令和4年度第Ⅱ回公認会計士短答式試験講評~財務会計論
今回の財務会計論も前回(2021年12月実施)と同様に例年より易しかった印象です。個別計算では所々見慣れない論点が含まれていましたが、理論と連結の総合問題は80%程度の正答率が期待できる問題でした。
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問題1:会計主体論***(理論)
全ての記述が楽に正誤判定できる問題です。
ア.資本助成目的の国庫補助金は、資本主理論では株主の出資以外で利益、企業主体理論では資本助成で資本になります。イ.配当金と支払利息は、資本主理論では出資者への分配と財務費用とで異なるもの、企業主体理論では共に資金調達コストになります。ウ.非支配株主持分は、親会社説では株主資本に含まれないが、経済的単一体説では株主資本の一部です。エ.子会社株式の売却取引は子会社の非支配株主との取引なので、親会社説では損益取引、経済的単一体説では資本取引になります。
問題2:一般原則***(理論)
ア.正規の簿記の原則と重要性の原則の説明です。重要性の判断が利害関係者の判断に及ぼす影響の観点からなされることは財務会計の基礎知識です。イ.資本取引損益取引の区分の原則の説明ですが、会社法の配当源泉と関連させているところが少し難しいですね。ウ.継続性の原則の説明です。正当な理由なく任意に会計処理を変更することはできません。エ.保守主義の原則の説明です。
全ての記述が楽に正誤判定できる問題です。
問題3:売掛金明細表**(計算)
取引内容から甲社と乙社の売掛金残高を求めるだけの問題です。***でも良いくらいですが、電子記録債権が出てきたので**にしました。電子記録債権は手形に変わるモノとして開発された債権ですから手形と同様に考えて問題なしです。
問題4:棚卸資産***(計算)
棚卸資産の貸借対照表価額を求める問題ですから、実地棚卸数量+単価+評価損で求めることができます。三種類の商品で単価の算定方法もそれぞれでかなり手間がかかりますが、計算内容自体は非常に簡単です。今回は総合問題が簡単で時間的に余裕があったと思いますから、初見はパスしても2巡目では解けたのではないでしょうか。
問題5:無形固定資産***(計算)
無形固定資産の貸借対照表価額を求める問題です。鉱業権の生産高比例法では、念のため推定埋蔵量と採掘量の累計が一致しているかどうかは確認しましょう。特許権はX5年度の出願料と登録料だけが無形固定資産に計上されます。X3年度X4年年度に研究開発費として費用処理した金額はそのままで問題なしです。ここで過去の誤謬?と思ってしまうと間違えてしまいます。
問題6:流動負債**(計算)
外貨建借入金は経過利息をCR換算することを忘れずに。会計士試験ではあまり見ない社内預金ですが、社会保険料と同様の預り金です。ただし長期性のものとあるので、本問では集計対象外です。特別修繕引当金は資料から2年後に実施されることを読み取って固定に表示します。この問題も***でも良いくらいです。
問題7:資産除去債務***(計算)
資産除去債務なのに割引率が0%と、極めて簡単な問題でした。除却時の履行差額は減価償却費と同じ計上区分ですが、合算した額が選択肢がないので間違えようもなかったですね。
問題8:自己株式***(理論)
ア.は自己株式の性格、資産か資本の控除かの典型論点です。イウエは計算の知識で対応できますね。
問題9:包括利益**(理論)
ア.包括利益とクリーン・サープラス関係にあるのは株主資本ではなく純資産です。その他の包括利益が純資産の部の株主資本以外の部分に表示されることからも明らかですね。イ.我が国の純利益重視の立場からの説明です。ウ.繰延ヘッジ損益の計算の知識も必要ですが、組替調整は苦手とする方も多いので正誤判定も難しかったかもしれません。エ.遡及適用の累積的影響額は包括利益とは関係しません。
問題10:1株あたり当期純利益*(理論)
ア.当期純損失でも1株あたり情報は開示します。潜在株式調整後1株あたり情報を開示しないケースとして当期純損失があります。イウ.配当優先株式による希薄化のケースの計算対策はある程度は行っているでしょうが累積型かどうかまで深く対策はできていないのではないでしょうか。エ.1株あたり純資産については対策できていなくとも仕方ないでしょう。
問題11:キャッシュ・フロー計算書*(計算)
キャッシュ・フロー計算書での為替差損益の取扱いの問題です。売上債権に係る為替差損益は営業活動によるキャッシュ・フローの売上債権の増減額の項目で調整されるので、ア.には借入金と外貨預金に係る為替差損益のみ考慮されます。切り口が気が利いていて良問ですが、だからこそ正答しにくかったと思います。
問題12:貸倒引当金*(計算)
ポイントはリース債権とリース投資資産の取扱いです。この債権が貸倒引当金の設定対象になる問題は稀なので*にしました。リース債権は純粋にリース料回収の金銭債権ですがリース投資資産に含まれる残存価額は金銭債権ではないので貸倒引当金の設定対象から外します。次に、長期貸付金が貸倒懸念債権であることを読み取ったら、キャッシュ・フロー見積法で貸倒引当金を設定するために割引価値で債権を評価します。
問題13:ストック・オプション***(計算)
基本的な問題ですが、敢えてポイントを挙げるなら、権利確定日にはストック・オプション数を実績数にするため実際の退職者数を資料から正しく拾うところでしょうか。
問題14:リース取引***(理論)
アは、リース取引の定義です。イは所有権移転リースか否かの判定です。計算でも必要な知識ですね。ウエも計算の知識でカバーできると思います。
問題15:収益認識**(計算)
ポイントが付与される販売の収益認識は適用指針の設例にもあるため対策してあったと思います。ただ、設例では与えられていたポイントの時価を本問では「1円/1ポイント×80%=0.8円/ポイント」で計算する必要があったところに気づけたかどうかでした。
問題16:退職給付会計*(計算)
今回の財務会計論でダントツで最も難しかった問題です。退職給付債務の計算構造を理解していないと解けない問題です。受験上パスで結構ですが、復習はしておいてください。
問題17:税効果会計***(理論)
ア.将来減算一時差異と将来加算一時差異の例は頭に入っていると思いますが、連結財務諸表固有の一時差異は加算・減算がパッとは出てこないかも知れませんね。会計の側で負債(貸倒引当金)が減額されるから将来加算一時差異です。イ.繰延法と資産負債法の違い(対象とする差異、適用される税率、税率変更時の対応)は重要論点としておさえておきましょう。ウ.繰越欠損金は税効果があるため、税効果会計の対象となる一時差異等の「等」にあたるものですね。エ.これは細かい内容です、分からなくで結構です。
問題18:外貨建て取引***(計算)
為替予約が付されている仕入取引です。振当処理なので、直々差額を為替差損益に、直先差額を期間配分します。為替差損益の損と益が逆転しないように買掛金の増減に注目してください。
問題19:持分法**(理論)
持分法に関する理論問題です。今回出題された7問の理論の中では、問題10の1株あたり当期純利益と本問の難易度が高い印象でした。ア. 関連会社の範囲を正確に暗記している受験生は少数でしょうし、イ. も難しいです。ウ.は、追加取得時の「のれん」の償却期間について、既存の償却期間と異なるものを設定できるか、といった初見の論点ですが、計算問題で見たことがないので、「できない」と判定できそうです。また、持分法の仕訳は、一行連結といわれるように、すべて持分法による投資損益に含めてしまうので、エ.が正しいというのも、容易に想像のつくところです。2つの選択肢にまでは絞ることができますが、ア. と イ. はしんどかったと思います。
問題20:減損会計***(計算)
のれんを時価基準で各事業に分割してから、事業毎に減損処理を行います。事業内の各資産グループ毎に減損処理し、次により大きな単位で測定した減損損失の増加額をのれんに優先的に配分していきます。今回はのれんに配分しきれるので各資産に配分する必要がなくその分簡単でした。
問題21:ソフトウェア***(計算)
ソフトウェアの償却計算は簡単な設定でしたので、研究開発費(費用)とソフトウェア(資産)に正しく分けられるかがポイントでした。著しい改良は研究開発費ですね。
問題22:企業結合・事業分離***(理論)
ア.逆取得では個別財務諸表上、会社法の規定に抵触するおそれからパーチェス法は採用せず消滅会社は帳簿価額で計上します。イ.共同支配企業の形成の実態は持分の結合なので、時価ではなく帳簿価額で計上です。ウ.「投資が清算=移転損益を認識+時価で再投資」です。エ.現金等の財産のみが受取対価の場合、分離先が子会社ならば共通支配下の取引として帳簿価額で計上し、分離先企業が関連会社ならば投資の清算として時価で計上します。対価が株式のみの場合と混同しないように整理しておきましょう。
問題23~28:総合問題(連結会計)***
S1社が連結から持分法への移行、S2社が持分法から連結への移行を論点とする資本連結の問題でした。基本的な計算パターンなので、どこの専門学校でもしっかりとやっているかと思います。
問題23: X3年度連結B/Sの「関連会社株式」は、S2社株式に1年分の持分法を適用した「S2社株式」を計算するだけです。
問題24: X4年度連結P/Lの「段階取得に係る差益」は、S2社株式に2年分の持分法を適用した「S2社株式」と、追加取得時に保有している全S2社株式を追加取得時の時価で再評価した「S2社株式」の金額の差額として求めます。
問題25: X4年度連結B/Sの「のれん」は、持分適用時代ののれんを切り放し、X5年3月末に新たに70%取得したものとして再計算します。土地の評価差額も持分法適用時代のものは切り放し、追加取得時の土地の時価で再計上します。また、「S2社純資産に対するP社持分」と比較する「S2社株式の取得原価」は、追加取得時に保有している全S2社株式を追加取得時の時価で再評価した「S2社株式」の金額を使用するのがポイントです。
問題26: X5年度連結B/Sの「関連会社株式」は、唯一S1社のタイムテーブルを利用します。連結子会社から持分法適用会社に移行しましたが、最初から持分法を適用して計算した結果と同額になる、という結論をおさえておけば、短時間で正答できる問題でした。
問題27: X5年度連結B/Sの「非支配株主持分」は、もちろん、タイムテーブル上のX6年3月末のS2社純資産額に非支配株主持分割合30%を乗じるだけです。成果連結がないので、楽ですね。
問題28: X5年度連結B/Sの「土地」は、S2社が連結子会社になった時点で土地を再評価するため、追加取得時の時価で評価したS2社土地の金額と、P社土地の取得原価の合計額になります。