令和3年度公認会計士短答式試験~講評~企業法

4科目の講評は企業法です。
今回は、やや難しかった印象です。いつもより判例が多く、80個(=@4×20問)の文章のうち、9個が最高裁判所の判例をベースとした文章となっていて、解きづらかったと思います。ただ、企業法は、4つの記述から正しいものを2つ選ぶ形式になっているため、一つ一つの記述の正誤判定は難しくても、4つのうち2つの正しい文章(or 誤った文章)を選べばよく、FINの入門生でも85%得点していることからすれば、実際のボーダーラインは、案外、高いかもしれません。なお、令和元年改正(令和3年3月施行)の論点は出題されませんでした。FINでは、短答答練の付録として講義を行っていましたが、改正直後に本試験に出題されることはレア・ケースなので、基本的な論点の条文理解を重視するように心掛けてください。

分野別の出題数は次の通りです。
商法総則・商行為:2問
設立:1問
株式:3問
機関:6問
資金調達:1問
会社の計算:2問
事業譲渡と組織再編:2問
持分会社:1問
金融商品取引法:2問

では、以下で問題毎に講評していきます。解説は、以下のURLからご覧いただけます。

令和3年 公認会計士 短答式試験 解答速報

問題1:商法総則・商行為-支配人***

商法21条~24条の「支配人の代理権」、「表見支配人」、「支配人の登記」、「支配人の競業の禁止」について問われました。繰り返し出題されている論点なので、すべての受験生が、順調に滑り出せたはずです。

問題2:商法総則・商行為-商人間の売買**

商事売買の特則(524条~528条)も繰り返し出題されている論点です。ここは、条文の内容が、一般常識と一致しているので、比較的覚えやすい論点です。

問題3:設立-創立総会***

「設立」からの出題は本問だけでした。かつては2~3問出題されていましたが、最近は、「設立からの出題は1問だけ」ということが多いです。論点が複雑に絡み合っていて、学習に時間のかかる分野なので、ここから1問しか出題されないのは辛いですね。本問は、イ. が○、ウ. が×、エ. が○というのが簡単なので、正答できた受験生は多かったはずです。ア. の「議決権行使可能株主の半数以上が賛成し、かつ、行使可能議決権の2/3以上が賛成する」といったところは、受講生が皆、暗記に窮しているところですが、今回は、他の選択肢から正解にたどり着くことが出来ました。

問題4:株式-発行可能株式総数*

ア. とイ. を「誤り」とする論拠が「このような規定はない」となっています。このような問題に苦手意識を持つ受験生は多いです。
平成26年改正により、株式併合に対して、イ. のような4倍規制が設けられましたが(180Ⅲ)、株式の消却に対しては、同規制は設けられていません。株式併合後に新株を発行すると既存株主が持分低下の不利益を被りますが、株式消却の場合は、消却した株式数だけ新株を発行しても既存株主の持分は低下しないためです。
ウ. は、4倍の範囲内で発行可能株式数の決議がなされると、定款変更もなされたとみなされる規定ですが、頭に残りやすい条文なので、大丈夫だったと思います。
エ. ですが、株主分割による発行可能株式総数の増加であれば、既存株主の持分比率低下の不利益が生じないため、株主総会特別決議によらないで定款変更できるとする条文ですが、理に適った規定なので、わかりやすかったはずです。

問題5:株式-株主の権利***

「最高裁判所の判例の趣旨によれば・・・」という書き出しの2問(イ. とエ. )は後回しにして、ア. とウ. に集中すべき問題でした。
ア. の株主等の権利の行使に関する利益の供与とウ. の株主名簿の備置き及び閲覧等が解きやすかったので、何とか切り抜けることが出来たのではないでしょうか。

問題6:株式-募集株式の発行***

ア. の「株主に株式の割当てを受ける権利を与えて募集株式を発行する場合,当該権利を有する株主に対して募集事項を通知しなければならない。」という文章を「誤り」とする受験生はいないはずです。
イ. ですが、もともと譲渡制限株式の譲渡については、事前に株主総会計決議(取締役会設置会社は取締役会決議)による承認が必要とされるため(139Ⅰ)、平成26年改正により、総数引き受け契約の場合にも同等の承認が要求されることとなっています(205Ⅱ)。やや難しいです。
ウ. は判例ですが、「他人の承諾を得てその名義を用いて募集株式を引き受けた場合,名義貸与者がその株主となる。」としてしまうと、実務上大きな混乱が生じるため、「誤り」ではないかと予測できるはずです。
エ. 善意・無重過失の引受人に、常に不足額填補責任を負わせるのは酷であることから、募集株式の引受人が、現物出資財産の価額が募集事項に定めた価額に著しく不足することにつき善意・無重過失であるときは、募集株式の引受けの申込み又は総額引受契約に係る意思表示を取り消すことができます(212Ⅱ)。正答して欲しいところです。

問題7:機関-株主総会***

ア. 監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役の場合には、社外取締役の監査機能が働くことから、一定の重要事項を除いて、取締役会に大幅に権限委譲できます(399の13Ⅴ)。委任できない一定の重要事項については、講義で取り扱っていますが、細かな論点なので、覚え切れていない受験生が多いはずです。
イ. 取締役等の説明義務(314)は、容易な論点なので、正答できるでしょう。
ウ. 公開会社(取締役会設置会社)における株主提案権(303Ⅱ)も容易な論点です。100分の1や300個以上が80分の1や250個としてあって、「誤り」とさせるような出題パターンは今までにありません。
エ. 本問も平成26年改正論点です。従来は、監査役・監査役会には、会計監査人の選任・解任等の議案等についての「同意権」しか与えられていませんでしたが、会計監査人の独立性を強化するために、選解任等の「議案内容の決定権」が与えられることとされています。

問題8:機関-株主総会**

株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができる場合、その他諸々の限定的な条件が付されているので、戸惑いますね。本問のように、諸々の前提条件が設定されている問題であっても、あまり気にせず解いてみると、うまくいくことが多いです。
ア. 電磁的方法によっても議決権の不統一行使ができる点(313Ⅰ)や、イ. の株主1000人以上の会社は書面投票制度が強制される(298Ⅱ)といった論点は正答率が高いはずです。
エ. は312条1項そのままでした。

問題9:機関-株主総会決議の瑕疵*

ア.とイ.が判例です。また、ウ. とエ. の正誤判定について、自信を持って行える受験生は僅少でしょう。難問です。

問題10:機関-監査役会***

ウ. の「過半数」と「3人以上で、そのうち半数以上」の区別は難しいかもしれません。
ア. の機関設計、イ. の監査役会への報告の省略、エ. の常勤監査役の選定については、基本的な論点なので、しっかり得点して欲しい問題です。

問題11:機関-指名委員会等設置会社の執行役***

ア. 「著しい損害」と「回復することが出来ない損害」に対して、それぞれどのような規定が設けられているかについては、整理して覚えておく必要があります。
イ. 執行役の選解任が取締役会の決議事項である点もよく知られた論点です。
ウ.とエ. については、やや細かな論点でした。

問題12:機関-会計監査人***

会計監査人については、396条~399条の4つの条文しかありません。受験生にとっては、合格後の仕事に直結するところですから、しっかり理解できているはずです。

問題13:会社の計算-臨時計算書類*

ア.「臨時計算書類を作成できる」こと、エ.「臨時計算書類は会計帳簿に基づき作成しなければならないこと」は、特別に学習していなくても正しいと選択できたのではないでしょうか。イ.ウ.の記述は細かな内容で、正誤が判定し難いと思いますが、案外、正答率は高いかもしれません。

問題14:会社の計算-剰余金の配当***

ア.の純資産額300万円の配当規制(458)とイ.の取締役会決議による中間配当の手続規定(454Ⅴ)は、基本的な論点ですから正しいと判断できたはずです。また、エ.の現物配当についても、株主に金銭分配請求権を与えない場合は株主総会特別決議が必要という手続規制がありますから(454Ⅳ309Ⅱ⑩)、誤りと気付けたと思います。

ウ.自社の株式を配当財産とすることは株式を発行するのと同様ですから、募集株式の発行手続きによるべきであり、誤りです。

問題15:持分会社-退社**

持分会社の法定退社事由(607Ⅰ)についての問題でした。ア.総社員の同意や、死亡や合併については覚えていても、ウ.持分の債権者の差し押さえや、エ.後見開始の審判まではなかなか覚え切れていないかもしれません。条文(607Ⅰ)に何度か目を通していればエ.には気付けたかもしれないですね。

問題16:資金調達-社債管理者***

ア.社債管理者の資格(702.施行規則170)、イ.社債管理者への委託が不要となる場合(702.施行規則169)は、施行規則まで手を伸ばす必要がある論点ですが、基本論点として押さえてあったと思います。エ.社債管理者の義務(704Ⅰ)も基本的内容です。ウ.は少し細かい内容ですが、イ.エ.の正しい記述から正答できたと思います。

問題17:事業譲渡と組織再編行為*

ア.事業譲渡等の株主保護手続きとして、総会特別決議による承認(467Ⅰ)、反対株主の株式買取請求(469)がありますが、組織再編行為のような差止請求の規定はありません。

イ.株式売渡請求やウ.株式の併合は、出題頻度から考えてカバーしていなくとも仕方ないと思います。

エ.「株主総会決議による新設分割計画の承認を要しないとき」とは、「簡易手続き」によることを意味します(805)。簡易手続きでは、株主の差止請求権が認められないのは組織再編に共通なので(784の2.796の2Ⅰ.805の2)、正誤判断できたと思います。

難しい問題でした。

問題18:事業譲渡と組織再編行為*

すべて判例からの出題です。受験上スルーで問題なしです。

問題19:金融商品取引法**

開示規制の適用範囲の問題です。金商法上の1項有価証券(金商法2Ⅰ)、みなし有価証券(金商法2Ⅱ)、適用除外有価証券(金商法3)は、項目が多くて大変ですが、頻出論点なのでできるだけ頑張ってみましょう。今回の問題は比較的覚えやすいところから出された気がします。

問題20:金融商品取引法***

ア.大量保有報告書の開示内容についてですが、全ての事項は無理でも、この記述にある内容は覚えておきたかったところです。ウ.訂正報告書は、大量保有報告書の記載内容に事実と異なる記載・重要事項の記載不十分・記載欠缺があった場合に提出が求められます。この2つの正しい記述が明らかなので正答できたと思います。

イ.「意見表明報告書」は、公開買付け対象者の提出書類です。エ.大量保有報告書の記載内容に重要な変更があった場合は、訂正報告書ではなく変更報告書を提出します。どちらも細かいです。

以上です。