令和2年度 公認会計士短答式試験第Ⅰ回~講評~監査論
今回の監査論は問題によって難易度のバラツキが大きく、細かすぎる内容も散見されたため、全体としては難しかった印象があります。しかし、改めて内容を確認していくと、4つの記述の全てがどうにも訳が分からないという問題は少なく、3つの正誤判定、場合によっては2つの正誤判定から正答できる問題と考えると、印象よりも実際には得点できているのではないでしょうか。以下、個別に確認していきます。
問題1:監査総論
ア.監査人の責任は過失の有無(正当な注意義務違反の有無)によって判断されるというのは当然の知識としてあるはずですが、故意の有無についてはどうだったかな?と思われたかもしれません。制度論で学習する公認会計士の行政処分規定の「故意又は過失により~」というフレーズを思い出せたなら、自信を持って正しいと判定できたはずです。
イ.適正性に関する意見表明時の判断事項として、表示方法の適切性についての記述がないので誤りと判断できます。
エ.除外事項と追記情報は、保証の枠組みの内と外それぞれで対応すべき事項ですから、除外事項とすべき事項を追記情報とすることは認められません。これも簡単に誤りとできたはずです。
問題2:公認会計士法
イ.指定有限責任社員が無限責任を負う特定証明について、他の社員が指定有限責任社員と同一の責任を負うことはないので、これは誤りです。
ウ.大規模監査法人のローテーション・ルールの対象者には審査に最も重要な責任を有する者も含まれるので、これは誤りです。
イが少し細かい内容ですが、アエが正しいことが明らかなので、正答できたと思います。
問題3:金商法監査
ア.法令違反当事実の申し出の要件からの出題です。細かい内容ではありますが、定番の出題として対策済みと思われますので、「法令違反当事実が財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件の欠如から、自信を持っ誤りとできたはずです。
ウ.訂正報告書の財務諸表にも監査証明が必要なことは、制度論の知識と事後判明事実の知識の両方で確認できたはずです。
確かにどの記述も細かい内容ではありますが、過去問でもよく問われる内容でもあり、対策済みの問題として得点できた方は多いのではないでしょうか。
問題4:会社法監査
ア.会計監査人の義務(~しなければならい)なのか権利(~できる)なのかを正しく区別できているかを問われました。意見陳述権は権利ですから誤りとなります。
エ.監査役は独任制の機関なので、全員一致で監査報告する必要はありません。監査役が監査役会の監査報告と異なる監査報告を有するときは、これを付記することができます。
企業法の機関設計や監査役(会)の知識が役立つ問題でした。企業法では会計監査人は会社の機関の一つとしか学習しませんが、監査論の会社法監査としては会計監査人が重要論点ですから、企業法の学習時にもよく意識して相乗効果を狙いたいところです。
問題5:不正リスク対応基準、品質管理
イ.不正リスクに関連してもたらされる情報への対処は、監査チームの者が行うこともできます。
エ.不正による重要な虚偽表示の疑義がある場合でも、審査が会議体であることは特に求められません。
どれも自信を持って正誤判定しにくい記述なので、個人的に難問だと思います。
問題6:四半期レビュー
ア.四半期レビュー計画は年度の監査計画のなかで策定できますので、誤りです。
ウ.四半期レビュー報告書には「結論の表明の基礎となる証拠を入手したと判断した」旨の記載が行われます。
イエの継続企業の前提に関する記述は細かい内容ですが、場合分けして対策していた方は正誤判定できたと思います。
問題7:内部統制監査
ア.監査人が内部統制の整備・運用状況の検討として経営者の評価結果を利用する場合には、経営者の評価方法を具体的に検証する必要があります。
エ.内部統制監査は財務諸表監査と同一の監査人が実施することが求められており、監査計画も財務諸表監査の監査計画に含めて策定されます。
イウは内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施の観点から正誤判定でき、ウは意見表明の類型として対策済みでしょう。
問題8:内部統制監査
ア.経営者の抽出したサンプル・サンプルの評価結果の利用も、監査人自らサンプルを抽出することも選択できます。
イ.財務報告に対する影響の程度に応じて、重要な事業拠点の選定を見直す等の対応を求めれば良いとされます。
難しい問題でした。
問題9:品質管理
イ.独立性を阻害する要因がセーフガードの適用によっても許容可能な水準まで軽減または除去することができない場合もあり、このときには監査契約の解除が求められることがあります。
ウ.監査責任者と審査担当者の監査上の判断の相違が解決できないまま監査報告書を発行することはできません。
ア正とウ誤の正誤判定は容易ですが、これだけでは正答できないので案外難しい問題でした。
問題10:保証業務
没問です。
問題11:監査基準の改訂
ア.準拠性に関する意見表明の明記は平成26年の改訂点です。改訂年次で正誤判定させるのはいかがなものかと思いますが、一般目的の財務諸表と適正性監査、特別目的の財務諸表と準拠性監査が必ず対応する訳ではないので、この点から判断させたと言うことでしょう。
イ.固有リスクと統制リスクを個別に判断することはせずに重要な虚偽表示リスクとして評価することになりました。
問題12:監査の基準
イ.法令上監査の慣行に従うことが規定されているかは分からなくとも、監査の実務指針は監査の慣行ではないことから誤りとできたでしょう。
エ.特別の利用目的の場合など、財務諸表の一部(財務表)を監査するときにも監査基準は適用されます。
様々に条件設定されて改めて監査基準への準拠が求められるか問われると、自信を持って正誤判定しづらいものですが、監査基準への準拠は全ての公認会計士監査に求められると考えておきましょう。
問題13:監査人の人的条件
ア正イ誤の判定が困難なので、没問です。
問題14:監査計画
イ.審査は監査計画を承認するものではなく、監査の終了をもって監査計画は確定します。
ウ.監査計画の詳細さと査閲時間は直接に関係するものではありません。
イウの誤りは斜め上からの切り口で正誤判定しにくいですが、アエの正誤が明らかなため正答は容易いと思います。
問題15:監査上の重要性
ア.重要性の基準値の指標にの選択は監査人の判断による事項であり、必ずしも予算を適用することは求められていません。
エ.重要性の基準値が引き上げられた場合には、重要な虚偽表示リスクは低くなるので、監査手続きの実施範囲は縮小します。
問題16:特別な検討を必要とするリスク
ア.会計上の見積りを行う際に使用した重要な仮定が合理的であると判断しているかどうかは、経営者確認書の記載事項です。
ウ.特別な検討を必要とするリスクと判断した事項は、監査計画についての監査役とのコミュニケーション事項です。
横断的な問われ方をしているので難しいですが、良問だと思います。
問題17:監査報告
ア.「~のみを評価」と断定されると迷ってしまいますが、正しい記述です。
イ.特別目的の財務諸表の監査報告書には、配布又は利用の制限を付す旨を記載する必要がある場合もあります。
エ.意見不表明とする場合に、個別の財務表等について意見を表明しているかの記載が行われることはありません。
問題18:監査上の主要な検討事項
ウ.特別な検討を必要とするリスクが必ず監査上の主要な検討事項となる訳ではありません。「監査役等とのコミュニケーション事項→(特別な検討を必要とするリスクも考慮)→監査人が特に注意を払った事項→特に重要であると判断した事項」というように絞り込んでいきます。
エ.監査報告書に監査上の主要な検討事項を記載する必要は、守秘義務解除の正当な理由になります。
問題19:コミュニケーション
没問です。
問題20:不正リスク対応基準
ア.不正リスク対応基準は、基本的に金商法監査に適用されるものであり、全ての監査で遵守が要求されるものではありません。
イ.監査チーム内の協議や知識の共有は、監査責任者と主要構成員との間で行われ、全ての構成員を対象とするものではありません。
ウが紛らわしい記述ですが、アイの正誤が明らかなので正答できたと思います。
以上です。