令和5年度第Ⅱ回公認会計士短答式試験講評~管理会計論
令和5年第Ⅱ回 管理会計論 短答式本試験の講評です。
このところ当たり前のように繰り返されていた作問ミスもなく、いつも通り16問が出題され、理論8問、計算8問という内訳でした。
理論は簡単だったので、できれば全問正解してほしいですが、パーフェクトは無理でも、8問中7問は正解しておきたいレベルでした。
理論を7問正解して、計算は難しかった4問以外の4問を正解しておけば、合計57点になります。
これでは合格点に届かないので、理論をノーミスで全問正解するか、難しい計算4問中1問は正解しておく必要があります。
難しい問題まで全問正答しなければ合格できない試験ではありませんが、難しい問題をすべて捨てると合格ラインには届かない、というのが今回の試験でした。
日頃から難しい問題にもトライするように心がけてください。
ここ最近では、2022年第1回が難しく、2022年第2回・2023年第1回はやや簡単でした。
今回の2023年第2回は、やや難しかったので、単体での合格ボーダーは 64~66点と予想しています。
詳しい解答・解説はこちらからどうぞ。
令和5年第Ⅱ回公認会計士短答式~管理会計論
問題1:原価計算の基礎知識***(理論)
BランクやCランクとしている専門学校が多かった問題です。
ア.は、実働時間に間接作業時間が含まれることから、明らかに「誤り」です。
エ.については、原価計算担当者は原価差異を計算・把握し、購買担当者や製造現場の責任者にその情報を提供しているはずです。その情報をもとに、購買担当者は購入先や1回あたりの購入量を管理し、製造現場の責任者は物量管理を行っているはずです。特に難しい論点ではありません。
問題2:費目別計算*(計算)
一般的には、2つの支払賃率で賃金支払額を計算し、加重平均した1つの消費賃率で製品原価を算定します。これに対し、本問は、製品原価計算も2つの消費賃率で計算します。また、直接作業時間も差引計算で算定する必要がありますし、最も難しい製造間接費の金額が判明しないと、選択肢は3つにまでしか絞れません。これらを総合的に勘案して、Cランクとしています。2つの消費賃率で計算する方法も含め、いろいろなパターンを講義では取り扱っていますが、それでも、正答率は低いだろうと思います。
問題3:原価計算基準***~32.33(理論)
ウ. の補助部門の順位付けについてですが、通説は、① 用役提供先の補助部門数、② ①が同数の場合は補助部門費の金額で判定します。ただし、③「相互の配賦額を計算して多い方を優先順位とする。」という指示が出ればそれに従う、というのが一般的な受験生の常識です。
本問の記述では、②と③が並列になっていましたが、試験委員は「自分の採用している方法が常識だ」と考える傾向にあるので、そういった試験委員の習性も踏まえて「正しい」と判断できるようになってください。
問題4:個別原価計算***~仕損費の直接経費処理(計算)
補修指図書、全部代品指図書(異常仕損)、軽微な仕損などの論点が出題されました。
個別原価計算は、パズル的な時間のかかる推定問題が何回か出題されていますが、その計算パターンでない限り、容易な問題が多く、今回も短時間で正答できる問題でした。
問題5:工程別組別総合原価計算***(計算)
難しい論点は含まれていませんが、工程別の組別なので、少し時間がかかります。丁寧に解いて正答が必須となります。
問題6:原価計算基準***~19~24.31(理論)
原価計算基準で最も頻繁に出題されるのが「第4節 原価の製品別計算」です。正答必須です。
問題7:標準原価計算***(理論)
インプット法については、「標準材料消費量だけ材料を出庫し、足りなければ超過材料出庫票、余れば残余材料返還票を作成し、出庫日に消費量差異を把握する。」といったイメージを持っておけばよいです。原価計算期末以降にならないと材料の実際価格が判明しないこともあるので、「投入段階ですべての差異を把握できる。」とはいえません。
イ. の加重平均価格を用いた配合差異・歩留差異の分析は、ほとんど出題実績がないので、学習対象外としている受験生もいるかもしれません。ただ、ウ. の原価低減の定義と、エ. の正常原価の定義が「誤り」なのは明らかなので、本問も正答必須です。
問題8:標準原価計算**~度外視法と非度外視法のSCカード(計算)
「原料aの96%が製品Aとなり,… 」ということは、投入量 100%に対し、4%の減損が生じ、96%が完成します。従って、完成量に対する標準減損発生率は「4/96」です。
ここさえクリアできれば、あとは定型的な解法に乗せて正解にたどり着ける問題です。
これくらいのレベルの問題を確実に正答できるかが合否を分けます。専門学校の講師としては、正答してほしい問題です。
問題9:管理会計の基礎知識***(理論)
管理会計の基礎知識については、毎回出題されますが、抽象的な内容も含まれ、50%程度の正答率を想定しておくべき分野です。
ただし、本問は、高い正答率が期待できる難易度です。
ア. は、個別計画を「個々のプロジェクトに関する計画」と読み替えれば、個別計画に情報提供を行うのが意思決定会計で、個別計画の策定を受けて、期間計画が策定されていくというプロセスを思い浮かべつつ、「誤り」と判定できたはずです。
ウ. 企業戦略や事業戦略というのは、字面から内容を思い出すよりも、それぞれの戦略の具体例を押さえておけばイメージしやすいです。解説に示した具体例を思い出せるようにしておきましょう。
問題10:財務情報分析・CVP分析***(計算)
財務情報分析は難しい過去問もありますが、本問は、イ. とウ. の記述が「誤り」であることが明らかなので、正答必須の問題です。
イ. は、「損益分岐点比率」を「安全余裕率」とセットで覚えていれば、簡単に「誤り」と判定できるはずです。
ウ. については、下書き用紙に「固定長期適合率」と「固定比率」の分子分母を書いて考えれば、これも「誤り」と判定できます。
問題11:資金管理*(計算)
資金管理の計算は時間のかかる過去問が多いため、後回しにするのが賢明な分野です。
難しそうな問題を飛ばしつつ、とりあえず問題16まで一巡させて、手つかずの問題が問題11(資金管理)、問題14(業務的意思決定)、問題15(設備投資)の3問、残り時間は15分から25分、といった状況になった受験生が多かったはずです。
ここで、「難しそうで手つかずとなった計算3問のうち、1問正解で合格ライン到達、2問正解で貯金」と考えて頑張るほかありません。
どの順番で解くかは、自分の得意、苦手、問題量などで決めればよいので、私であれば、問題15(設備投資)→問題14(業務的意思決定)→問題11(資金管理)の順で解いたと思います。
ただ、結果論にはなりますが、問題15(設備投資)はとても時間がかかり、問題11(資金管理)はさほど難しくなかったので、問題11(資金管理)から解き始めた方がよい結果が得られた気がします。
というのは、本問の穴埋めは比較的簡単でした。そして、穴さえ埋まれば、問題文の指示に従って、売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、仕入債務回転期間は比較的易しい計算です。あとは今や誰でも知っているキャッシュ・コンバージョン・サイクルの計算公式に乗せれば正答ということになります。案外、正答率は高かったかもしれません。
問題12:CVP分析***(計算)
CVP分析の問題で、販売単価や販売量が与えられていない場合は、自分で販売単価や販売量を設定すると、容易に解答できます。例えば、本問の売上高 500,000千円を「販売価格 @500千円×販売数量 1,000個」としてあげると、解きやすくなります。出題実績の多いパターンなので、正答必須です。
問題13:原価管理の基礎知識***(理論)
標準原価管理、原価企画に関する基本的な問題で、4つの記述ともに、迷うことなく正誤判定できるレベルです。
問題14:差額原価収益分析*(計算)
アについては、生産量増加による単位原価の低下を数式化すると、すぐに算定できるので、2択にまでは絞ることができます。イについても、単位あたり変動製造原価を@Vとして、解説にあるようなP/Lのボックス図を作成すれば、「受注によって売上総利益率が1.04%低下する状況」を数式化できますが、算数が苦手な受験生にはつらい問題でした。
こういう問題が解けなくても合格できる試験なので、算数が苦手な受験生は、出題されたら切り捨てて、他の問題にその時間を費やしてください。
短答式は問題数が多いので、きっぱりと捨てる論点を持っている受験生の方がよい結果が得られたりします。苦手分野克服よりも、得意分野の拡張を意識しましょう。
問題15:設備投資の経済計算*(計算)
2019年第Ⅰ回とほとんど同じ問題です。たまたま、短答答練で出題していましたが、初見だとCランク、1回解いたことがあってもBランクに相当する問題です。
日頃から「過去問を繰り返し解くトレーニング」をしている受験生の努力が報われるので、専門学校の講師としては、こういった「良問のリメイクによる出題」は大歓迎です。
問題16:事業部制組織の管理会計***(理論)
事業部制組織の管理会計については、理論で出題されることが多く、理論については過去問の類題ということになります。正答しておきたい問題です。