令和5年度第Ⅰ回公認会計士短答式試験講評~監査論
例年より難しかった印象の今回の短答式試験の監査論です。特に前半の10問が例年以上に難しかったですね。取りかかりやすい後半から解き始める受験生が多いとは聞きますが、今回の本試験もその方が正解だったようです。
以下、各問題について講評していきます。解答・解説はこちらをご確認ください。
問題1:財務諸表監査***
ア.二重責任の原則は、財務諸表作成責任を経営者と監査人とで責任分担する原則ではなく、財務諸表作成責任は経営者が、意見表明責任は監査人が負うという責任分担の原則です。
エ.財務諸表監査は情報監査なので、意見表明は財務諸表の情報としての適正性に対してであり、会社自体の安全性や収益性に対してなされるものではありません。
確実に正答できる問題です。
問題2:我が国における財務諸表監査の歴史*
受験上パスでまったく問題ないでしょう。
問題3:公認会計士法*
イ.公認会計士が登録制であることや、ウ.監査法人が届出制であることは知っておいても良いかと思いますが、問題としては受験上パスで問題ありません。
問題4:金融商品取引法監査制度***
ア.四半期レビュー報告書の記載例は通読していても、中間監査報告書はカバーしきれてない受験生も多いのではないでしょうか。誤りは、四半期レビュー報告書には内部統制の有効性についての意見表明でない旨の記載がない点なので、正誤の判断ができたかも知れませんね。監査とレビューの違いからこうした記載内容の違いが生まれています。
イ.法令違反等事実発見への対応自体は重要論点なので、要件を正確に覚えていれば誤りに気づけたと思います。
ウ.エ.が正しいことが明らかなので、正答できたと思います。
問題5:金融商品取引法監査制度***
イ.金商法の規定の知識は無くとも、監査調書の整理・保管について「監査ファイルは監査報告書日から60日程度内に最終的な整理を完了する」という監基報の知識があれば誤りとできたかも知れません。細かい内容なので正誤判断できなくても仕方ないでしょう。
エ.内部統制の整備・運用責任は経営者にあり、監査役等の責任ではありません。
ア.正しい、イ.誤り、の生後判断が難しいので**よりの***です。
問題6:会社法における会計監査人**
ア.会計監査人の選任議案は監査役等が決定します。イ.一時会計監査人の選任も監査役等です。
ウ.解任事由があるときの会計監査人の解任に監査役全員の同意が必要という知識を、監査等委員会設置会社の場合にまで発展させて覚えておけたかは難しいところですね。
ウ.エ.も企業法の知識を持ってしても正誤判断が難しい記述でした。*よりの**です。
問題7:会社法における監査役等***
ア.監査等委員会設置会社の監査等委員について常勤者の規定はありません。常勤者の要否については意識してこなかったので、正誤判断もできなかったと思います。
イ.監査等委員の解任は独立性確保の観点から株主総会の特別決議によるとされています。
企業法の知識があれば、ア.以外は正誤判断が容易なので確実に正答したい問題です。
問題8:内部統制の評価及び監査***
ア.重要性の大きい業務プロセスは個別に評価プロセスに追加する事になっています。
ウ.実際に生じた虚偽表示ではなく、虚偽表示の発生可能性と影響の大きさ(金額的・質的重要性)に基づいて開示すべき重要な不備かを決定します。
正誤判断が難しいことの多い内部統制監査ですが、今回はすべて重要論点からの出題だったので***としています。
問題9:監査の品質管理*
イ.内部通報制度は監査事務所内外からもたらされる申し立てに対応するものです。
エ.一定の監査に関しては、日本公認会計士協会の品質管理レビューの結果も、被監査会社の監査役等へ伝達されます。細かい規定ですから知らなくても問題なしです。
問題10:保証業務**
イ.「合意された手続」は保証業務ではありません。
ウ.限定的保証業務の保証報告書では消極的形式によって結論を報告します。
抽象的内容の保証業務についての問題は、頻出の論点のみ表面的に覚えて対応できるところだけ、と割り切るの効率的だと思います。
問題11: 監査の基準*
ウ.国際金融市場で資金調達している被監査会社もありますから、監査においても国際監査基準等に準拠して実施される場合もあります。
エ.実務的に適用例が多いか少ないかは受験生としては判断つきかねるところですから、受験上パスで問題ないでしょう。
イ.についても正しいとしにくい内容ですし、受験上パスの問題です。
問題12:信頼性の保証水準***
ア.中間監査では「有用性意見」が表明されますから、年度監査と同程度の信頼性の保証ではありません。どちらも監査であり合理的保証ですが、信頼性の保証水準は異なります。
ウ.不正リスク対応基準が適用されるからといって保証水準が高くなるわけではありません。むしろ、年度監査と同水準の保証を確保するために不正リスク対応基準が適用されると考えた方が良いでしょう。
問題13:監査計画**
ア.リスク評価の結果が改訂された場合、必ず監査計画を修正する必要があるとは限りません。
ウ.重要性の基準値が小さく修正された場合に、必ず手続き実施上の重要性も改訂する必要があるとは限りません。
修正・改訂する必要があるか、必要があるか判断しなければならないか、これを判断するのは正直難しいですが、「修正・訂正しなければならない。」のように監査人の判断の余地無く要求されている内容については意識して覚えるようにしましょう。
問題14:監査リスク***
ア.監査人自身の事業上のリスクは監査リスクに含まれません。頻出論点ですね。
イ.発見リスクの水準は、評価した重要な虚偽表示リスクの水準によって定まります。許容可能な低い水準にすることが求められているのは監査リスクです。
エ.はR2監査基準改訂論点である特別な検討を必要とするリスクの定義ですから、すぐに正しいと判断できたはずです。
問題15:内部統制システムの評価**
イ.事業上のリスクの全てを対象として評価することは監査人に求められていません。頻出論点です。
エ.運用評価手続きを計画していなくても、特定のリスクに対する経営者の対処方針の理解は実証手続きの立案に有用です。
監基報315号の改訂では、内部統制の構成要素についても理解と評価に分けて再整理されたので、今回出題された統制環境とリスク評価プロセス、統制活動を中心に確認しておきましょう。
問題16:監査手続***
ア.特別な検討を必要とするリスクだからといって特に統計的サンプリングが要求されているわけではありません。監基報に規定されていないことについて正誤を判断するのは難しいですね。
イ.運用評価手続は、内部統制の有効性を評価して統制リスク、ひいては重要な虚偽表示リスクを評価するために実施されるものです。虚偽表示額の推定は詳細テストの結果から行われます。
ウ.エ.の正誤判断が容易なので正答できたと思います。
問題17:専門家の業務の利用***
イ.経営者が専門家の業務を利用することと、監査人が専門家の業務を利用するかどうかは別の判断です。
ウ.監査人が内部の専門家の業務を利用する場合でも、業務の内容等についてコミュニケーションし合意が必要です。
ア.エ.専門家の場合には「独立性」ではなく「業務の客観性」が求められます。この「客観性」への阻害要因についてセーフガードが適用されることになります。
すべて頻出論点なので正答できたと思います。
問題18:監査意見***
ア.重要な虚偽表示に該当しなければ除外事項にもなりません。
エ.品質管理の方針及び手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる審査以外の方法が定められている場合には審査を要しません。
全て監査基準から正誤判断できる記述なので正答できたと思います。
問題19:その他の記載内容**
イ.監査報告書に記載すべきその他の記載内容が存在しないと判断した場合、①その他の記載内容が存在しないと判断した旨及び②その他の記載内容に対していかなる作業も実施していない旨を記載します。
ウ.重要な誤りがあると思われるその他の記載内容は、監査人の意見表明の対象外ですから、重要な誤りの裏付けを得ることは求められないはずです。
ア.の正しいことは明らかですね。エ.についても(1)重要な相違の原因が、その他の記載内容の誤りと財務諸表の虚偽表示のどちらになるのか、(2)経営者の対応として修正したかいなか、の場合分けで整理してれば正答できたと思います。
問題20:不正への対応***
ア.不正に対しては、職業的懐疑心を「保持」ではなく「高める」ことが求められます。
イ.監査計画を修正し監査手続きを追加する度に、被監査会社に事前に通知することなど現実的ではありません。
全て「不正リスク対応基準」から正誤判断できる記述です。例年、問題20は「不正リスク対応基準」から出題されているので、不正への対応ならではの箇所を中心に丁寧に読み込んで準備しておきましょう。
以上です。