令和2年度 公認会計士論文式試験 講評~会計学(午後)

会計学(午後)~財務会計論について講評していきます。第3問、第4問は、練られていて例年より難易度が高めな印象です。第5問の連結会計の総合問題は、平均的な受験生にとって、丁度良いレベル感の問題でした。以下、個別に講評していきます。

第3問

例年同様、多めの計算と関連する理論の組合せです。相対的に難易度が低めなので、ここでできるだけ得点しておきたい問題でした。

問題1:キャッシュ・フロー計算書

間接法によるキャッシュ・フロー計算書の作成(9つの空所補充)と記載区分の理論が出題されました。

問1のキャッシュ・フロー計算書の作成は特に難しいところはないので、単純に事務処理能力を問うタイプの問題でした。⑦⑧⑨が各活動のキャッシュ・フローの計なので、1カ所でもミスがあると正答できないところですから、完答は難しいとして最低7/9は合わせたい問題でした。

問2の理論は、連結範囲の変更を伴わない子会社株式の取得・売却の収支の表示区分が問われました。財務活動によるキャッシュ・フローの区分であることは、計算の知識としてもご存じのはずですが、その理由となると難しかったかもしれません。連結基準の改訂論点として、支配獲得後の支配の喪失を伴わない親会社持分の変動は資本取引と考えて持分変動額と追加投資額または売却額との差額を資本剰余金とする、という内容があったと思います。これと関連づけて答案を作成できれば模範解答になります。

問題2:ソフトウェア

問1はソフトウェアの資産計上と償却計算について6通りの計算を問われました。資産計上できるのか費用処理するのか、償却可能期間は何年までか、といった正確な知識が細かいところまで求められました。量も多いので、曖昧になんとなく処理してきたところがあると迷ってしまい時間をロスしがちな問題です。こういう問題は受験生間で出来不出来に差が出やすい気がします。各問が独立していますし、自信を持って解き進められなくても、他でリカバリーしようと気持ちを切り替えられた者勝ちです。

問2は製品マスターの制作費の資産計上の論拠が問われました。典型論点として答案が準備できていたと思います。

第4問

例年は理論のみの第4問ですが、昨年度同様、少しだけ計算が含まれていました。

問題1:収益認識基準

問1では代理人の収益認識が問われました。収益とすべき額の計算自体は容易ですが、これを収益認識基準に当てはめて説明するのは難しいでしょう。試験会場で配布される基準集に収益認識基準が収録されているので、ここから、収益認識の基本原則や代理人に関する記述として使える箇所を検索できたかもしれません。

問2は変動対価の収益認識です。これも、「顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を変動対価という」ことや、「計上した収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り取引価格に含める」といった表現を基準集から探し出して説明できると良かったと思います。

正直、時間的制約の中で基準集を検索するのは厳しいので、ここは後回しにして比較的難易度の低い第3問や問題2~4に時間を割いた方が得策でした。

問題2:固定資産の原価配分

問1の「利用の事実」の空欄補充は意外な問でした。短答対策では学習していても論文の頃には忘れている可能性が高いですね。

問2は減価償却の自己金融機能が問われました。(1)自己金融機能自体の説明は、管理会計の設備投資の意思決定でもよく聞く内容ですし、伝統的論点といえども書けたはずです。(2)取替法との異同では、資本維持が論点になっているのですが気づけたでしょうか。「取替法は後入先出法と類似の効果の期待できる費用配分方法で、現時点の価格水準で費用収益対応が図れる」という論点に気づけると、減価償却は名目資本維持しかできないことにも気づけたかもしれません。

問3は減耗償却との対比です。減耗償却は山林のように実体が部分的に製品化される固定資産が対象なので、経済価値費消の認識の面では棚卸資産に近い側面があります。ここから、耐用年数(時の経過)を基準とするか、物的消費を基準とするかの対比を説明できます。

手薄になりがちな伝統的な分野からの、ひねりのある良問ですが、受験生としては高いセンスが問われる案外難しい問題でした。

問題3:有価証券の発生の認識

問1の約定日基準の仕訳は原則の処理なので迷わずできますね。

問2の約定日基準の論拠も答案が準備できていたと思います。双務未履行では認識を行わない「商品を購入した場合と対比させて」というヒントもあるので、相違点を明確にして記述できるとなお良いでしょう。

問3では、約定日から受渡日までの期間が通常の場合と長い場合の処理の違いを指摘させる問題でした。通常の期間である場合の約定日基準の処理は説明できるとして、期間が長い場合にデリバティブとして処理することのまでは注目してなかったかもしれません。決算日の処理とあるので、修正引渡日基準のことと勘違いしてしまった方もあるでしょう。通常の期間の処理の説明で部分点が拾えたら上出来です。

問題4:外貨換算会計

問1の空欄補充は選択肢も用意されているので埋められたはずです。

問2問3の在外支店と在外子会社の換算基準についての考え方とその理由は、典型論点として答案が準備できていたと思います。第4問の中では一番簡単な問題でした。

第5問

連結会計の総合問題です。短答知識で取れる計算で確実に点数を拾って、あとは、理論を丁寧に解答する、という例年通りのスタンスで対応できる問題でした。難易度としては、計算が例年より易化、理論は例年並みになります。

問題1:

20X7年度~20X9年度における各社が行うべき会計処理についての穴埋め(20箇所)問題です。
空欄20箇所のうち、難しいのは2箇所だけなので、1箇所1点として、16点~18点程度得点したい問題です。
(20X7年度)
20X7年末において連結の範囲に含まれない会社は、40%保有の①B社です。
従って、20X7年度のB社以外の諸資産を単純合算した金額②1,675,000千円が連結B/Sの諸資産となります。
そして、20X7年度の③A社の「のれん」の金額を計算すると、(20X5年度末取得原価480,000-同年度末純資産530,000×80%)×8年/10年= ④44,800千円となります。
また、20X7年度のD社の「のれん」の金額を計算すると、(20X7年度末取得原価@100×1,800千㌦-同年度末純資産@100×2,350千㌦×80%)= △8,000千円となり、負ののれん発生益が⑤8,000千円となります。
(20X8年度)
20X8年度末におけるP社個別P/LにおけるA社株式売却益は、売却額380,000千円-売却分の帳簿価額480,000千円×50%/80%= ⑥80,000千円であり、この売却の結果、A社に対する持分が30%ととなるため、支配関係を⑦喪失し、A社株式は、⑧関連会社株式となります。
このとき、連結上の売却益は、売却額380,000千円から、「増加する非支配株主持分280,000千円(=560,000×50%)」と「売却分の「のれん」の金額24,500千円(=56,000×7年/10年×50%/80%)」を控除した⑨75,500千円となります。
また、20X8年度末の連結B/Sに計上されるA社株式の金額は、20X8年度末のA社純資産560,000×30%+のれん56,000×7年/10年×30%/80%=⑩182,700千円となります。
そして、20X8年度末の連結包括利益計算書における「その他包括利益」は、D社を連結することによる「為替換算調整勘定の増加額」ですが、支配獲得時に「負ののれん発生益」を計上したため、「のれん」から生ずる為替換算調整勘定はありません。
従って、@105×2,650千㌦から、「資本金200,000千円(=@100×2,000千㌦)」、「利益剰余金50,000千円(@100×200千㌦+@100×300千㌦)」、「評価差額15,000千円(=@100×150千㌦)」を控除した⑪13,250千円が20X8年度の「為替換算調整勘定の増加額」となります。
(20X9年度)
C社はB社を吸収合併したため、B社の資産・負債を⑫時価で受け入れるとともに、吸収合併に際し発行した新株の時価⑬ 1,050,000千円を資本金に追加計上します。
そして、この吸収合併に発行されたC社株式8,750株のうち、40%にあたる3,500株がP社分となることから(∵ P社はB社の40%株主であった)、P社によるC社支配は、100%(=10,000株/10,000株)から⑭72%(=13,500株/18,750株)へと減少します。
ただし、C社はB社を100%子会社としているため、P社による合併前B社への持分は40%(持分法)から72%(連結)へと増加したことになり、「支配獲得に伴う⑰段階取得に係る差益」を認識することになります。
これは、B社に持分法を適用していたときのB社株式の金額306,800千円(=取得原価300,000千円-のれん償却費@2,000×2年+利益剰余金増加額27,000×40%)と、原始取得分40%を支配獲得時の時価で評価した金額420,000千円(=1,050,000千円×4,000株/10,000株)との差額⑱113,200千円となります。
さらに、連結S/Sの配当金は、P社分の⑲40,000千円となることから、合併前のC社に対する持分の減少から生じる⑮資本剰余金の金額⑯、及び親会社株主に帰属する当期純利益⑳をあきらめても、20箇所中18箇所は、いわゆる短答知識だけで正解できることになります。

問題2:連結B/Sの作成

20X8年度、及び20X9年度における連結B/Sの作成問題です。
税効果会計も導入されておらず、成果連結もないので、かなり得点できそうです。タイムテーブルを利用した方が解説しやすいので、解答・解説をご参照下さい。

問題3:理論問題

問1は、子会社株式の一部売却により、持分法すら適用されなくなる場合の売却後の投資額に関する会計処理を説明する問題です。
連結除外の計算パターンを思い出して、投資会社の個別B/Sに計上されている非投資会社株式の帳簿価額を連結B/Sに計上することになること、連結S/S上で、連結修正仕訳で計上した利益剰余金の残額を取り崩す必要があることを解答して下さい。

問2は、持分40%の会社を連結子会社とした場合に、連結会計上の会計処理にどのような影響があるかが問われました。x7年から持分法ではなく、連結子会社として会計処理を行うことになるため、連結B/Sには、B社の資産負債が時価で計上されるとともに、持分法では計上されなかった「のれん」、及び「非支配株主持分」が計上される点を解答しておけば大丈夫です。

問3は、経済的単一説に基づいていないと考えられる会計処理が問われました。のれんの金額、及び非支配株主持分の計上がこれに該当しますが、思いつかなくとも、親会社説と比較するような形で、経済的単一説の概要が説明できていれば、大きなビハインドにはならなかったはずです。