令和2年度 公認会計士論文式試験講評~監査論
イレギュラーな実施となった今年度の論文式試験は、受験生の皆様にとって大変厳しい挑戦になったことと思います。本試験受験、本当にお疲れ様でした。
模範解答(答案例)は順次公表していきますが、まずは簡単に講評をしていきます。今回は監査論です。難易のバランスの良い、これまで学習してきた成果を発揮できる出題であったと思います。
第1問:独立性~主体論・制度論
問題1では、「一般基準」の抜粋から精神的独立性と外観的独立性それぞれの意義と関係性が問われました。典型論点として誰もが答案を準備していたはずですし、解答スペースもたっぷり用意されていましたので、得点源としたい問題でした。
問題2では、職業的懐疑心と独立性の関係が問われました。これも答案を準備できていたと思います。
問題3では、独立性を確保・強化するために制度化された方策が問われました。制度論として短答式試験で学習していた内容を思い出す必要がありました。「平成15年以降に制度化」かどうかに自信を持てる方は少なかったと思いますから、制度論で学習した独立性関連規定の中から、書きやすい内容を3つ挙げていければ上出来です。監査証明業務との同時提供の禁止やローテーション制度、就職制限、共同監査の義務化について1つでも2つでもかけていたら合格点と思って良いでしょう。
問題4は、監査契約の締結の可否の論点から事例要素のある出題でした。指示された状況④から、専門職員を監査チームメンバーにできないことは明らかですから、監査契約を締結するためにはどうすれば良いのかを思いつけたかが鍵でした。少なくとも、その専門職員を監査チームメンバーにできない旨を指摘して部分点は稼ぎたいところです。
第2問:事例問題~リスク・アプローチ
問題1は、リスク評価として財務諸表全体レベルとアサーションレベルの虚偽表示リスクを指摘する問題です。よくある問ですが、事例が違えば答案も違ってきますから、その場その場で考えるしかない難しさがあります。<資料1>③厳しい競争環境下での④急激な事業拡大計画や、⑧~⑩の人的資源の面でのリスク要因から、虚偽表示リスクを指摘できると良かったと思います。アサーションレベルの虚偽表示リスクの指摘では、「リスク内容」「取引種類、勘定残高及び関連する注記事項」「アサーション」と指摘すべき内容が指定されていたので、書くべきことを漏らさずに済んだ気がします。こうした問題の正答は1通りではないですから、模範解答と同じリスクが指摘できたがよりも、指摘したリスクと取引種類・勘定残高とアサーションの記述内容が整合的であることの方が重要です。
問題2は、監査実施過程で判明した<資料3>を踏まえた監査計画の変更が問われました。「監査リスク・モデルの考え方に基づいて」とあるので、リスク・アプローチの「AR=RMM×DR」に当てはめて説明する必要があります。<資料3>は重要な虚偽表示リスクの高まりを示唆する状況ですから、発見リスクを抑えられるような監査計画の変更を指摘します。
問題3では会計上の見積りについて、一般論での説明が問われました。事例に当てはめた具体的な内容は問題4で問われているので、ここでは一般論に留めて説明します。「監査上特段の検討が必要となる」という表現は、「特別な検討を必要とするリスクにもなり得る」ことを示唆しているのだと思います。見積りの不確実性の高い会計上の見積りは特別な検討を必要とするリスクかどうかを決定する必要があるという知識から、その性質とリスクが高い点を説明すれば良いですね。
問題4では、会計上の見積りの監査の実施時における具体的な内容が問われました。「固定資産の減損処理」を指摘すべきことはここまでの問題の誘導で気づきたいところです。しかし、実務経験もない受験生が実証手続の具体的な内容を3つも指摘できないと思います。減損の会計処理自体は財務会計で学習しているので、会計上の見積りにあたる将来キャッシュ・フローの予測に関連させて監査手続き(監査手法:基礎データの閲覧や経営者への質問)が指摘できたら上出来です。
事例問題は絶対の正解がある訳ではないので、できるだけ事例に沿って具体的に記述できたかを振り返ってみてください。全体の半分程度は模範解答と近しい内容が記述できていたなら大丈夫でしょう。
以上です。