令和5年度第Ⅰ回公認会計士短答式試験講評~財務会計論

本試験、お疲れ様でした。
問題構成は、理論11問、計算は個別問題が11問、総合問題が6問で、理論が2問増加し、計算の個別問題が2問減少しました。高い正答率が求められる問題は、理論9問、個別問題4問、総合問題4問です。例年より理論を得点源にできたことと、時間を要する計算問題がほぼ無かったことから、時間的に余裕を持って取り組めたのではないでしょうか。
想定合格ラインは148点で、やや高めの設定になっています。
例年より難易度が高かった監査論を財務会計論でカバーした受験生も多かったと思います。

以下、問題毎に講評していきます。解答・解説はこちらをご確認ください。

問題1:財務会計の役割(理論)***

財務会計の「概念フレームワーク」を中心とした出題です。全ての記述について正誤判断できたと思います。

ア.「経営者の受託責任の遂行状況を評価という会計報告の目的」が財務報告の利害調整機能と分かれば、副次的な目的として「概念フレームワーク」に記述されていたと気づけたと思います。

イ.税効果会計を理解するに当たって、会計上の利益に加算・減算して課税所得計算をしていることは知っていたはずですね。

問題2:資産会計(理論)***

ウ.の「混合的測定」という表現は知らなくても、ア.イ.エ.の正誤判断は容易だったので正答できたと思います。

ア.電力会社等では固定資産の重要性から「固定性配列法」が採用されます。

エ.固定資産の原価償却は取得原価の費用配分として行われるので、割引現在価値は用いられません。

問題3:本支店会計(計算)**

短答本試験の本支店の問題は、「資料は少ないけど、難しい可能性がある。」ので、手を出してみて、無理そうだったら、次の問題に移る方針が賢明です。
本問は、本店の原価率や支店への付加利益率も与えられていて、論点は、平凡な未達商品の処理だけなので、正答して欲しい問題です。

問題4:流動・固定分類(計算)**

2.破産更生債権等930,000は固定資産(投資その他の資産)になります。

3~6.有価証券は保有目的別分類され、本問の場合、売買目的有価証券と1年以内償還満期保有目的債券が流動資産ですね。自己株式は資本の控除ですから純資産部に表示されます。満期保有目的債券は償却原価法(定額法)が適用されています。

7.不動産の内、棚卸資産となる資産が流動資産となりますから、「販売目的」の不動産を集計します。棚卸資産の期末評価として、収益性の低下を正味売却価額との比較で判断することも時価等の資料から気づけたと思います。

問題5:現金預金(計算)***

現金預金の残高を集計するだけの問題ですが、現金預金、特に小口現金等の処理は会計士試験の受験生にとって手薄なところなので、効率よくは解けなかったかもしれません。

本問の場合、小口現金もこれを補充する当座預金も集計対象、かつ処理済みなので、実は定額の200,000を現金預金として集計するだけですみます。また、現金過不足は雑収入・雑損失として処理しますから、現金は手許有高469,000に受取小切手350,000を加算した実残を集計するだけです。ある程度解き慣れてないとこうした効率化はしにくいですね。

問題6:貸倒引当金***

一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分し、それぞれに適した貸倒引当金を設定します。財務内容評価法では担保価値を控除すること、キャッシュ・フロー見積法では当初の利率4%で将来キャッシュ・フローを割引くことに注意します。

確実に得点できる問題です。

問題7:棚卸資産の評価(理論)***

ア.企業会計原則では認められていた後入先出法ですが、利益操作性から「棚卸資産会計基準」では認められなくなりました。

イ.市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を用います。

ウ.切放法と洗替法の選択適用や、エ.特別損失とする要件も重要論点なので、正誤判断は容易だったと思います。

問題8:繰延資産(理論)***

受験生としては繰延資産は手薄な論点とは思いますが、内容は基本的な記述ばかりだったので正答できたと思います。

ア.「継続して役務の提供を受ける場合」は借入金を想定し、「対価」は支払利息を想定すれば前払利息の説明であると気づけたと思います。

エ.創立費はかつて会社法で資本金または資本準備金から減額できましたが、そのことを知らない受験生も多いと思いますのでかえって簡単に誤りとできたと思います。

問題9:連結キャッシュ・フロー計算書(理論)***

ア.コマーシャル・ペーパー、売戻し条件付き現先、公社債投信も現金同等物に含まれます。こうした現金同等物については計算問題では見かけませんが、理論の対策はしてあったと思います。

ウ.法人税等のキャッシュ・フローは活動別に課税所得を分割するのは困難なため、一括して記載します。

イ.の間接法の営業活動のキャッシュ・フローの項目は計算対策で意識しているでしょうし、エ.の利息等の表示区分は重要論点として対策していたと思います。

問題10:会計上の変更等(計算)***

遡及適用では、前期の財務諸表を変更後の会計方針(または正しい会計処理)で作成したものに精算表上で修正するので、仕訳で考えるよりも「正しくはこの金額」としてしまう方が簡単です。そのため、当期純利益への影響額も、単純に「先入先出法と総平均法の売上原価の差額」と「所有権移転FLと所有権移転外FLの減価償却費の差額」を求めるだけですみます。

備品の減価償却方法の変更は遡及適用しないので計算の必要はありません。

問題11:収益認識基準(理論)*

イ.抽象的な内容はさておき、収益認識基準によって出荷基準から検収基準となった知識があれば正誤判断できたはずです。

このイ.以外は正誤判断が難しいので、受験上パスの問題です。

問題12:有価証券(計算)***

売買目的有価証券の運用損益(期末時価評価差額と売却損益)、その他有価証券の売却損益、満期保有目的債券の償却原価法による有価証券利息を集計します。非常にシンプルな設定ですから確実に正答できます。

問題13:金融商品(理論)*

ア.記述中にもあるように劣後債権、劣後受益権等の特殊なものは、受験上パスで問題ありませんが、発生しうる損失見込額に基づいて貸倒見積額を算定するのは当然な気もしますね。

イ.計算上は、保証債務の時価評価額は手形に設定してあった貸倒引当金がスライドするため、基準上の文言と処理との間に違和感があるので誤りとしてしまったかもしれません。

ウ.計算問題では見たことがありませんが、基準の文言上は「償却原価法による債権額から貸倒引当金を控除」して社債券の評価額を算定します。これは理論対策上要注意とされているので間違えなかったと思います。

計算対策ではフォローできない点で*とします。

問題14:建設協力金(計算)*

建設協力金を貸付金処理し、償却原価法により債権額を評価する問題ですが、複利の利息2%を元本と合わせて一括返済することをどう扱うかが悩ましかったですね。単純に将来キャッシュ・フローを割引価値にして元本との差額を長期前払賃料にし、割引価値には償却原価法(利息法)を適用、長期前払賃料は指示通り定額法による期間配分、とすれば解答でした。

類題が過去問にありますが、それとは利息のキャッシュ・フローが生じるタイミングが異なるので、過去問での対策が功を奏したかは微妙なので*としています。

問題15:リース取引(理論)***

ア.リース投資資産・リース債権は、正常営業循環基準と1年基準によって流動・固定に区分表示されます。

イ.土地の場合も所有権移転条項や権利行使確実な割安購入選択権があればファイナンス・リース取引とします。土地の場合、特別仕様にはなり得ませんが、契約上の所有権移転の条件があればフルペイアウトといえるとの判断です。

ウ.転リースは計算では見かけませんが理論では割と問われてきていますから、そろそろ計算対策も必要かもしれませんね。

問題16:ストック・オプション(計算)**

親会社が子会社従業員に対して親会社のストック・オプションを付与する設定です。理論対策として、この場合も通常のストック・オプションと同様に株式報酬費用と新株予約権を計上することや、子会社側では給与手当と株式報酬戻入益を計上することは確認していたと思います。②連結上の株式報酬費用も問われましたが、①親会社の個別上の株式報酬費用の正解が5.だけなので、②が分からなくても正答できたと思います。

実はとても簡単なのですが、内容だけ確認してパスしてしまった方はもったいなかったですね。

問題17:税効果会計(計算)**

連結子会社等の留保利益の税効果、及び子会社株式の一部売却に係る税効果会計について問われました。
前者は理論テキストでしか取り扱っていないので、難しかったと思います。
ただ、後者のよく知られた論点だけで選択肢を 1. と 2. の2択にまで絞れるので、Bランクとしています。

問題18:連結財務諸表(理論)***

ア.段階取得の場合に、既取得分の株式について時価で再評価する、エ.株式の一部売却の場合には「のれん」を切り放さずに償却を継続する、というのは計算論点としてよく知られています。これで2択にまで絞れます。
また、ウ.の持分法へ移行した場合には当初から持分法を適用していたように計算し、連結除外となった場合には個別会計上の帳簿価額によって再評価する、というのも計算で取り扱う論点なので、一定レベルの受験生にとっては正誤判定が容易だったと思います。

問題19:セグメント情報等(理論)***

イ.セグメント情報の開示項目として、損益、資産・負債、差異調整は必ず確認してあると思いますが、損益計算に含まれているセグメント間の内部売上高等まで確認できていたでしょうか。

エ.開示項目に差異調整に関する事項があることからも、セグメント情報の合計額と財務諸表上の数値が一致する必要がないことが分かると思います。

ア.ウ.が正しいことが明らかなので正答は容易だったはずです。

問題20:固定資産の減損(理論)***

全て正誤判断できる記述です。確実に正答しましょう。

問題21:連結税効果会計(計算)**

持分法における税効果会計で、対象は棚卸資産の未実現利益です。
求める金額は、「繰延税金資産」ですが、持分法自体は1行連結なので、持分法適用会社(A社)に「繰延税金資産」は計上されないはずです。
従って、T社の「繰延税金資産」を計算すればよいので、T社がA社に販売した期末商品 4,800千円に含まれる未実現利益 800千円に持分比率 25%と売った側の税率30%を乗じた 60千円が繰延税金資産の金額になります。

問題22:株式交換(計算)**

株式交換によって、完全子会社化しますが、非取得企業の株式を一部所有していたので、段階取得に係る差益を計上します。テキストで学習している計算パターンですが、通常の連結会計よりも手薄にな
りがちな論点なので、短答受験1回目では「無理」、2回目では「テキストに同じパターンがあったけど、まだ無理」、3回目で「なんとなく解ける」くらいだと思って下さい。
解説を利用して考察すると、初学者の方も、「簡単そう」という印象をもつと思いますが、この問題が解けるようになるまでの道のりは意外と長いものです。

問題23~28:連結会計(総合計算問題)

在外子会社の資本連結についての出題で、2021年度の類題です。
2021年度は最終年度に追加取得、今回は最終年度に連結除外です。
ただ、連結除外の影響を受けるのは、問題28だけで、残りの問題は2021年度の問題を復習していれば正答できる内容でした。
問題24はB/S資産の集計でP社諸資産からS社株式の金額90,000千円を控除し忘れるミスがあるのと、問題28は非支配株主も含めた全体の当期純利益の計算が求められているのですが、S社当期純利益@110×100千ドルを非支配株主損益に振り替えてしまうミスがあるので、Bランクとします。そもそも問題28に手をつけない受験生も多かったと思います。残りの4問はAランクです。