令和4年度第1回 公認会計士短答式試験 講評 ~ 企業法

4科目の講評は企業法です。
今回も、やや難しかった印象です。判例は前回の9個から6個に減少していて、しかも判例のみの問題9は解きやすかったです。一方、金商法から出題される問題19、20は前回よりも難易度が高く、結局、ボーダーラインは、前回と同じく、65点程度に落ち着きそうな気がします。

分野別の出題数は次の通りです。
商法総則・商行為:2問
設立:2問
株式:3問
機関:6問
会社の計算:2問
持分会社:1問
資金調達:1問
事業譲渡と組織再編:1問
金融商品取引法:2問

では、以下で問題毎に講評していきます。解説は、以下のURLからご覧いただけます。

令和4年 公認会計士 短答式試験 解答速報

問題1:商法総則・商行為-代理商**

代理商の関連条文は、商法では27条~31条ですが、本問は「会社の代理商」ということなので、会社法16条~20条が適用されます。ただ、「商法27条~31条」と「会社法16条~20条」は、ほぼ同じ内容なので、商法で学習した知識をそのまま使用しても大丈夫です。いずれにせよ、代理商に係る条文は少ないので、通読しておくと良いです。
ア. の代理商の競業避止義務については、2018年第Ⅱ回で同じ問題が出題されています。支配人のそれと比較する形で整理しておくとよいです。
ウ. は、代理商の留置権ですが、会社法20条では、会社の所有物であることまでは要求していません。代理商の留置権は、2019年第Ⅰ回でも出題されています。商事留置権(商521)、代理商(問屋)の留置権(商31)、運送取扱人・運送人の留置権(商562. 589)については比較できるようにしておきましょう。

問題2:商法総則・商行為-寄託**

寄託については、頻出論点ではないため、対策が手薄となっていた受験生も多いと思います。
ア. の寄託物の保管については、場屋営業の場合に、通常の善管注意義務よりも損害賠償責任を負わされている点についてもおさえておきましょう。
ウ. の倉庫業者の寄託物の返還については、2019年第Ⅰ回で同じ問題が出題されています。

問題3:設立-発起設立・募集設立***

発起設立と募集設立のいずれにも当てはまるものの組み合わせを選択する問題でした。難しくなりがちな、横断的知識を問う出題パターンですが、ア. の「正しい」と、イ. の「誤り」が明らかなので、正答率は高かったはずです。

問題4:設立-募集設立**

ア. は、設立時発行株式の引受けの取消しについてです。制限行為能力者は保護すべき要請が高いため、会社成立後であっても取消しを主張できるのに対し、錯誤・詐欺・脅迫を原因とする取消しは会社成立後は主張できません。このあたりは、心裡留保や虚偽表示があった場合と併せて、一覧表を頭の中に入れておきたい論点です。
イ. は、疑似発起人が発起人と同一の責任を負うというのは誰しも知っているわけですが、それがあたかも会社不成立となったときに限定されているかのような記述だったので、迷ってしまったかも知れません。△マークをつけて、ウ. へ移行しましょう。
ウ. は、発起設立であれば過失責任ですが、募集設立の場合は、設立手続きに関与できない株式引受人を保護するため、無過失責任とされているのは、よく知られた論点です。

問題5:株式-株主名簿**

ウ. と エ. の判定はやや難しいですが、ア. と イ. が「正しい」というのは、比較的易しいので、正解してほしい問題でした。
ア. の株主名簿の記載事項に「株券番号」が含まれることは、短答知識として暗記していた受験生が多いと思います。
イ. は、123条の原文通りなので、これも「正しい」と判定しやすい問題です。

問題6:株式-相続人等に対する売渡しの請求**

イ. と エ. の判定はやや難しいですが、ア. と ウ. が「誤り」というのは、比較的易しいので、正解してほしい問題でした。
ア. は、174条です。公開会社においても、一部の株式に譲渡制限を定款に定めることができます(108Ⅰ④Ⅱ④)。そして、公開会社においても、相続により譲渡制限株式を取得した者に対して売渡請求できる旨を定款に定めることができます(174)。
イ. ですが、自己株式取得に係る配当制限(461)からの出題は、2018年第Ⅰ回、2016年第Ⅱ回、2013年第Ⅱ回、2008年などに出題されています。本問の461条1項5号は、直近ともいえる2018年第Ⅰ回と同じ問題です。企業法は過去問だけやっていても点数の伸びない科目ですが、それでもやはり、過去問は充分に目を通しておきたいですね。

問題7:株式-新株予約権**

エ. は判例なので難しいですが、イ. は全く同じ問題が、ウ. はほぼ同じ問題が過去に出題されてるので、正解してほしい問題でした。
ア. の276条は、ここ最近の出題がなかった条文ということもあって、手薄となっていた受験生も多いと思います。ただ、株式会社が株式を消却できるのと同様に、新株予約権も消却できるだろうというのは想像しやすいので、「誤り」という印象は持てたのではないでしょうか。
イ. は、2017年第Ⅱ回で全く同じ問題が出題されています。
ウ. は、イ. と同様に、2017年第Ⅱ回にほぼ同じ内容の問題が出題されています。募集新株予約権の引き受け申込みをした者は、割当日に新株予約権者となります(245Ⅰ①)。

問題8:機関-株主総会***

ア. の124条4項については、どの専門学校のテキストでも紹介されているはずの条文ですが、出題実績が乏しく、とりあえずパスしたくなる問題でした。
イ. の「株主総会に出席できる株主の代理人の人数を制限できる。」という310条5項は、2017年第Ⅰ回、2011年第Ⅱ回で出題されています。310条は重要条文なので、多くの受験生が正答できたはずです。
ウ. の「取締役会設置会社以外の会社では、他人のために株式を有する株主は、事前の通知をしなくても議決権の不統一行使ができる。」という313条2項は、2016年第Ⅱ回、2010年第Ⅰ回で出題されています。313条も重要条文なので、正答しておきたい論点です。
エ. の「相互保有の被支配会社に議決権なし。」という308条1項かっこ書きは、2019年第Ⅱ回、2016年第Ⅱ回、2010年第Ⅰ回で出題されています。これも頻出論点なので、正答しておきたい論点です。

問題9:機関-株主総会***

判例からの出題なので、短答式受験者の場合、条文知識を援用しながら常識的に判断していく、という方針になります。イ. 以外の論点については、論文用の論証例テキストに類題が掲載されています。短答教材を一通り終えた総合本科生は、積極的に論文用教材にも手を広げるようにしましょう。
ア.  論文用の記述対策では、取締役会設置会社において、代表取締役を株主総会決議で選定した場合、定款にその旨の記載なければその決議に効力はなく、定款に記載があれば有効となるといった論点を取り扱います。ただ、そういった論文知識がなくても、「取締役会の権限事項(業務執行自体・代表行為等を除く)は、定款により株主総会の権限事項とできる。」といった短答知識から、本記述が「正しい」という判定は容易だったと思います。
ウ. の「株主総会における議決権行使の代理人を株主に限定する。」旨の定款規定の効力についても、論文対策としては典型論点です。株主に限定することで、株主総会が攪乱されることを防止できるため、当該定款規定が有効とされる一方で、攪乱されるおそれがない場合に限り、株主以外の代理人による議決権行使も認められる、といった論点です。
エ. 招集手続きに瑕疵があった場合の総会決議の効力についても論文用テキストに類題が掲載されていますが、判例知識がなくても、831条2項の「株主総会等の招集の手続が法令に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、総会決議の取消請求を棄却することができる。」といった条文知識から「本問の総会決議が有効に成立する。」というのは、想定できたと思います。

問題10:機関-株主総会決議取消しの訴え***

ア. の「決議取消しの請求を裁判所が棄却できる要件」を規定した831条2項は、2021年、2017年第Ⅱ回、2013年第Ⅱ回で出題されています。要件の設定が細かいですが、頻出論点なので、確りと暗記しておきましょう。
イ. の839条かっこ書きについては、2020年第Ⅱ回でも出題されていますが、「839条かっこ書きに834条17号が含まれない。」ことを根拠に、「判決が確定したときは、遡って無効となる。」というのは、試験会場で思考できるものではありません。遡及効となるもの(834条13号から17号)をあらかじめ覚えておかないと出来ない問題です。
ウ. は、判例です。
エ. の「株主総会の決議取消し請求の要件」を示した831条1項は、2021年、2019年第Ⅰ回、2017年第Ⅱ回、2017年第Ⅰ回、2015年第Ⅱ回、2013年第Ⅱ回で出題されている頻出論点です。本問の「株主等」を「会社債権者」に置き換えた出題パターンは、2013年第Ⅱ回と同じです。

問題11:機関-取締役の競業及び利益相反取引***

ア. の「取締役会設置会社では、競業取引については取締役会の承認が必要。」という365条1項は、2019年第Ⅱ回、2016年第Ⅱ回で出題されています。本問は承認のない場合の取引の有効性ですが、取締役会の承認がなくとも競業取引自体は第3者保護を優先して有効と解されます。
イ. 競業取引による損害額の推定規定の423条2項は、2019年第Ⅱ回、2016年第Ⅱ回、2012年第Ⅰ回で出題されている頻出論点です。
ウ. 利益相反取引の任務懈怠の推定規定の423条3項も、2020年第Ⅱ回、2012年第Ⅰ回、2010年第Ⅰ回で出題されている頻出論点です。

エ. 自己のためにした利益相反取引の特則の428条1項は、2019年第Ⅱ回、2019年第Ⅰ回で出題されています。利益相反性の高い「自己のためにした」利益相反取引と、「第3者のためにした」利益相反取引は分けて覚えておきましょう。

頻出論点のウ.エ.が正しい記述だったので正答は容易であったと思います。

問題12:機関-指名委員会等設置会社**

ア. の417条1項は、最近の出題実績が見当たりませんでした。取締役会決議を要する委員の職務執行のための規定です。
イ. の417条3項は、2019年第Ⅱ回、2012年第Ⅱ回で出題されています。指名委員会設置会社の取締役会が、指名委員会の委員の職務を監督するための規定です。
ウ. の410条1項は、最近の出題実績が見当たりませんでした。社外取締役も委員会を招集できるように招集権者は限定されません。
エ. の414条は、2019年第Ⅰ回で出題されています。各委員会への報告を省略するには、全員への通知が必要です。

指名委員会設置会社自体が手薄な論点かと思いますし、問われた内容も細かい規定です。*よりの**だと思います。

問題13:機関-取締役又は監査役の終任**

ア. の339条1項・309条2項の両条文は、ともに2010年以降5回以上出題されています。超頻出論点ですから正誤判断できたと思います。
イ. の854条1項の、役員の解任の訴えは少数株主権です。多数派株主によって解任案が否決された場合等の不都合を回避するための規定です。最近の出題実績が見当たりませんでしたし、正誤判断できなくても仕方ないと思います。
ウ. の「一時取締役の職務を行う者の選任」についての346条2項は、利害関係人の申し立てにより裁判所が選任できるとし、必ず選任することは求めていません。任期満了や辞任の取締役には留任義務があるからです。2016年第Ⅱ回、2010年第Ⅰ回で出題されています。
エ. の345条2項、4項は、監査人の独立性確保のための規定です。最近の出題実績が見当たりませんでしたが、会計士試験対策としては重要な規定なので是非押さえておきたいところです。

問題14:会社の計算-連結計算書類***

444条は、2018年第Ⅱ回、2015年第Ⅱ回で出題されています。

ア.指名委員会等設置会社は会計監査人を置く必要があり、会計監査人設置会社は連結財務諸表を作成できます。機関設計と組み合わさっているところが難しかったですね。

イ.ウ.連結財務諸表については株主総会の承認や公告は求められていませんが、エ.監査役等と会計監査人の監査を受ける必要があります。

個別の計算書類や財務諸表の規定との異同に注意が必要です。

問題15:会社の計算-分配可能額**

ア. 「全部取得条項付種類株式の全部の取得」の461条1項4号は、財源規制を設けています。2016年第Ⅱ回で出題されています。
イ. の事業の一部譲受による自己株式取得が「株主との合意による自己株式の取得」461条1項3号.156条1項に当たるかを判断できたかがポイントでした。事業全部の譲受による自己株式の取得には財源規制が課されない(155条10号)ことと対比させる問題です。
ウ. の「吸収合併における反対株主の株式買取請求」の785条1項は、2019年第Ⅰ回で出題だけですが、組織再編の重要論点なので押さえておきたい規定です。
エ. の799条1項2号は、2020年第Ⅱ回、2019年第Ⅱ回、2016年第Ⅰ回で出題されています。債権者異議手続きがあるため、財源規制は課されません。これも組織再編の重要論点なので押さえておきたい規定です。

問題16:持分会社-合資会社の解散**

ア. の639条2項は、2017年第Ⅱ回、2015年第Ⅰ回で出題されています。
イ. ~ エ. は持分会社の解散事由(641条)を覚えていたかどうかでした。ウ.総社員の同意、エ.破産手続開始の決定は解散事由ですが、イ.合資会社が事業全部の譲渡をしても得られた対価で事業を行えるので解散事由にはなりません。

問題17:資金調達-社債管理補助者**

714条の4~7は、令和1年会社法改正論点からの出題です。

ア.社債管理者との対比における社債管理補助者の法定権限やウ.社債管理者と同様の善管注意義務等については確認しておきたいところです。

問題18:事業譲渡と組織再編行為-株式会社の新設分割***

ア. 新設分割では当事会社は共同して新設分割計画を作成しなければなりません(762条2項)。最近の出題実績が見当たりませんでした。
イ. 新設分割設立会社の場合には、通常の株式会社の設立のような裁判所選任の検査役の調査は要求されていません。
ウ. の事前開示情報の規定(803条1項)は、株主の承認決議や債権者の異議の手続きの判断材料として求められています。2012年第Ⅱ回でも出題されています。
エ. の会社分割の無効判決の効力についての843条1項は、2020年第Ⅰ回、2012年第Ⅱ回、2012年第Ⅰ回で出題されている頻出論点です。

問題19:金融商品取引法*

金商法上の「有価証券」か否かではなく、「有価証券表示権利」か否かが問われました。受験上パスで問題ありません。

問題20:金融商品取引法*

ア. の「内部統制報告書」金商法24条の4の4第1項は、監査論の知識から「業務の適正性」でなく「情報の適正性」を確保する体制についての評価と判断できたと思います。
イ. の有価証券報告書と内部統制報告書が併せて内閣総理大臣に提出されることは、監査論知識で正しいと判断できたと思います。
ウ. の「虚偽記載等のある届出書の役員等の賠償責任」金商法24条の4の6は、知らなくても仕方ないと思います。
エ. の「内部統制報告書の監査証明」金商法193条の2第2項は、財務計算に関する書類として監査証明を要するわけではありません。紛らわしい記述ですね。

以上です。