令和3年度 公認会計士 論文式試験 講評 ~ 企業法

令和3年8月22日(日)に実施された論文式 企業法の講評です。
例年通り、大問2が2問、その中に小問が2問ずつ出題されました。
第1問の問題1以外は、難しい論点が含まれますが、条文番号はどれも正確にピックアップすることができます。
現場対応型の論点については、専門学校の解答速報にあるような答案を作るのは困難です。ですが、それ以外は凡庸な内容なので、一部の難しい論点にひきずられて、全体を見失うことがないようにして下さい。
知らない論点に動揺してしまう受験生から脱落していきますが、実は、合格レベルにある受験生にとっては、点数に差が出にくい出題です。

第1問 :株式

問題1:株主総会決議を欠く子会社株式の譲渡

解答スペース:10行
必須条文番号:467条1項2号の2、309条2項11号

今回の出題の中では、最も易しい問題でした。
株主総会決議を欠く代表行為の効力については、明文規定がないため、「決議を求めて守ろうとする会社と株主の利益と、決議があることを知らず又は決議があったことを信じて取引をした第三者の利益とを比較衡量して、個別具体的に効力を判断すべき」という決まり文句を書いて、株主の利益が優先されるべき理由を2~3つ列挙して結論づければ、優秀答案が完成します。
株主の利益が優先されるべき理由ですが、解答速報には、次の3つを紹介しておきました。
①支配権の喪失が株主にとって特に重要であること
②株主総会決議が必要なことを取引の相手方も知るべきであること
③譲渡制限株式は流動性が低いこと
このうち、①と②は、論証例のテキスト(Vol.2機関 問題22)でも示してありますが、おそらく、どこの専門学校でも取り扱っているので、書いてほしい内容です。

問題2:意思統一を欠く共有株式の議決権行使

解答スペース:20行
必須条文番号:831条、106条

株主総会決議の取消し請求が認められるかがとわれているので、831条はすぐに思いつきます。また、共有株式による権利行使(106条)についても、短答対策として学習しているはずの条文です。
必須条文番号は、この2つなので、大枠はできたはずです。
ただ、共有者間の意思統一がない状態で行われた議決権行使を会社が同意した場合の総会決議の効力については、多くの専門学校で手薄だったようです。
「106条は共有者間の意思統一があったことを前提にしているので、意思統一がない状態での議決権行使は、たとえ会社の同意があっても、106条違反になる。」というロジックは、普段、優秀答案を書いているレベルの受験生でも、思いつかなかったはずです。
106条但書を文字通りに読んで、「会社が同意しているので、Cによる共有株式の議決権行使は有効である。」としてしまった受験生が多いと予想されますが、本問は、831条と106条について丁寧に論述しておけば、結論を間違えていても、それほど大きな痛手にはならなかったと思います。

第2問 :機関

問題1:経営判断原則

解答スペース:13行
必須条文番号:330条、355条、423条1項

経営判断原則について説明する必要がありました。
いわゆる「法理」と呼ばれるものを定義づけるような問題はあまり見かけないので、面食らったかもしれませんが、経営判断原則自体は、短答対策でも論文対策でも取り扱われている論点です。ここは確実に論述する必要があります。
あとは、第2問の特徴となっている、Aの不合理な主張へ反論し、結論へ結びつければよいわけですが、本問では、不合理な主張への反論は、現場でうまく対応する必要があります。
解答速報では、「経営判断原則は、経営における過度な萎縮を回避することを目的としており、違法な行為によって損害を生じさせた責任を免れるために利用することは許されない。」としておきましたが、専門学校によって、表現は様々でした。
現場対応型の問題が出題されたときは、あまり時間をかけず、そもそもの立法趣旨に立ち返って、うまく結論へ結びつく根拠をひねり出してください。

問題2:任務懈怠による損害賠償責任

解答スペース:17行
必須条文番号:847条、355条、423条1項

大枠としては、423条1項の損害賠償責任が成立する要件を列挙し、要件への当てはめをしていく問題です。
これは、専門学校で重点的に学習するところなので、手慣れた手順で答案作成できたはずです。ただ、後半に解答スペースが必要だったので、解答速報では、やや省略し記述になりました。これだと、減点されるかもしれないですね。
①役員等に故意又は過失による任務懈怠があり、
②その任務懈怠によって損害が生じていることである。

あとは、Aがまた、不合理な主張をしているので、これに反論する必要がありますが、受験生の大半は、Aの主張が意図するところが掴めなかったと思います。
なので、本試験の解答としては、上記423条1項の責任の成立要件と当てはめ、そして結論を丁寧に論述していれば、合格ラインに届いたはずです。

Aが言いたかったのは、多分、こういうことです。
「金商法で戊会社1億円、私A1千万円の罰金が確定しているのに、事後的に会社法の規定を適用して、戊会社0円、私A1.1億円とするのは、おかしいだろ!」
Aの主張にも一理あるので、これに反論するのは、難しいです。各専門学校の解答速報も、判例等を利用したものになっています。
①会社に罰金を納付させることで、罰金を科した目的は達せられており、その後に罰金と同額の賠償責任を負わせても、会社が自己の罰金を個人に転嫁したと評価すべきではない。
②罰金の納付によって会社財産が減少するのは他の損害と同じであり、罰金を損害の範囲から除外する根拠はない。
③公平的見地から株主が代表訴訟を通じて会社財産を回復させる手段は奪われるべきではない。
「言われてみれば、あぁ、なるほど!」ですが、本試験中に思いつく類いのものではありません。繰り返しになりますが、本試験では、423条1項の責任の成立要件と当てはめ、そして結論が出来ていれば、大丈夫です。

以上です。