第164回 日商1級 講評 ~ 工業簿記・原価計算

工業簿記は「理論の穴埋め」全部原価計算VS直接原価計算」、原価計算は「記述の正誤判定」「総合原価計算」でした。

以下、個別に講評していきます。

工業簿記

第1問は、語句の穴埋め問題、第2問は全部原価計算と直接原価計算の比較問題でした。完答できた受験生も多かったと思います。

第1問:理論の穴埋め

(1)~(3)は、元帳名の穴埋めだったので、最初、戸惑ったかもしれません。受験上は、元帳は「T勘定と同じ。」と考えればよいので、T勘定の勘定科目名を解答するだけです。未完成のものは「仕掛品」勘定に記帳しますが、工業簿記ではこれを「製造」勘定と呼ぶ場合がある、というのは勘定連絡図も含め、講義で取り扱っています。完成品は「製品」勘定、材料は「材料」勘定で処理されます。
(4)は語群が与えられていなければつらかったかもしれないですが、材料の実際消費量の把握方法としては、継続記録法と棚卸計算法しかないことからすれば、「継続記録法」が選択できます。
(5)加工時間と段取時間の合計が「直接作業時間」です。
(6)直接工の消費賃率に段取時間を乗じた金額は「直接労務費」とされます。

第2問:業務的意思決定

問1(全部原価計算の第1期の営業利益)
全部標準原価計算なので、まず、単位あたり全部原価と、操業度差異を算出しておきます。
単位あたり固定製造原価= 12,000,000円÷24,000h×2h = 固定費率@500円/h×2h/個=@1,000円/個
∴単位あたり全部原価=変動費@1,500+固定費@1,000=@2,500円/個
操業度差異=固定費率@500円/h×(実際作業時間*@2h×12,000個-基準操業度24,000h)= 0円
*操業度差異以外の差異は生じないので、AH=SHとなることに留意してください。
よって、営業利益=(@4,000-@2,500)×販売量10,000個-操業度差異0円-販管費3,200,000円= 11,800,000円

問2(直接原価計算の第1期の営業利益)
営業利益=(@4,000-@1,500)×販売量10,000個-固定製造原価12,000,000円-販管費3,200,000円= 9,800,000円
全部原価計算において操業度差異の全額を売上原価に賦課している場合は、全部の営業利益-直接の営業利益=期末製品の固定費-期首製品の固定費が成立するので、確認しておきましょう。
問1全部の営業利益11,800,000円-問2直接の営業利益9,800,000円=末固@1,000円/個×2,000個-首固@1,000円/個×0個

問3(第2期以降の営業利益に関する穴埋め)
(1) 第2期は、期首在庫2,000個、期末在庫3,000個なので、在庫が(ア 1,000個)増加しています。単位あたり固定製造原価は(イ 1,000円/個)なので、全部と直接の営業利益の差は、以下のように計算できます。
全部の営業利益(第2期)-直接の営業利益(第2期)=末固@1,000円/個×3,000個-首固@1,000円/個×2,000個= 1,000,000円
よって、全部の営業利益の方が(ウ 1,000,000円)だけ大きいことになります。

(2) 第4期は、期首在庫3,000個、期末在庫2,500個なので、在庫が(オ 500個)減少しています。単位あたり固定製造原価は1,000円/個)なので、全部と直接の営業利益の差は、以下のように計算できます。
全部の営業利益(第4期)-直接の営業利益(第4期)=末固@1,000円/個×2,500個-首固@1,000円/個×3,000個=△500,000円
よって、全部の営業利益の方が(カ 500,000円)だけ小さいことになります。

(3) 第3期の生産量は10,000個なので、全部原価計算での操業度差異は、@500円/h×(実際操業度10,000個×2h-基準操業度24,000h)=△2,000,000円(不利差異)です。もし、第3期の生産量が12,000個だったとすれば、全部原価計算での操業度差異は、@500円/h×(実際操業度12,000個×2h-基準操業度24,000h)=0円となります。生産量の増加によって、不利な(コ 操業度差異)2,000,000円を計上しなくて済む分、営業利益は(ク 2,000,000円)増加します

(4) 以上考察したように、全部標準原価計算では、操業度差異が生産量の影響を受けるため、操業度差異を売上原価に賦課すると、営業利益も生産量の影響を受けることになります。これに対して、(サ 直接原価計算)の営業利益は、@貢献利益×販売量-固定製造原価-営業費で計算されるため、生産量の影響を受けることはありません。

 

原価計算

第1問「記述の正誤判定」第2問「総合原価計算」でした。
第2問の計算で確実に得点できていれば合格点という内容です。第2問は、実力差が反映される良問です。

第1問:記述の正誤判定

① 品質原価 = 品質適合コスト(予防原価+評価原価) + 品質不適合コスト(内部失敗原価+外部失敗原価)
この品質原価を「品質保証活動費」とか「製品品質関係費」といった名称で呼ぶのは一般的ではないので、受験生にとっては正誤判定不能な問題です。
② 仕損費は不良品を販売する前段階で発生する内部失敗原価に分類されます。これを外部失敗原価としているので、明らかに「誤り」です。
③ 「顧客が要求する製品の品質」と「実際に設計された製品の品質」との差(設計品質)を管理する活動は、伝統的な品質原価計算では、管理の枠外と考えられています。従って、「誤り」です。
伝統的な品質原価計算は、「設計された製品の品質」と「実際に生産された製品の品質」との差(適合品質)を管理対象としています。
④ 正しいです。
⑤ 例えば、顧客のランニングコストを軽減するために、自動車をハイブリッド化すると製造コストが増加します。このようなトレードオフ関係が生じる場合があるので、「誤り」です。

第2問:総合原価計算

問1(正常仕損費、異常仕損費)
先入先出法、非度外視法、異常仕損品にも正常仕損費を追加配賦する、という計算条件です。
正常仕損品に集計される材料費4,800円+加工費720円+廃棄費用556円で、正常仕損費は6,076円です。
異常仕損品に集計される材料費3,200円+加工費1,920円+廃棄費用324円+正常仕損費追加配賦額56円で、異常仕損費5,500円です。

問2(異常仕損費の会計処理)
原価は製造原価+営業費です。異常仕損費は非原価なので、製造原価、営業費以外ということです。本問では、③営業外費用か、④特別損失のどちらかになります。
特別損失は、臨時・偶発的な原因によるもの(ex.火災・風水害)を計上しますので、今回のような「機械の整備不良による故障」で、金額も5,500円ということであれば、「営業外費用」と判断するのが一般的です。

問3(完成品原価、期末仕掛品原価)
期末仕掛品の材料費8,000円+加工費は3,000円+正常仕損費追加配賦額140円で、期末仕掛品原価は11,140円です。
完成品原価は、仕掛品勘定の貸借差額で計算します。
仕掛品勘定の借方合計は、期首仕掛品14,400円+材料費352,000円+加工費260,640円+廃棄費用556円+324円が集計され、 627,920円です。
仕掛品勘定の貸方には異常仕損費5,500円と期末仕掛品11,140円が計上されているので、完成品原価は611,280円(=627,920-5,500-11,140)となります。

問4(売上総利益)
売上高@230×4,300kg-(期首製品27,720+完成品原価611,280円)÷(200kg+4,300kg)×4,300kg= 378,400