令和5年度第Ⅰ回公認会計士短答式試験講評~企業法

令和5年 第Ⅰ回 公認会計士短答式試験 企業法の講評です。
企業法の想定合格ラインは65点で、ここ数回は安定して65点前後と予想しているので、「やや難しい」傾向が続いています。
財務会計論が易しく、管理会計論も「解なし」に 8 点が与えられるのであれば、高得点ということになるので、相対的には、企業法と監査論が難しかった印象です。

企業法の出題内訳は、商法2問、会社法16問、金商法2問でした。これは、いつも通りです。
会社法16問の内訳は、設立2問(2問)、株式3問(2問)、機関6問(6問)、計算等1問(2問)、持分会社1問(1問)、資金調達等1問(2問)、組織再編等2問(1問)でした。
括弧内がスタンダードな出題数です。今回は、それよりも、計算等が1問、資金調達が1問少なく、逆に、株式1問、組織再編等は1問多かったです。
試験傾向が大きく変動するとは考えにくいので、次回以降もスタンダードな問題数を念頭に置いて学習すると良いでしょう。

以下、各問毎に講評していきます。

問題1:商人***

ア.いきなり判例問題からのスタートです。正誤判定できなくても構わないのですが、銀行が営利法人なのに対し、信用金庫や信用組合は非営利法人なので、そこから、「信用金庫は商人ではない。」という結論を導き出せた受験生もいたと思います。
ア.やイ.の正誤判定ができなかったとしても、ウ.の代理商は商人ですし、エ.の小商人も商人であることは明かなので、ウ.とエ.が明らかに「誤り」ということで、選択肢を 1.に絞ることができたはずです。

問題2:匿名組合***

ア.匿名組合は、「労務出資は認められず財産出資だけ」というのはよく知られた論点です。
イ.匿名組合員は、「匿名なのに、自己の氏名を商号中に用いることを許諾できる」というのはユニークな論点なので、記憶に残っていたはずです。
ウ.は、やや細かいですが、商法から毎回2問出題されるため、ある程度時間をかけて対策している受験生にとっては、それほど難しい論点ではなさそうです。
エ.は判例なので自信をもって正誤判定はできませんが、他人から出資された財産を利用して営業している人が出資者に対し、善管注意義務を持たないはずがないので、「×」とするのが常識的な判断です。
そうすると、自信を持って判定できるのはア.とイ.で、割と安心して判定できるのがウ.とエ.ということで、Aランクの問題です。

問題3:設立***

ア.「非公開会社の設立は発起設立に限られる。」なんていう話は聞いたことがないので、当然に「誤り」と判定できます。
イ.定款に記載なき財産引受けについて、成立後の会社が追認できるかは、半世紀前からある伝統的な論文対策論点です。「定款に記載なき財産引受けは、設立中の会社の実質的権利能力・発起人の権限の範囲外であり、設立規制の潜脱防止の観点からも絶対的に無効であり、追認の余地はないとされている」というのが決まり文句ですが、短答式のみの学習段階では難しかったかも知れないです。
ウ.会社設立にあたって必然的に負担することになる公証人、取扱銀行、検査役への手数料や報酬、印紙税や登録免許税等の金額には、「客観性があり、発起人の恣意性が介入する余地がないので、変態設立事項の規制から除外されている」というのも知られた論点なので、「誤り」と判定できたはずです。
ここまでで、ア.とウ.が「誤り」だと判明するので、易しい問題です。

問題4:設立**

ア.全てについて定款で定めることとすると、設立手続きが硬直化するので、「発起人全員の同意によって32条1項各号に列挙された事項を定めることができる」とされています。一定レベル以上の受験生であれば、32条は重要条文なので、「正しい」と判定できるはずです。
イ.「発起人の報酬及びその発起人の氏名は、原始定款に記載しなければならない」というのは皆の知るとことです。そうすると、「記載しなければならない事項を創立総会の決議で定めることができる」というのは、ごく自然に「誤り」と判定できたはずです。
ここまでで、ア.○、イ.×となるので、2択にまでは絞れめす。
ウ.は、「設立時でも会社成立後でも監査役、又は監査役相当の役職にある者の解任決議は2/3以上にあたる多数が要件となる」という知識があれば正答できるのですが、難しかったかも知れません。
エ.も苦手な論点でしょうから、本問はBランクとします。

問題5:自己株式***

ア.「市場価格のある自己株式を取得する場合、他の株主は、市場での売却によって不利益を回避できるので売主追加請求権は認められない」という161条は、短答対策の基本論点なので、正答必須です。
イ.「上場会社は、」というような前提をおかれると、判定できなくても仕方がないでしょう。
ウ.「自己株式を消却しても資本金の金額が減少しない」というのは、財務会計論の知識で「×」と判定できます。
エ.「子会社の持つ親会社株式の早期解消の促進のため、取締役会設置会社では取締役会で取得事項を決定できる」というのも短答対策としては基本論点です。
そうすると、イ.は難しいですが、その他が基本論点だったので、正答に持ち込みたい問題です。

問題6:株主名簿・株主の権利**

ア.「競争関係にある事業者による株主名簿の閲覧等を拒否できる」という記述が平成26年に条文から削除されています。この点は、短答知識として頭に入っていたはずです。
イ.「同一の募集株式の発行により株式を取得した者のうち、一部の者だけに総会での議決権行使を認める」という内容は、株主平等原則に反するので「×」と判定させる問題です。が、自信の持てない問題です。
ウ.196条は、一度読んでいれば頭に残る内容ですが、Cランクの条文と想定していました。過去問集にも掲載されていない条文でした。
エ.株券提出期限前に株主となっていて、それを証明しているわけですから、「株主名簿の名簿書き換えを請求できない」とする理由はなさそうです。判例を知らなくても、正誤判定できる内容です。
簡単なのはア.だけですが、イ.ウ.エ.のいずれかの正誤判定ができれば、2択又は1択となるということで、Bランクとしておきます。

問題7:募集株式・新株予約権**

ア.公開会社の募集株式の発行は、機動的な資金調達を可能とするために、原則として、取締役会の決議事項となっています。例外として総会決議が必要になるのは、有利発行と支配株主の異動に対し1/10以上の議決権をもつ株主が反対した場合です。前者は特別決議、後者は普通決議ですが、細かすぎる論点です。
イ. 非公開会社では、既存株主の持ち株比率的利益を保護すべき要請から、募集事項の決定は、原則として「株主総会の特別決議を要する(309Ⅱ⑤)」とされているわけですから、その趣旨からすれば、特別決議を欠く募集事項の決定は、「重大な手続き違反として無効原因になる」と解するべきでしょう。
ウ.自信が持てなくても、「特定の株主以外の株主が行使することができるというのは、株主平等原則に反するはず」なので「×」と判定しておいたほうが後悔しないでしょう。
エ.「911条3項12号ヘ」っていわれても、そこまではチェックしていないでしょう。
「株式」からは2~3問出題されるので、受験生が時間をかけて学習している分野ですが、容易に正誤判定できる記述はありません。
自信は持てなくても、イ.「○」、ウ.「×」から2択に絞るところまではたどり着いて欲しいところです。Cランクに近いBランクとしておきます。

問題8:株主総会***

ア.株主総会の招集手続等に関する検査役の選任(306条1項)は基本条文の重要論点なので正答必須です。
イ.取締役の説明義務(314条)は2021年に出題されたばかりですし、それ以前の過去問でも出題されているので、皆が知っている論点です。
ウ.株主総会等の決議の取消しの訴え(831条)は、2021年、2022年Ⅰにも出題されているので、記憶に新しいところです。ただ、「株主等」に「監査役となる者」まで含まれているかはまようところです。
エ.「規定なし」は嫌な出題形式ですね。議長の権限は学習していても、その選出方法までは学習したことはないはずです。それでも問題文に「選出方法を定款で定めなければならない。」とされていて、これが定款の絶対的記載事項5つに含まれていないことは明白なので、容易に「×」と判定できる問題でした。

問題9:議案要領通知請求権**

令和元年会社法改正によって、305条に4項、5項が追加され、その4項からイ.とウ.が、5項からア.が出題されました。改正論点だけを取り上げた講義で、この4項、5項も丁寧に説明していたので、FINの受講生にはAランクの問題ですが、細かい論点なので、一般的にはB~Cランクになると思います。
エ.の議決権の1/10以上の賛成が得られなかった日から3年を経過していない場合に適用除外になるといった論点は改正前からある条文で、305条自体は重要条文なので、これは、皆が対策できていたはずです。

問題10:種類株主総会の特別決議***

株式種類別の決議要件は、短答対策上、重要論点なので、瞬殺できたはずです。
ア.譲渡制限種類株式とする場合、特殊決議が必要なので「×」です。
イ.取得条項付種類株式とする場合、全員の同意が必要なので「×」です。
この時点で、自信を持って正答できました。

問題11:株式会社の役員及び会計監査人の任期***

ア.監査等委員である取締役はその独立性と安定性の確保のため任期の短縮はできないとされます。これと混同しないよう注意が必要です。
イ.定款変更で会計参与を設置しない会社となっても会計参与の任期が満了しないのはおかしいですね。
ウ.監査役全員について一度に選任できるように他の監査役と任期満了時期をそろえられるようにしている規定なので、退任監査役の任期満了時の退任を強制するものではありません。
エ.会計監査人の再任の規定は重要論点です。

イ.エ.の正しいことが判断しやすいので正答できたと思います。

問題12:監査役設置会社が非業務執行取締役との間で締結する責任限定契約***

ア.責任限定契約により一部責任免除できるのは善意・無重過失の場合です。
イ.非業務執行取締役が業務執行取締役に就任した場合、就任前は責任発生のリスクに関与できる立場にないので、責任限定契約は将来に向かって効力を失います。
ウ.監査役等の同意は、非業務執行取締役の責任限定契約についてのみ必要とされます。
エ.自己のために会社と取引した場合は利益相反制が高いため、損害賠償責任が加重され、責任免除の規定の適用もなくなっています。

エ.以外は責任限定契約の内容として基本的なものばかりなので正答は容易だったと思います。

問題13:監査等委員会設置会社***

ア.監査等委員の独立性確保のため意見陳述が認められています。
イ.取締役の違法行為差止請求権は各監査等委員の権限として認められているものです。
ウ.ア.同様に監査等委員の独立性確保のため意見陳述が認められていますが、強制されるものではありません。。
エ.ア.同様に監査等委員の独立性確保のための規定です。

監査等委員会設置会社の趣旨、監査等委員の独立性確保の観点からの重要論点なので正答できたと思います。

問題14:資本金及び準備金***

ア.財務会計の計算知識からも誤りと即断できますね。
イ.資本金が設立登記事項になっていることは覚えていたでしょう。
ウ.無効の訴えの制度については、項目が多いので何処まで覚えられるか本人次第なところがあると思いますが、提訴期間はほぼ6ヶ月なので正しいと判断できたのではないでしょうか。
エ.準備金の減少のついて株主保護の観点から株主総会決議が必要なことは押さえていても、増加の場合までは確認できていなかったかも知れませんね。

エ.以外は正誤判断できそうなので***です。

問題15:持分会社の計算*

ア.イ.持分会社では、株式会社との相違や各会社間の異同にフォーカスしがちなので、持分会社共通の損益分配については盲点でした。
ウ.間接有限責任社員のみからなる合同会社では、会社財産だけがよりどころとなる会社債権者保護のため計算書類の適切な開示が要求されていますが、合資会社は直接無限責任社員がいるためこうした保護は不要となります。
エ.ウ.でも指摘したように、会社債権者保護の必要性のある合同会社は利益の配当に制限があります。

エ.以外は正誤判断が難しいので*としました。

問題16:社債*

すべて細かすぎる内容なので受験上パスの問題です。

問題17:合併,会社分割及び株式交付並びにその登記**

ア.効力発生日は、吸収型再編が契約で定めた日、新設型再編が設立会社成立日と覚えれば判断しやすいですね。
イ.株式交付はR2改正論点ですから、細かいところまでは確認できてないと思います。
ウ.吸収合併消滅会社の権利義務は包括承継されてしまうので、第三者保護のため登記後でなければ対抗できないとされています。
エ.吸収分割の場合、吸収分割承継会社に移転する不動産と移転しない不動産があるため、第三者への対抗には不動産の移転登記が必要とされています。ウ.とエ.を対比させているのだと思いますが、細かいですね。

ア.ウ.が正しいことは何とか判断できたのではないでしょうか。

問題18:吸収合併*

イ.消滅会社が公開会社であり、かつ、消滅会社の株主に合併対価として譲渡制限株式等を交付する場合は、消滅会社の株主総会特殊決議が必要ですが、交付自体は可能です。
ウ.消滅会社の新株予約権者は、存続会社の新株予約権者になることはできても株主にはなれません。

イ.以外は細かい内容なので受験上パスでも良いと思います。

問題19:金融商品取引法上の金融指標*

受験上パスの問題です。

問題20:親会社等状況報告書**

ア.イ.エ.各報告書の提出(ア.イ.)と公衆縦覧(エ.)については整理して覚えましょう。ただし、子会社でなく親会社の事業年度毎というのはちょっと意地悪かも知れませんね。
ウ.公衆縦覧の制度があるので、写しの提出は子会社に対して行えば十分とされています。

親会社等状況報告書自体はあまり詳しく学習してなかったと思いますが、問われた内容自体は基本的なものなので頑張って正答したいですね。

以上です。