日商簿記1級 第156回 工業簿記・原価計算講評

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、6月の第155回が中止になったため、1年ぶりの1級試験となりました。各試験会場で早期に申し込みが締め切られたため、受験できなかった受験生も多かったと思います。
第156回の出題範囲は、前回実施となる第153回の工業簿記と同じで、費目別計算と活動基準原価計算でした。出題されたばかりの範囲なので、この2つの範囲を捨ててしまっていた受験生にはキツかったかもしれないです。
日商1級の試験は、出題される問題数が少ないので、自分が捨てた範囲から出題されると、回復できない致命傷を負うことになります。ヤマは張らずに、まんべんなく学習するように心がけて下さい。

以下、個別にみていきます。

工業簿記

費目別計算(材料費・労務費)の問題でした。
材料費については、原価計算基準11の内容が問われました。

消費した材料の数量は継続記録法で把握するのが原則、乗じる価格水準は実際価格が原則です。

外部副費は必ず取得原価に算入し、内部副費は取得原価に含めても含めなくてもどちらでも構いません。

「基準11」には、外部副費が5つ、内部副費が6つ例示されていて、これは暗記しておいた方が良いものです。こういった問題に対応できるように、FINでは、スマホ用の原価計算基準穴埋め問題集をお届けしています。また、第1問の問2では、「内部副費を材料費に配賦する」といった処理についても問われていますが、FINでは、難解な「基準11」に5ページを費やして、詳細に解説しています。

第2問の材料費の計算では、外部副費は取得原価に算入、内部副費は間接経費処理という、最もスタンダードな出題パターンでした。そして、消費価格は予定価格を用いることにして、予定消費価格差異を計算させています。このあたりも、平均的な受験生であれば対応できるレベルの問題でした。

第3問の労務費の計算は、就業時間の内訳が理解できているか、予定賃率を利用した直接労務費の計算までは順調に解ける問題でしたが、当月の未払額や賃率差異の計算は躓いてしまったかもしれません。割増賃金の処理方法については、①原価計算基準が想定している処理の他に、②割増賃金を全て間接労務費とする方法や、③割増賃金を特定の製造指図書の直接労務費とする方法があります。FINでは、こういった例外的な処理方法も図を使って、分かり易く解説しています。

原価計算

原価計算は、活動基準原価計算(ABC)と原価企画の問題でした。
「この品質の製品をこの価格で販売すれば、顧客は喜んで購入するであろう」といったマーケット・ベースの目標価格を設定し、そこから希望利益を控除して、目標原価を設定した場合、その目標原価の達成を実現するための代表的な手法が、VE(バリューエンジニアリング/価値工学)です。VEについては、品質機能展開(QFD)の具体例に触れることで、理解が浸透しやすいので、数値令を使った解説も行っています。
ABCの計算は、問題の指示に忠実に従えば必ず解けるはずです。判断に迷うような所もなかったので、時間をかけて丁寧に解けば、高得点が狙えたはずです。

全体的な印象としては、問題量も多くはなく、難易度も高くなかったため、ケアレスミスがなければ、高得点の狙える問題でした。
以上、本試験、お疲れ様でした。