第162回 日商1級 講評 ~ 工業簿記・原価計算

工業簿記は「部門別計算」、原価計算は「理論の穴埋め」「業務的意思決定」でした。

以下、個別に講評していきます。
詳細は、次をご参照下さい。
日商1級-第162回-工業簿記・原価計算

工業簿記

部門別計算は、資料が少ない割には時間のかかる問題でした。この手の問題は、苦手な人は苦手のまま、得意な人は苦もなく解けるので、前者の受験生には厳しかったと思います。
本問は、問2が解ければ完答できるので、丁寧な下書きで、問3以降で利用する資料を残しつつ、正確に問2を乗り切ることが肝要でした。
問1(補助部門費を製造部門へ配賦)
補助部門費を製造部門に配賦するにあたって、通常は、補助部門ごとに異なる配賦基準を用います。補助部門の原価発生態様に合わせた配賦基準を用いた方が正確な原価計算が行いうるからです。
ところが、本問では、「3つの補助部門ともに、直接作業時間基準で計算しなさい。」ということでした。
ということは、3つの補助部門費を合計した金額を直接作業時間基準で配賦すれば、計算が一度で済み、時間が節約できるので、こういった工夫をしながら正答して欲しい問題でした。

問2(製造部門費の製品への配賦~直接労務費基準)
直接労務費基準ですが、直接工の賃率が与えられていなかったため、各製造部門の直接工賃率を算定した上で、製品別直接作業時間を乗じて、各製造部門費の配賦基準である製品別の直接労務費を計算します。その上で、製品別の直接労務費を配賦基準にして、各製造部門費の配賦計算を行うわけですが、配賦率を計算しても「割り切れない!」ということで、解答最終値までノーミスで計算できているか、自信の持てない問題でした。また、本問のように、同じような計算を繰り返していると、「あれ、今、何計算してるんだっけ?」ということになりがちです。対処法としては、部門別計算の練習問題で「解く体力」を身につけておくのが最良だと思っています。

問3(製品別の製造直接費)
問2で製品別の直接労務費を計算済みなので、あとは、単純な直接材料費の計算を行って、合計するだけ、という問題でした。

問4(製品別の単位原価)
問2の製造間接費と問3の製造直接費を合算した製品別の製造原価をそれぞれの製品生産量で割って求めます。

問5(活動基準原価計算)
これは楽でした。コストプール(原価の集計場所)別の活動原価と、そのコストドライバー(配賦基準)が与えられているので、これを利用して、活動原価を2種類の製品に跡づけます。活動原価が6種類あるので、同様の計算を6回繰り返して、合算します。

問6(活動基準原価計算を前提とした製品別の単位原価)
問5の製造間接費と問3の製造直接費を合算した製品別の製造原価をそれぞれの製品生産量で割って求めます。

原価計算

第1問「理論の穴埋め」第2問「業務的意思決定」でした。
第1問は(1)以外は平易、第2問は問1~問3を正答しておけば合格点という内容です。

第1問:理論の穴埋め

語句の穴埋めは、(1)は何のことだかよく分かりませんが、(2)~(6)は正答して欲しい問題です。
(6)は、貢献利益図表又はCVP図表を下書き用紙に書いて、適当に具体的数値を入れてあげれば、正答できます。

第2問:業務的意思決定

問1(材料xを使用した場合の最大生産可能量)
唯一の制約条件である機械稼働可能時間が450分、作業時間は1個あたり1分なので、最大生産可能量は450個。易しいです。

問2(材料yを使用した場合の最大生産可能量)
問1と同様です。
唯一の制約条件である機械稼働可能時間が450分、作業時間は1個あたり0.5分なので、最大生産可能量は900個。

問3(材料xから材料yへ切り替えることで増加する利益)
材料xだと450個しか生産・販売できないですが、材料yだと900個も生産・販売することができます。
これにより増加する売上高から、増加する原価を控除すれば、差額利益が算定できます。道筋の立てやすい問題です。

問4(材料yを使用した生産を行わないことで失う利益)
できなくて大丈夫です。

問5(材料xから材料yへ切り替えることで増加する利益~余剰材料あり)
過去に購入した余剰材料の使用する場合は「材料費は無料!」と考えます。「追加の現金支出がないから」というのが理由で、これは、超短期的な思考です。なので、余剰在庫を購入した時点を現時点として、長期的な意思決定を行うのであれば、余剰在庫となった材料に対する現金支出も考慮するので、そのあたりは混乱しないようにしましょう。
余剰在庫についての同様の業務的意思決定問題は、2021年度の公認会計士短答式試験でも出題されています。FINの個別問題集にも収録しているので、解いたことのある受験生は正答できて欲しい問題です。
計算過程は色々と考えられるので、最終解答値である△26,000円が算出できるのであれば、自分で理解しやすい計算過程でO.Kです。