令和4年度第2回公認会計士短答式試験講評~監査論

5月29日に実施された短答式試験について各科目の講評を順次公開していきます。

まずは監査論からです。今回の本試験の特徴としては、まず前半に制度論、特に金商法監査が例年より多く出題されました。一部細かすぎる記述が含まれている等、手応えのある内容でした。次に、リスク・アプローチからの出題がなかったのは、監査基準の改訂でリスク・アプローチが強化されたため、紛らわしさを回避したのかも知れませんね。以下、各問毎に講評していきます。

詳細な各問解説はこちらからどうぞ。

問題1:公認会計士監査の歴史*

監査論講師レベルの監査論オタクでなければ知識がない内容かと思います。受験上パスで問題ないでしょう。

問題2:監査法人***

イ.外国公認会計士も公認会計士である社員に含まれます。この記述だけ難しかったですね。

残りのアウエは正しく正誤判定できる内容です。ア.社員の競業禁止規定があります。ウ.指定有限責任社員の説明です。エ.無限責任監査法人では指定社員が法人を代表します。有限責任監査法人と無限責任監査法人の社員の責任は整理しておきましょう。

問題3:金商法監査**

アエ.有価証券報告書等の提出会社の条件や監査証明の必要の有無については頻出論点ですし、正確な知識をインプットしているはずです。それでも、イ.任意に提出する四半期財務諸表のレビューとなると迷いが生じても仕方ないと思います。

エ.親会社等状況報告書は監査証明が不要なため、監査論では学習対象外になりがちですが、企業法ではその内容を確認していたかと思います。

問題4:金商法監査**

イ.監査・レビュー実施後の概要書の提出について、ウ.臨時報告書に監査証明が不要なことについては正しく正誤判定できたと思います。エ.四半期報告書の訂正報告書に四半期レビューが必要なことはちょっと迷ったかもしれませんね。ア.の内部統制監査についての概要書の内容については細かすぎる記述なので分からなくても仕方ないでしょう。

自信を持って正誤判定できる記述が正と誤の組み合わせになっているので**にしました。

問題5:金商法監査***

ア.監査対象の範囲、イ.監査の基準の範囲、ウ.挙証責任の転換については正誤判定は容易だったと思います。エ.監査証明の不受理についてだけは少し細かい気もします。

問題6:会社法監査**

アイ.は機関設計の問題でもあるので、企業法の知識も活かせたたと思います。アイウ.の会計監査人関連の知識は問題7でも出題されているように頻出論点ですから、隅々までインプットすべきです。株式会社の役員共通の規定と会計監査人ならではの規定を整理しておくと、企業法の知識にもなって一石二鳥です。エ.の連結財務諸表の内容は分からなくても仕方ない記述ですが、ア~ウの正誤判定から正答できたと思います。

問題7:会計監査人***

全記述の正誤判定が容易な問題です。

ここまでで6問が制度論からの出題でした。一見、細かな内容ばかりにも見えますが、頻出論点に絞って効率的に学習していれば負担なく正答できたと思います。

問題8:四半期レビュー***

全記述の正誤判定が容易な問題です。四半期レビューは財務諸表監査との比較において、特に相違点を中心にインプットすると良いですね。

問題9:審査**

ア.小規模監査事務所であっても、審査担当者の客観性は求められます。イ.レビュー基準の規定通りなのですが、レビューでは監査と異なり「審査の方法・内容等を柔軟に定めることができる」との規定を思い浮かべてしまうと間違えてしまったかもしれません。ウ.会議体での審査は強制されないので誤りです。エ.もっともな内容なのですが、細かい部分ではあるので正誤判定は難しかったかも知れません。

問題10:品質管理***

ア.は細かい内容ですからパスで問題ないでしょう。イ.共同監査、ウ.引き継ぎは、ここから問うならこの内容、という記述なので正誤判定できたと思います。エ.一般的な感覚では、新規の契約と契約の更新は別物ですが、品質管理の観点からすべき内容は共通と思っておけば良いでしょう。

品質管理基準の改訂(R5年7月~適用)を受けて品基報も改訂されます。監査基準の改訂(リスク・アプローチの強化)の本試験への影響の動向をみて、品質管理基準への取り組みを考えた方が良さそうですね。

問題11:監査基準の改訂***

監査基準の改訂の年次が記述に含まれますが、例のごとく年次自体の正誤は問われていません。内容の正誤で判断して問題ありません。

ア.他の監査人の結果の利用について監査報告書に記載することは基本的にしません。イ.特別な検討を必要とするリスクが導入されたときの規定です。ウ.準拠性に関する意見表明の説明です。エ.監査上の主要な検討事項は意見不表明の際は記載されないため誤った記述です。

問題12:監査の基準***

ア.監査基準の遵守は法定監査に限らず任意監査でも監査人に求められます。イ.監査基準の必要性と効果を利害関係者と監査人の両側面から説明する典型論点がありますね。ウ.中間監査は「有用性」が立証命題です。エ.二重責任の原則です。

全記述の正誤判定が容易な問題です。

問題13:職業的懐疑心***

ア.職業的懐疑心の保持の必要性は、継続監査の経験があるから、経営者が誠実だからといって軽減されません。イ.監査人はITの専門家ではないから、と考えてしまうと間違ってしまいそうですが、監査人もITに関する基礎知識と対応能力が求められます。ウ.監査調書は入手した監査証拠、監査人の到達した結論の記録ですから監査報告日までに作成することが必要です。「事務的な作業を除き」という点が気になったと思いますが、監査調書の整理として事務的な作業の範囲で監査報告書日後に監査調書を変更できる、という規定があったはずです。エ.専門的な見解の問い合わせをすることも職業的専門家としての判断として行われます。

問題14:監査証拠の適合性***

論文式試験の事例問題対策として、監査手続きと監査証拠の適合性は学習すると思いますが、短答式試験対策としては手薄な場合もあったと思います。

ア.売掛金の残高確認は回収可能性(貸倒れ引当金の十分性)という評価の妥当性についての監査証拠の入手には適合しません。イ.棚卸資産の実地棚卸の立会で、正味売却価格についての監査証拠の入手はできませんが、保管状態を見て陳腐化や老朽化から生じる収益性の低下についての監査証拠は入手できます。ウ.登記簿謄本からは土地の時価や使用価値の入手はできないので評価に関する監査証拠の入手はできません。エ.実在性と網羅性の監査手続き・監査証拠の適合性といえば、母集団の適合性が想定されます。借入金の網羅性の場合、ブランク確認状による積極的確認が選択され、残高証明書ではそれ自体の網羅性が保証されていないという問題があります。

問題15:会計上の見積り**

ア.かみ砕くと、固有リスクの程度が低くとも、会計基準に従った会計上の見積りが行われているかは検討します。という内容ですが、規定の表現が難解すぎるので、正誤判定の前に記述の意味内容が読み取れなかったと思います。イ.経営者の見積に対しても、監査人自身の見積に体いても同様のリスク対応手続きがとられます。このアイは正誤判定は難しかったと思います。

ウ.監査人による遡及的な検討が過去の経営者の判断を問題にするものではないことは頻出論点です。エ.リスク評価とリスク対応手続きの関連性は監査調書に記載されます。このウエの正誤判定は難しくないので、できれば正答したかった問題です。

問題16:その他の記載内容*

ア.その他の記載内容の誤りについての正しい説明です。エ.その他の記載内容は、そもそも監査対象外なので保証の対象ではありません。

イ.その他の記載内容との間の重要な相違があるかを検討し、重要な相違があると思われる場合に、その他の記載内容に重要な誤りがないかを判断するはずです。ウ.財務諸表にも監査の過程で得た知識にも関連しないその他の記載内容についても、重要な誤りと思われる兆候に注意をはらい、兆候があれば経営者に質問するなどします。その性質から経営者の回答を十分に評価できす、重要な誤りがあるかどうかを判断できない場合もありますが、判断しなくても良いわけではないでしょう。

ということで、誤りがイウエとなってしまうので、没問になると思います。

問題17:監査意見・監査報告***

ア.契約解除する前に監査役に報告をする必要があります、は細かすぎる規定なので正誤判定できないでしょう。それでもイウエで正答できるので問題ありません。

イ.監査上の主要な検討事項の決定手順の説明で、監査役とのコミュニケーション対象→特に注意を払った事項、の手順が正しいので誤りです。ウ.継続企業の前提に関する重要な不確実性は強調事監査基準の改訂で監査基準の改訂で単独の区分になりました。エ.監査範囲の制約に係る除外事項による限定付適正意見となったときの監査報告書の記載の説明です。記載例に目を通していれば正誤判定できたはずです。

問題18:比較情報***

ア.監基報上、比較情報が対応数値方式の場合と比較財務諸表方式の場合で実施される監査手続きが異なるような規定はなかったはずです。でも改めて問われるとドキッとしますね。イ.全ての対象年度の確認事項を記載した経営者確認書を要請するのは比較財務諸表方式です。エ.その他の事項区分に比較情報が監査されていない旨を記載しても期首残高についての監査手続きは免責されません。

問題19:後発事象**

ア.後発事象の監査手続きは、経営者への質問、議事録等の閲覧、期中財務諸表の通読が中心です。イ.財務諸表の承認日=経営者確認書の日付=監査報告書日です。ウ.訂正財務諸表には監査報告書の差し替えではなく訂正報告書を提出します。エ.財務諸表の発行日はEDINETにアップされる日か招集通知の発送日です。

問題20:不正リスク対応基準**

ア.重要な虚偽表示を示唆する状況と重要な虚偽表示の疑義の関係性は確認してきましょう。何が示唆する状況にあたるかも整理しておきましょう。イ.「~含むことがある。」ならば正しいだろうと判断することもできたかも知れません。経営者確認書の記載例も目を通しておきましょう。ウ.監査契約の新規の締結も定期的な検証に含まれます。イウは細かい内容なので正誤判定しにくいと思います。エ.不正リスク対応基準ですから誤謬は対象外です。

以上です。