論文式試験への心構え ~ 租税法

2018年~2020年の3年間の過去問を振り返りながら、論文式試験を受験するにあたり、あらかじめ知っておくべき事項を紹介します。
租税法は、理論問題が2題(小問9問)、計算問題が3題(法人税法、所得税法、消費税法)出題されるという形式が続いています。
租税法の問題用紙は全部で21枚~25枚で、3時間で実施される会計学(午後)の14枚~16枚よりも多く、2時間では解ききれる分量ではありません。問題用紙の枚数は、ここ3年間、減少傾向にありますが、それでもなお、知らない論点、苦手な論点をどんどん捨てながら、解き進めていくイメージになります。

論文式試験の素点ベースの合格ボーダーは、次のように予想されていました。大手専門学校が公表している合格ボーダーの平均値です。

素点ベースでの合格ボーダー

2018年 2019年 2020年
40/100点 38/100点 45/100点

公表されている合格ボーダーは偏差値ベースでは52%ですが、「素点ベースだと40点を死守、45点以上で安全圏」というのが、事前に持っておくべきイメージです。

理論問題の合格ライン
租税法の理論問題は、問題1と問題2から小問が9問出題されます。
小問9問の構成は、「法人税6問、所得税2問、消費税1問」となっていることが多いですが、2020年(令和2年)は法人税4問、所得税3問、消費税1問、法人税と消費税の融合問題が1問という構成でした。
配点は毎年、「理論40点、計算60点」固定されています。下表は、理論問題の合格ラインです。

2018年 2019年 2020年
18点/40点(45%) 18点/40点(45%) 20点/40点(50%)

理論の合格ラインは、45%~50%で安定しているので、「小問9問のうち、5問をきっちり正解する。」のが目標になります。
また、「全体の合格ボーダーのうち、理論問題で45%程度を確保しておく。」ことになります。

理論の問題別合格ライン
2020年に問題数の入れ替えがありました。それまでは、問題1が4問、問題2が5問でしたが、2020年は問題1が5問、問題2が4問となっています。そして、問題1が1問増えた関係で、問題1の解答欄が小問1問あたり4行から3行へ変更になっています。問題2の解答欄の行数は3行/問のままです。
問題1は記述問題、問題2は○×問題ですが、小問9問ともに、根拠条文を挙げる必要があります。
下表は、問題1、問題2それぞれの合格ラインです。

2018年 2019年 2020年
問題1 8点/20点(40%) 7点/20点(35%) 13点/20点(65%)
問題2 10点/20点(50%) 11点/20点(55%) 7点/20点(35%)

上表によると、「問題1と問題2とで難易度に大きな差がある場合があるが、どちらが難しいかは、年によって異なる。」ことが分かります。ただ、先述したとおり、小問9問全体の合格ラインは、45%~50%で安定しているので、やはり、「小問9問のうち、5問をきっちり正解する。」という心構えで良いと思います。
計算問題は、1箇所1点なので、追加で4、5点取るのは大変です。なので、理論問題は粘って、小問9問とも埋めたくなります。しかし、専門学校の解答解説で「没問」と判定される問題が毎年2問程度出題されています。従って、計算とのバランスを考慮すると、「小問9問のうち、1問ないし2問は完全に捨てて、計算に移行する。」という方針が賢明な選択といえるでしょう。

計算問題の合格ライン
先述したように、理論問題では、合格ボーダーの45%しか確保できないので、残りの55%は計算問題で獲得する必要があります。
計算問題の合格ラインは、33%~42%です。理論問題が45%~50%だったので、「計算の合格ラインは、理論よりも10%程度低い。」と想定しておきましょう。

2018年 2019年 2020年
22点/60点(37%) 20点/60点(33%) 25点/60点(42%)

なお、各税法の計算問題では、総合問題が必ず1問出題される他に、個別論点が小問として出題される場合があります。小問は、2018年に法人税法と消費税法、2019年に法人税法(2問)、2020年に法人税と所得税法で出題されています。法人税法は3年とも小問が出題されていますが、知らない、あるいは記憶が曖昧な論点は、迷わず捨ててください。ここで時間を浪費すると、消費税法に時間を残すことが出来ません。

計算問題別配点

このところ、計算の解答箇所は60箇所で固定されています。各税法別の内訳は以下のとおりです。

2018年 2019年 2020年
法人税法 29点 30点 29点
所得税法 15点 15点 16点
消費税法 16点 15点 15点

上表から、計算問題に対する配点は、「法人税法30点、所得税法15点、消費税法15点」と想定しておけば良いでしょう。

計算問題別合格ライン

3年間を通して考察すると、「合格ライン(得点率)は、法人税法が40%から45%で最も高く、所得税法が25%~40%、消費税法が19%~33%で最も低い」ことが分かります。

2018年 2019年 2020年
法人税法 13点/29点(45%) 12点/30点(40%) 16点/29点(55%)
所得税法 6点/15点(40%) 5点/15点(33%) 4点/16点(25%)
消費税法 3点/16点(19%) 3点/15点(20%) 5点/15点(33%)

法人税法では、受取配当関連(所得税額控除を含む)、減価償却費、租税公課の3論点が必ず出題されます。この3論点への配点は、3年とも16点なので、3論点だけで合格ラインをクリアすることができます。ただ、この3論点の全ての解答箇所を正解するのは難しいので、その他に5箇所は埋めておきましょう。私が受験生なら、「法人税法は、3論点(所得税額控除を含む)+5箇所=21箇所程度を埋めて、所得税法へ移行する。」という作戦でいきます。

所得税法は、税理士受験生の間で、「やってもやっても終わらないほど広大な範囲をもつ科目」といわれています。ただ、攻略法はシンプルです。同じような内容が繰り返し出題されているので、所得税法は、テキストに入っている10年分の過去問を完璧に仕上げておけば、25%~40%の合格ラインは必ずクリアできます。そのための10年分の解説動画です。

消費税法の総合問題は、講義中に繰り返し指摘しているように、売上を不課税、非課税、免税、課税の4区分に、仕入を課税売上のみ対応、非課税売上げのみ対応、共通対応、課税仕入以外の4区分に正確に分類できれば、満点が狙えます。ただし、資料全体の取引を分類して、税額の計算を終えるまでに20分~25分程度必要ですし、1つでも分類を誤ると、芋づる式に失点していくリスクもあります。また、正確に分類できる能力があったとしても、10分しかなければ3点程度しか得点できません。
10分しか残せなくて、3~5点しか得点できなくても、合格ラインには到達できますが、私が受験生なら、25分かけて満点を狙いにいきます。
消費税法は、① テキストに入っている10年分の過去問を完璧に仕上げる、②「2021-仕入・売上区分税理士過去問集(スマホ用)」を繰り返す、③ 消費税法の計算に20~25分残しておく、この3点を実行できれば、他の受験生に対し、大きなアドバンテージを築くことができます。
すでに、①と②は実行済みでしょうから、本試験では、理論→法人税の計算→所得税の計算で合格ラインをクリアしつつ、消費税の計算に25分残せるようなペースを心掛けて下さい。

租税法の心構えは以上です。

資格試験のFIN