭46.7.16)

問題7:機関設計 A

選択肢イ以外は簡単でした。
ア.誤り(326条1項)
取締役会設置会社は3人以上、取締役会非設置会社は1人で足ります。

イ.正しい(326条2項)
株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができます。会計監査人設置会社において、会計参与の設置を認めない旨の規定は存在しません。

ウ.正しい(327条4項)
監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない、とされています。

エ.誤り(390条3項参照)
監査委員会による監査は、内部統制システムを利用した監査を前提とするため、常勤としなくとも、情報収集の点で問題がありません。そこで、監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない(390Ⅲ)、といった規定は設けられていません。

問題8:株主総会 B

ア.誤り(309条1項)
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うこととされています(309Ⅰ)。このとき、定款によって、定足数を加重又は軽減、廃止することもできますし、決議要件を加重又は軽減することはできますが、決議要件を出席した株主の議決権の過半数よりも引き下げることまでは認められません。資本多数決の原理から外れてしまうからです。

イ.誤り(306条5項)
検査役は、必要な調査を行い、当該調査結果を株主ではなく、裁判所に提供して報告をしなければならないこととされています。

ウ.正しい(339条1項、309条1項)
会計監査人の選解任は、普通の普通決議で足ります。

エ.正しい(831条1項3号、369条1項2項)
会社法は、会社の利益を保護するため、競業取引を行う取締役は、特別利害関係人として、取締役会の承認決議に参加できない(369Ⅱ)といった規定を置いていますが、株主が株式会社の実質的所有者であることから、特別利害関係のある株主が株主総会で議決権を行使する権利までは排除しません。特別利害関係人による著しく不当な決議は「決議取消しの訴えの制度」で解決することにしています。

問題9:株主総会決議の取消し B

イとエが易しいので、2つにまで絞ることができますが、アはテキスト掲載条文ですがやや細かく、ウは知らない判例でした。
ア.正しい(836条1項但書)
株主が訴えを提起した場合、会社の申立てにより、裁判所は、当該株主に対し相当の担保提供を命ずることができます。ただし、当該株主が取締役、監査役、執行役等であるときは、会社に対する監督是正権を行使していると考えられるので、担保提供は不要であり、除外されています。

イ.正しい(831条1項2号)
一定の場合には、株主等は、株主総会等の決議の日から3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができます。株主総会等の決議の内容が定款に違反するときは、この一定の場合とされています。

ウ.誤り(最判平28.3.4)
議案を否決する株主総会決議について、当該決議の取消を請求する訴えは不適法とされています。

エ.誤り(831条1項柱書)
決議取消により取締役・監査役・清算人・株主の地位を回復するものも主張権者となれます。

問題10:代表取締役 A

ア.正しい(349条3項)
取締役会非設置会社においては、代表取締役・会社を代表する者を選任する場合、定款・定款の定めに基づく取締役の互選、又は株主総会決議により、取締役の中から選定します。

イ.正しい(350条)
株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うこととされています。

ウ.誤り(362条4項3号)
取締役会は、一定の事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないこととされていますが、「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」は、その一定事項に含まれています。

エ.誤り(351条1項)
代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役(次項の一時代表取締役の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有することとされています。従って、解職の場合は、代表取締役としての権利義務は継続しません。

問題11:監査等委員会設置会社、役員の報告義務 A

ア.誤り(357条1項3項

会社に著しい損害を及ぼすおそれがある事実についての取締役の報告義務は、監査役等設置会社では株主に対してではなく監査役等への報告となります。

イ.誤り(375条1項3項

取締役の不正行為・法令定款違反等に関する関係参与の報告は、株主に対して行い、監査役等設置会社では監査役等に対して行います。

ウ.正しい(399条の12)

取締役、会計参与又は会計監査人が監査等委員の全員に対して監査等委員会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を監査等委員会へ報告することを要しません。

エ.正しい(397条1項4項)

会計監査人は、その職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、これを監査役等に報告しなければならないとされます。

問題12:指名委員会等設置会社 A

ア.正しい(420条3項349条4項)

指名委員会等設置会社では、取締役会は、執行役の中から代表執行役を選定しなければならないとされ(420条1項)、代表執行役が会社を代表するため、代表取締役は選定されない。

イ.誤り(344条404条2項

会計監査人の選任・解任・不再任に関する議案の内容は、監査役(の過半数)・監査役会設置会社では監査役会、指名委員会等設置会社が決定します。

指名委員会等設置会社の指名委員会が決定するのは、取締役・会計参与の選任・解任の議案です。(404条1項)

ウ.正しい(404条3項)

執行役が指名委員会等設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても、報酬委員会が決定します。

エ.誤り(402条6項

執行役は取締役を兼務できます。

問題13:剰余金の配当、分配可能額 A

財務会計の知識で対応できたと思います。分配可能額の算定において、イ.自己株式の帳簿価額とウ.自己株式の処分の対価が調整項目に含まれています。

問題14:剰余金の分配等、欠損填補責任 B

ア.誤り(465条1項10号ハ.448条1項.449条

株主総会の決議に基づく剰余金の配当であり、債権者保護手続きもとられているので、業務執行者は欠損填補責任を負いません。

イ.正しい(465条1項6号)

会社が全部取得条項付種類株式の全部を取得したとき(173条1項)、業務執行者は欠損填補責任を負います。

ウ.正しい(465条1項1号)

譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式を買い取るとき(140条1項)、業務執行者は欠損填補責任を負います。

エ.誤り(465条1項10号イ

定時株主総会の決議に基づく剰余金の配当であり、業務執行者は欠損填補責任を負いません。株主総会の決議がある剰余金の分配である場合にも、業務執行者に欠損填補責任を負わせるのは、業務執行者の責任が加重となって配当が行われにくくなり、株主の利益に反すると考えられるためです。

問題15:持分会社  B

ア.正しい(580条2項)

有限責任社員は、その出資の価額(既に持分会社に対し履行した出資の価額を除く)を限度として、持分会社の債務を弁済する責任を負います。

イ.誤り(581条1項

社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合には、社員は、持分会社が主張することができる抗弁をもって当該持分会社の債権者に対抗することができます。

ウ.正しい(582条1項)

社員が金銭を出資の目的とした場合において、その出資をすることを怠ったときは、当該社員は、その利息を支払うほか、損害の賠償をしなければならないとされます。

エ.誤り(587条

持分会社は、その持分の全部又は一部を譲り受けることができなず、合併等により持分を取得した場合には、その持分は、当該持分会社がこれを取得した時に消滅します。株式会社の自己株式の取得とは違う点として覚えておくと忘れにくいですね。

細かな内容ばかりで難しかったと思います。

問題16:社債 B

ア.誤り(金商法2条3項1号.4条1項.5条1項)

50名以上(多人数)の者への有価証券の取得勧誘として、有価証券届出書の提出が必要な「募集」に該当する、というのは金商法の知識になります。

イ.誤り(724条3項

債権者集会では、招集通知に記載された目的である事項(719条2号)以外の決議はできません。

ウ.正しい(734条1項)

社債権者保護の観点から、社債権者集会の決議は、裁判所の認可を受けなければ、その効力を生じないとされます。

エ.誤り(706条1項2号.676条8号

社債管理者は、社債権者集会の決議によらなければ社債全部についての破産手続きに属する行為ができませんが、これができる旨の定めを募集事項として定めるときは、この限りでないとされています。

イとウの正誤判定は分かりやすいですが、それだけでは正答できないので難しい問題でした。

問題17:組織変更 B

ア.正しい(781条1項)

組織変更をする持分会社は、効力発生日の前日までに、組織変更計画について当該持分会社の総社員の同意を得なければなりません。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでないとされます。

イ.誤り(776条

株式会社の組織変更には総株主の同意が必要なので、反対株主は存在しないことになります。

ウ.誤り(775条1項

株式会社の組織変更の書面等の備置期間は、効力発生日までです。

エ.正しい(828条1項6号.2項6号)

会社の組織変更は、組織変更の効力が生じた日から6ヶ月以内に、訴えをもってのみ主張することができます。提訴権者は、組織変更をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは組織変更について承認をしなかった債権者です。

問題18:吸収合併 B

ア.誤り(794条1項

吸収合併契約等の備置期間は、効力発生から6ヶ月後までです。

イ.誤り(749条1項

吸収型再編である吸収合併では、対価の柔軟化が認められており、対価に制限はありません。

ウ.正しい(788条6項)

新株予約権買取請求に係る新株予約権の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずるとされます。

エ正しい(843条1項1号)

吸収合併無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該行為をした会社は、当該行為の効力が生じた日後に吸収合併後存続する会社が負担した債務について、連帯して弁済する責任を負います。

アとエが細かい内容で正誤判定しにくく、難しかったと思います。

問題19:有価証券報告書 B

ア.正しい(金商法24条1項1号)

特定上場有価証券(特定取引所金融商品市場のみに上場されている有価証券.2条33項)は、発行開示・継続開示の対象外です。

イ.誤り(金商法24条1項

資本金の額が5億円未満の会社は開示義務無しとされますが、これに内閣総理大臣の免除は必要ありません。

ウ.誤り(金商法24条1項

有価証券報告書は流通開示(継続開示)書類であり、発行開示書類である有価証券届出書のように証券情報の記載は必要ありません。

エ.正しい(24条の5第4項)

有価証券報告書を提出しなければならない会社は、その会社が発行者である有価証券の募集又は売出しが外国において行われるとき、臨時報告書を、遅滞なく、内閣総理大臣に提出しなければならないとされます。

アエの正誤判定がしやすかったので、正答できたと思います。

問題20:有価証券の発行登録 C

ア.誤り(金商法23条の3

発行登録書提出により、募集の届出(有価証券届出書の提出)なく、機動的に有価証券の発行が可能となります。

イ.正しい(金商法23条の3第4項)

一時的に有価証券報告書の提出義務がなくなったことが、発行登録の利用適格要件の喪失とならないための規定です。

ウ.誤り(金商法23条の6

発行登録の有効期間は効力発生日から1年又は2年間です。

エ.正しい(金商法23条の7第1項)

発行予定期間を経過する日前において発行予定額全額の有価証券の募集又は売出しが終了したときは、発行登録者は、内閣府令で定めるところによりその旨を記載した発行登録取下届出書を内閣総理大臣に提出して、発行登録を取り下げなければならないとされます。

発行登録制度の中では代表的な内容だったと思います。


以上です。