令和5年度第Ⅰ回公認会計士短答式試験講評~管理会計論
令和5年第Ⅰ回 管理会計論 短答式本試験の講評です。
今回もいつも通り16問が出題され、理論8問、計算8問という内訳でした。
計算では、連産品の問題6が「解なし」となってしまいました。
ただ、資料の多さから、ほとんどの受験生が「回避すべき」と判断したはずです。
容易な計算は、個別原価計算の問題4、製造間接費差異分析の問題8、事業部制組織の問題15の3問です。残りの計算4問は、平均的な難易度なので、2問は正答しておきたいです。
理論では、誤った記述の個数を答える問題3がCランクになります。残りの理論7問は、5問程度は正答して欲しい内容でした。
合格ボーダーは、問題6が全員正解扱いであったとして 73点と予想しています。
詳しい解答・解説はこちらからどうぞ。
令和5年第Ⅰ回公認会計士短答式~管理会計論
問題1:原価計算基準~11.材料費計算***(理論)
理論でよく出題され、計算でも重要な「基準11」からの出題です。
「基準11」は、細かく、やっかいですが、問題2も「基準11」なので、短答式試験の受験上、避けては通れないものです。
「わが国の「原価計算基準」に照らして認められるもの」ということなので、問題文の経理規定が「基準」の原則処理はもちろんのこと、容認規定であっても「正しい」と判定することになります。
問題2:費目別計算**(計算)
原価計算基準に従って、「外部副費と内部副費の区別ができるか?」が問われました。「対外的に支払われるのか、内部的に消費されるのか?」による区別です。
難しい論点は含まれていませんが、費目別計算は過去に難しい問題や作問ミスがあったことから、苦手意識をもつ受験生の多い分野です。
5分程度費やして出口が見えなければ、撤退するのが賢明ですが、本問は5分以内に正答できるレベルの問題でした。
問題3:原価計算基準*~31.32.33.34.36(理論)
久しぶりに、誤った記述の個数が問われました。個数問題は正答率が落ちるので、Cランクにしました。
多くの受験生が「全ての記述が正しい気がする。」という印象だったと思います。そういう場合に、「0個」とした人もいれば、「0個っていうのも何だから 1 個!」としてしまった人もいたはずです。
後々後悔しないためにも、前者を選択するようにしましょう。
問題4:個別原価計算***~仕損費の直接経費処理(計算)
補修指図書、全部代品指図書、一部代品指図書、直接経費処理に加えて、補修指図書を発行しないケースが問われたました。
個別原価計算は、パズル的な時間のかかる推定問題が何回か出題されていますが、その計算パターンでない限り、容易な問題が多く、今回も短時間で正答できる問題でした。
問題5:原価計算基準***~22.28.29.30(理論)
総合原価計算に関する原価計算基準の規定は、計算問題を解くにあたっても必要なので、受験生にとってはなじみ深いものです。
本問は、「基準30」直接原価計算と「基準22」等級別総合原価計算の記述が「誤り」でしたが、いずれもよく知られた論点だったので、正答が必須の問題でした。
問題6:連産品(正常市価基準)***~追加加工あり(計算)
本試験問題のままだと、「解なし」になってしまうので、問題文に訂正が必要です。
復習するのであれば、訂正後の問題文を利用すると上手くいきます。
第1工程の連結原価2,089,000千円は、「分離された時点(第1工程終点)において、幾らで販売できるか?」を基準に配分すべきですものです。
追加加工を前提とする場合は、「300円/kgの追加加工費をかけたら 3,100円/kg(←訂正前の数値)で販売できるのであれば、追加加工前の分離時点では、2,800円/kgで販売できるはず。」と考え、連産品Bへの配賦基準には 2,800円/kgを使用する必要があります。
(作問者は、追加加工を前提としているにもかかわらず、連産品Bのまま販売するときの価格2,500円/kgを用いて解答を作成しています。連産品Cの販売価格を 3,100円/kgから 2,800円/kgに修正すれば、正しい計算方法によっても、作問者が用意した解答1,800円/kgになります。)
問題7:標準原価計算***(理論)
ウ.の勘定記入法と差異の把握時点やエ.の動作研究・時間研究の記述には、やや苦手意識を持つ受験生もいますが、ア.の理想標準原価が制度としての標準原価でない点や、イ.の標準価格の設定が不適当な場合に生ずる原価差異の処理については、とても有名な論点になります。
正答必須です。
問題8:製造間接費のSC差異分析***~2分法.3分法.4分法(計算)
不利差異は借方差異、有利差異は貸方差異です。
不利差異は「利益に不利になるように会計処理する差異」で、利益に不利になるのは費用項目で、費用項目は仕訳で借方にくるので、「不利差異は借方差異」ということです。
問題9:管理会計の基礎知識**(理論)
ア. は、2011年の過去問「末端の従業員が利益責任を追及されることはない。→ 誤り」というのが印象的だったので、テキストで紹介している論点です。
イ. は、PPMの内容そのものなので難しくはないはずです。そうすると、4. か 5. というところまでは絞れる問題でした。
エ. は、PAFアプローチの修正モデルまで考慮すると、解答が変わってくるので、単独では正誤判定ができません。どこまで、例外事項を考慮するかは、短答の正誤判定で頭を悩ますところですが、迷ったら、例外的事項は除外して判定した方が正答できる可能性は高い印象です。
ウ. は、「資源アプローチの視点から」というところが誤りなのですが、難しいですね。
問題10:CVP分析**(計算)
算数が苦手な受験生で、CVP分析を完全に捨てたまま合格する人もいます。
本試験で苦手分野を完全に捨てるのは、お薦めの戦術ですが、たまには、苦手な論点も丁寧に紐解いてみてください。
できなかったことがいつの間にかできるようになっていることもよくあることです。
問題11:予算管理**(理論)
ア. のトップダウン型予算ではなく、ボトムアップ型予算の編成が予算スラックを誘発するので、「誤り」、イ. が「誤り」、ウ. が「正しい」というのは直ぐに判定できるので、選択肢は、4.か 6.にまで絞れます。
あとは、イ.とエ.のどちらが「誤り」のはずです。
エ. については、一読した限り、「正しい」と判定してしまいそうです。しかし、経営管理の世界では、常に、「経営環境の激しい変化」が叫ばれているわけで、「さすがに、前年度実績に基づいて予算を策定することで時間の節約!というのは安直すぎるだろう。」ということで「誤り」と判定すべき記述です。
実際のところ、中国のゼロ・コロナ政策、ロシヤによるウクライナ侵攻による半導体不足、エネルギー価格の急激な上昇、さらに、AIやメタバース導入など、企業環境が急激に変動しています。そういった中で、「前年度実績に基づく予算の策定が有効なはずがない。」といった発想ができたかです。
最後にイ. ですが、「実行予算」の定義づけが問われました。テキストでは、「実行予算」を「大綱的な年次予算を基本予算とし、これをブレーク・ダウンした月次予算や四半期予算」としています。
その上で、ブレーク・ダウンするプロセスで、経営環境の変化などを加味しても、「おそらく、実行予算と呼ばれるはずかな?」といった感覚で、「正しい」と判定して欲しい問題でした。
問題12:設備投資の経済計算**(計算)
年々の現金流入額が等しいので、初期投資額を年々の現金流入額で割った数値を算定し、その数値を年金現価係数表で探します。あとは、補間法を使いこなせていれば、短時間で正答できる問題です。
補間法は、「三角形の相似形を利用した解法」ということが理解できれば、色々と応用が利くので、できれば、克服して下さい。
問題13:活動基準原価計算(ABC・ABM)***(理論)
ABC、ABMに関する基本的な問題で、4つの記述ともに、迷うことなく正誤判定できるレベルです。
サービス問題なので、正答必須です。
問題14:差額原価収益分析**(計算)
意思決定問題の解き方は、人によってアプローチの仕方が異なっていても構わないわけですが、例えば、問題文を読んで、計算すべき項目を日本語にしてから、それぞれの項目の計算に集中する方法があります。
本問であれば、「部品Xの製造を中止することによって節約できる原価」、「部品Yを外部市場から購入することによって増加する原価」、「余剰生産能力を利用して製品Bを生産・販売することによって増加する利益」の3項目を下書き用紙に書いて、それぞれの計算に集中すれば、正答できる可能性は高かったはずです。
問題15:分権組織の管理会計***(計算)
ア.では、事業部長の業績評価を行うので、管理可能個別固定費を控除した管理可能利益を利用します。ここで間違える人はいないはずです。
本問で間違えるとすれば、イやウの計算でも、事業部長にとっての管理可能個別固定費を控除してしまうパターンです。
イ.やウ.のように、事業部自体の業績評価を行う際は、事業部に跡付け可能な個別固定費を用いるべきですから、事業部長にとっての管理可能個別固定費は使わないことに留意してください。
問題16:資金管理**(理論)
短答式の資金管理については、難しい過去問がいくつかあること、出題されても16問中 1 問だけで、学習していなくても他の分野への影響が少ないこと等の理由で、そもそも「捨てる分野」としている受験生もいます。
ただ、本問は、資金管理というよりも、財務諸表分析の色彩が濃く、比較的易しかったです。