令和4年度第1回 公認会計士短答式試験 講評 ~ 管理会計論

神奈川県に事務所を増設しました。新しい環境から管理会計論の講評をお届けします。
管理会計論の全体の平均点は35%~45%となることがほとんどで、今回の難易度も例年通りです。合格ラインは55.5点と予想しています。
このところ2回連続して作問ミスによる「解なし」が1問あって、全員が5点の下駄を履かせてもらっていましたが、今回は下駄は履かせてもらえません。
出題構成はいつも通り、理論8問、計算8問でした。
理論は、テキストと講義をしっかりやっていれば満点がとれる内容で、計算も時間のかかる問題11と問題16を捨てれば、時間内に解けるはずです。とはいえ、管理会計論だけを学習しているわけではないですし、ミスはつきものなので、合格ラインは55.5点としています。
では、問題毎に講評していきます。図や計算式を用いた解説は、以下のURLからご覧いただけます。

令和4年第Ⅰ回 公認会計士 短答式試験 解答速報

問題1:理論-原価計算基準***

16問中、原価計算基準からの出題は2~3問というのが一般的ですが、今回は4問も出題されます。
基準については、大量の過去問を解くよりは、原価計算基準の穴埋め問題集を繰り返す方が効果的です。本問は「基準2」からの出題ですが、過去の出題を振り返ると、設定前文~「基準8」までが非常に良く出題されています。FINでも短答講義の第1章で、3時間程度の時間をかけて設定前文~「基準8」を詳しく解説しています。
ア. では、原価計算制度は財務諸表の作成に必要な情報の提供「のみ」を目的としている、となっているので、「誤り」となるわけですが、「のみ」というワードを使用している記述は、「誤り」と判定される可能性が高いです。
イ. が「誤り」というのも易しい判断でした。意思決定のための計算は、原価計算基準には含まれません。

問題2:計算-費目別計算*

計算自体は難しくはありませんが、これまでずっと「正しいものの組み合わせ」を選択させていたのに対し、本問では、「誤りの箇所の組み合わせ」を選択させたため、多くの受験生が不正解となってしまったと思います。試験の品位を落とす「引っかけ」は、個人的には好みませんが、受験生としては、これからも注意が必要です。
他校の解答解説を見てみると、TACと東京CPAでは、返品された材料の単価が異なっていました。返品材料の単価は、材料元帳の残高欄にある単価を使用するのが通常ですが、本問の払出単価は「総平均法」なので困ってしまいます。月末に計算される総平均単価を返品単価とするのがTACで、購入時の単価を返品単価とするのが東京CPAです。現実には、返品した材料に対しても発生する材料副費が存在することや他の払出仮定での処理との統一性という観点からは、月末まで待って総平均単価を返品単価とする方が学問的には正しいと思います。しかし、作問者が「直ちに返品した」としていることや、月末まで返品伝票が作成できないのは事務上ナンセンスなので、FINの解答解説は、購入時の単価を返品単価としています。学問的な正しさよりも、作問者が要求しているであろう処理を優先してみました。ただ、どちらにしても、ア. の選択肢は「誤り」となります。
工場用福利施設負担額、工場事務棟修繕費、工場設備減価償却費は間接経費で、製品Xの出荷配送費、本社ビル修繕費、製品Xの広告宣伝費は販売費及び一般管理費になります。このあたりの判断については、非常にシンプルな判断基準があるので、思いつかない受験生は、講義を聴いて下さい。

問題3:理論-原価計算基準***

基準18、32、35、47が問われました。原価計算基準に精通していなくても正誤判定できるので、ほぼ全員が正答できるような、存在意義の薄い問題です。
ア. は、「直接費は・・・配賦する。」とありますが、直接費なので、当然、「賦課する。」です。
ウ. は、「原価差異の会計処理」ですが、売上原価に賦課するのが原則です。

問題4:計算-個別原価計算**

全部仕損の場合、異常仕損費とする問題がほとんどですが、本問では、正常仕損費として処理させています。受注生産では、発注者とのコミュニケーション不足によって、発注者が期待した仕様とは異なる製品が生産される場合があります。発注者がその失敗原価を負担する場合には、新しいロットの生産物、本問の場合、#201にこれを振り替えます。
また、見慣れない指示として、「#100の実際材料消費量のうち30%が仕損品となり、5%が作業屑として発生した。」とあります。#100の実際材料消費量は800kgなので、仕損品となったのは240kgですが、一部代品指図書の#101では400kgの材料が消費されているので、違和感を感じます。ここは、「240kgの仕損品の代品製作に400kgもの材料を消費した。」と考える他ありません。そもそも本問は、年間の予定操業度が9,600時間なのに対し、当月の実際操業度が5,700時間となっていて、バランスの悪い作問になっています。

問題5:理論-原価計算基準***

基準21、23~25が問われました。
ア. は、組別総合原価計算が個別原価計算に準じた計算プロセスであることを確認させる問題です。よく知られた論点ですが、組別総合原価計算では各製品組に組直接費を直課し、組間接費を配賦します。個別原価計算では各製造指図書に製造直接費を直課し、製造間接費を配賦します。この点をもって、基準では、「準じた計算プロセス」と表現しています。
イ. は、原価計算基準24の「生産量」が「投入量」に入れ替えられています。ただ、原価計算基準を一度も読んだことがなくても、「・・・これを期間投入量に集計することによって完成品原価を計算する」というのが、つじつまの合わない記述になっている印象を受けるはずです。

問題6:計算-連産品**

2回連続して、連産品の計算問題が出題されました。
①第1工程の払出仮定が平均法で、②平均発生の減損費を非度外視法で処理し、③第2工程の終点で評価額のある副産物が発生する、という連産品の正常市価基準の問題は、2007年の短答式本試験と全く同じで、数値を入れ替えただけの問題です。もちろん、FINでは、短答講義で本問を丁寧に解説しています。
本問のポイントは、第2工程に投入される直前の「C半製品3,250kgが幾らで売れるとみなされるか」を計算できるかです。650,000円の追加加工費をかければ、@7,100×3,000kg+@3,200×250kg=22,100,000円で販売できるので、「追加加工前は幾らか?」というと、22,100,000円から650,000円を控除した金額、と考えることができます。
一度解いたことがあれば解けますが、初見だと難しかったかも知れないです。

問題7:理論-標準原価計算制度***

基準4と42からの出題です。
制度としての標準原価概念に「理想標準原価」が含まれないことや、正常原価に「理想能率」が適用されないことは、当たり前すぎます。寂しい気持ちになる問題でした。

問題8:計算-非度外視法の標準原価カード***

非度外視法の標準原価カードの問題で、仕損が終点発生のケースです。何度も繰り替えし出題されている計算パターンで、今回の計算8問の中で、最も難易度の低い問題です。

問題9:理論-管理会計の基礎知識*

ア. は、内容が分かりにくかった受験生もいたはずです。コミッテッド・キャパシティ・コスト(既決固定費)の代表例は、設備の減価償却費です。設備の減価償却費は、過去の設備投資の意思決定によって拘束されるので、その後は設備の除却などをしない限り、発生額を変更することは出来ません。従って、設備投資後は、設備の稼働率の管理が重視されるという内容です。
イ. のライフサイクル・コスティングは現在、出題範囲に明示されていません。受験生としては対策に困るところです。FINでは、出題範囲に含まれていない分野であることを明確にした上で、かつて出題範囲に含まれていたコストマネジメントの分野についても、テキストに掲載し、講義動画も提供しています。ただ、本問については、ライフサイクル・コスティングの知識がなくても、製造業者が消費者の負担するランニングコストを考慮して、製品の企画・設計を行っていることは、常識として知っていたはずです。
ウ. 本社費・共通費を各事業部に配賦する理由は、問題文にある牽制機能への期待の他にも、2つあります。解説に示しておいたので、確認しておいて下さい。
エ. 経営レバレッジ係数が「売上高が減少して損益分岐点に近づくにつれて大きくなるのか、小さくなるのか?」は、解説に示したように、簡単な具体例をその場で作成して検証するのが、最も堅実な解法です。

問題10:計算-品質原価計算*

品質原価計算は、かつては試験範囲に明記されていましたが、現在では除外されています。そういった経緯を知らない試験委員が出題したと考えられます。試験範囲外なのでできなくても構いませんが、問題9イ. で示したように、FINでは取り扱っているので、こういう出題があると、FINの受講生がアドバンテージを得ることになり、少し嬉しいです。
予防原価は、文字通り、不良品の発生を事前に予防するためのコストで、製品設計改善費、製造工程自体の検査費、製造工程改善費が含まれます。評価原価は、材料や製品を検査するためのコストで、製品出荷検査費と購入材料受入検査費が含まれます。失敗原価は、不良品が発生したことによるコストで、仕損費、損害賠償費、製品出荷後補修費、返品廃棄処分費、不良品手直費が含まれます。
品質原価計算は、まず、総原価から4種類の品質原価を集計するところから始まります。本問も含め、多くの過去問がこの段階について問うています。

問題11:計算-財務情報分析*

一般的な専門学校では、「この問題はできなくても大丈夫」という位置づけになっています。頭は使いませんが、時間のかかる問題です。
例えば、ア. は、A社とB社の売上高経常利益率と総資産回転率が問われているので、合計4つの指標を計算する必要があります。
イ. は、A社とB社の流動比率と当座比率を2期間ずつ、合計8つの指標を計算しないと解答できません。
ウ. や エ. も同等以上の計算量なので、直ぐに次の問題に移行するのが賢明でした。
本問で作問者に抵抗するとすれば、最も計算量の少ないア. だけ正誤判断して、選択肢を6つから3つにまで絞り込むくらいだと思います。

問題12:計算-CVP分析**

(ア)の損益分岐点売上高1,000,000千円は容易に計算できるので、選択肢を2つにまで絞ることが出来ます。
(イ)の目標資本利益率達成点売上高の計算は難しくはありませんが、過去問でいうと、論文式で2回問われたのみです。これを反映して、短答用テキストでは、総資産が固定的なモデルしか取り扱っておらず、本問のような変動的資本が存在するモデルは、論文用のテキストで学習することにしています。論文用テキストを受け取っている総合本科生でないと、解答不能な問題でした。
変動的資本が存在するモデルでは、総資産が「売上高に対して常に一定の割合で期末保有される変動的資本」と「固定的資本」から構成されるお仮定します。売上高が増えると、流動資産も増加するので、こういった関係をモデル化した問題は、昭和の時代から存在しています。ちなみに、変動的資本とか固定的資本というのは、この論点特有の概念で、他で使用されることはありません。流動資産には従業員への短期貸付金のように、売上高と関係なく保有されるものもあるので、そういったものを「流動資産のうちの恒常的在高」と位置づけ、これと固定資産を合計したものを「固定的資本」と呼んでいます。
本問では、B製品の売上高(S)の40%が「期末保有されるB製品の変動的資本」とされているので、A製品に関する変動的資本260,000千円と固定的資本250,000千円との合計額が総資産(=0.4S+510,000)となり、この10%が目標利益とされます。これで、解答解説にある全社P/Lが作成できるので、これを貸借バランスするようにして解けば、B製品の売上高(S)が算定できます。

問題13:理論-予算管理***

ア. は、なんとなく読み過ごしてしまいそうな文章です。予算ゲームでは、予算編成担当者が目標を楽に達成できるように、「費用は多めに、利益は少なめに」計画します。
イ. は、参加型予算のメリットですね。
ウ. は、「のみ」というワードがあるので、「誤り」というのが第一感です。
製造部門は、原価の発生額についてのみ意思決定権限を有するのが一般的です。ただ、販売部門に対して、内部振替価格で完成品を販売している場合には、製造部門は、プロフィットセンターとして、収益や利益についても権限と責任をもつことになります。
エ. は、「規範性」とか「総合的な」とか「調和的に」といった具体性に欠くワードが並ぶ、ぼんやりとした印象の文章です。こういった文章は、たいてい「正しい」と判定されます。「誤り」とされる文章は、ほとんどの場合、「費用の過少見積もり」とか「原価の発生額についてのみ意思決定権限を有する」といった具体的なワードがあって、くっきりとした記述になります。
ぼんやりとしたこの記述の意味するところは、おそらく次のような内容だと思います。
予算が「見ならうべきお手本」としての性格を有しているのは、予算が「全社的な利益管理の手段」とされているためだ。全社的な利益目標を達成するために、あらかじめ部門間の諸活動が調整され、企業全体としての整合性を持たせた上で、各部門の「見ならうべきお手本」としての部門予算案が編成されている。従って、各部門が自己の予算目標を達成することで、企業全体の利益目標が調和的に達成されるのだ。

問題14:理論-管理会計の基礎知識**

今回、理論は易しかったといわれていますが、その中で最も難しい問題を選ぶとすれば、本問です。
ア. は、原価維持(=原価統制)に関する記述です。原価維持は、「標準原価計算を利用して行われるコスト・コントロール」を意味するので、正しい記述といえます。
イ. では、承認図メーカーと貸与図メーカーについて問われました。この論点が公認会計士試験に初めて出題されたのは、2010年論文式試験なので、意外に古くから出題されています。2010年の問題では、「承認図方式と対になる方式をあげなさい。」として「貸与図」という語句を答えさせた上で、貸与図方式のメリットとデメリットを記述させられました。当時の講義でも承認図方式と貸与図方式は取り扱っていましたが、初見の受験生も多い論点でした。
ウ. は、原価企画についてですが、原価企画は生産の前段階で行われるので、実際原価はまだ発生していません。
字面だけを眺めていても気づかないので、本記述に対して違和感を感じ取れるようなトレーニングが必要です。
エ. もウ. と同様に、字面だけ眺めていては「誤り」に気づきにくい記述です。
戦略的コスト・マネジメントの「戦略」は、「長期的なあるべき方向性」といった内容を含んだワードです。したがって、問題文の最後にある、「短期的な総合的・・・」の「短期的」というワードに違和感を感じとれる感性が必要です。

問題15:理論-活動基準原価計算***

ABC、ABMに関する問題ですが、4つの記述とも、会計士の短答式受験生としては正答できなければならないレベルの内容です。
エ. は、ABMによるプロセス改善を構成する分析が3つあることを確認する記述です。「誤り」の記述にありがちなワードである、2つの分析「のみ」というところで、「誤り」と判定できた受験生も多かったはずです。
ABMによるプロセス改善は、①活動分析、②コスト・ドライバー分析、③業績分析から構成されています。論文式試験に向けて、この3つの分析の名称と内容は、自分で書けるようにしておきましょう。

問題16:計算-最適セールス・ミックスの決定*

問題11ほどではないですが、時間のかかる問題です。「現状の最適セールス・ミックス下での貢献利益」と「改善案の最適セールス・ミックス下での利益」との差額を求める問題であることの把握に1分は必要です。そうすると、2つのグラフ法による解の差額を7分程度で求める必要があります。目的関数の傾きを利用して、手際よく解答できる受験生は正答できたはずですが、グラフ法に苦手意識のある受験生は、回避するのが賢明な問題でした。