公認会計士 論文式試験(令和元年)租税法~講評
元号が令和に変わっても、租税法の問題は相変わらず23ページもありました。配点は、理論40点、計算60点です。理論の配点が大きいので、理論で効率よく点数を稼いでおきたいです。ただ、計算に時間を残しておきたいので、テンポ良く解き進めることが大切です。計算の解答箇所は60箇所でした。法人税30点、所得税15点、消費税15点です。毎年ですが、理論7割、計算5割を目安に解くことになります。
第1問
問題1
以下の理論が出題されました。
問1: 適格現物出資(法人税法)
問2: 特定譲渡制限付株式(法人税法)
問3: 国庫補助金による圧縮記帳(法人税法)
問4: 上場株式の取得費(所得税法)
問題1は、4問中3問の結論を合わせにいきます。問1は、現物出資(法62の4)の適格要件が問われました。従業員引継ぎ要件(概ね80%)が問われていることは問題文から明らかです。問3は計算でも問われていた圧縮記帳(法42Ⅰ)です。受け取った国庫補助金の返還不要が確定しており、補助金の額より取得原価の方が大きいので、交付金相当額まで圧縮損の損金算入が認められます。
問1と問3が簡単だったので、あとは、問2と問4のいずれかを狙いにいきます。問4は所得税法で、しかも外国絡みなので、避けた方が良さそうです。残るは問2ですが、平成28年税制改正のリストリクテッド・ストックが出題されています。これは、「特定譲渡制限付株式」といわれるもので、付与された個人は、付与された日ではなく譲渡制限が解除された日に、その日の株式の価額で課税されます。今回は、法人側の処理が問われていますので、付与日が属する事業年度ではなく、譲渡制限が解除された日が属する事業年度に一定の要件のもとで、「事前確定届出給与」として損金算入が可能である旨が要求されています(法34条Ⅰ②)。知らなかった受験生が多いはずですが、54条の条文は見つけることができたのではないでしょうか。ただ、今年度の問題1は、問1と問3だけでも大丈夫だと思います。
問題2
以下の理論が出題されました。
問1: 債権放棄した貸付金の損金性(法人税法)
問2: 保険金の所得区分(所得税法)
問3: 役務の無償提供(法人税法)
問4: 返品された商品の消費税(消費税法)
問5: 残余財産の分配(法人税法)
問題2は、5問中4問(=①~⑤のうち4つ)の結論を合わせにいきます。問1は、「回収不能であることが客観的に明らか」とあるので損金経理を要件に損金算入が可能と判断することもできますが、貸倒損失の計上根拠は実務上厳格に解されるので、判断の難しい問題です。受験上は前者で良いと思いますが、いずれの結論をとるにせよ、貸倒損失については、別段の定めがないため、根拠条文は法22Ⅲ③となります。問2は、個人による損害保険金の受取りですが、これに課税すると、倒壊した自宅を直すことができなくなってしまうので、当然に非課税とされています(法9⑰)。問3は法人による役務の無償提供です。2012年にも出題されていますが、100万円を益金とするとともに(法22Ⅱ)、同額を寄附金とし(法37Ⅶ)、損金算入限度額を超える額は損金不算入とします(37Ⅰ)。役務提供側については、有償取引同視説の立場に立って考えると分かりやすいです。問4は消費税法38Ⅰです。いつもの計算問題を思い浮かべれば、結論は直ぐに分かる問題でした。問5は会社の清算ですが、試験範囲には明記されていない分野です。昔は清算の講義もしていましたが、最近は触れなくなった分野です。以上から、問1~問4が得点できていればOKです。
第2問
問題1 法人税法
2019年に限っていうと、税理士の法人税法の本試験よりも計算量は多かったです。こういう場合は、苦手な論点は手をつけずに、好きな論点だけ解くのが得策です。
問1 総合問題
お約束の「受取配当金」、「原価償却」、「租税公課」の3分野で、落ち着いて得点を積み重ねられるかが合否に大きく影響します。ここで、確り得点しておくと、あとは、アドバンテージを得るための得点になります。今回は、お約束の3分野に加え、役員給与、圧縮記帳(保険差益)、貸倒損失、資産評価(棚卸資産)が出題されました。圧縮記帳は10年ぶりの出題ということで、手薄だったかも知れないですが、その他は頻出論点になりますので、比較的得点しやすかったはずです。
問2 控除対象外消費税
控除対象消費税額については、2011年、2013年、2015年に出題され、2017年は出題されずに、2019年の出題となりました。次は、2021年ということでしょうか。構造がユニークで、個人的に好きな論点なので、他校より詳しく講義しています。
問3 グループ法人税制
グループ法人税制は、これで4年連続の出題になります。論文式の場合は、過去5年分の本試験をスラスラ解けるように準備しておけば、合格率はグンとアップします。専門学校によっては過去問を軽視するところもありますが、租税法は特に過去問重視のスタンスが良いと思います。
問題2 所得税法
出題形式は例年通りで、所得の種類は、事業所得、給与所得、譲渡所得(非適格ストック・オプション)、退職所得、不動産所得、雑所得、一時所得でした。残念ながら、配偶者控除や配偶者特別控除は出題されず、青色事業専従者給与(乙)や扶養控除(丙)とされていました。分量、難易度とも平年並みというところでした。
問題3 消費税法
会計士の消費税法は、一般商品売買を前提とした問題ばかりでしたが、2017年に初めて製造業が出題され、今年度は不動産賃貸業が出題されました。不動産賃貸業も答練で出題しておいて良かったです。また、今年の税理士試験も不動産業でした。業種については、会計士試験もほぼ出そろったことになりますが、不動産賃貸業と不動産販売業を平行して営んでいる会社になると、混乱しやすくなって、難易度が上がるので、今後はそういった問題も解いておく必要がありそうです。
以上です。