令和5年度第Ⅱ回公認会計士短答式試験講評~監査論
今回の監査論は、制度論中心の前半と実施論・報告論等の後半との難易度の差が非常に大きかったようです。例年、前半が難しい傾向にあるのでメンタル的に後半から解き始める方がお薦めなのですが、今回はそれが顕著でした。前半には受験上パスすべき問題が4問/10問あるのに対し、後半は必ず正答したい問題が9問/10問でした。
また、久しく2つの正しい記述を選択する形式ばかり出題されてきましたが、若干今回は異なる選択を要求する問題がありました。とはいえ、これが難易度に影響することもなく、受験生としても特に問題はなかったと思います。
以下、個別に講評していきます。解答・解説はこちらをご覧ください。
問題1:公認会計士監査**
ア.イ.については、総論らしい内容で「根拠がここに書かれている」という訳ではないので、自信を持って正しいとはできなかったかもしれないですね。
ウ.独立性関連規定は対策してあったと思います。
エ.は内部統制監査についての3年の猶予と新規上場時の実施をうまく結びつけられたかですが、これは案外難しいのではないかと思いました。
迷いつつも、ア.イ.の正しいことを判断できれば正答できました。
問題2:虚偽表示***
具体的な会計事象とその会計処理等に対して、虚偽表示に該当するかを問うという事例問題でした。
ア.監査報告書日は、監査人の責任の時間的限度を意味しますから、監査報告書日後に生じた事象は監査対象の財務諸表の虚偽表示にも該当しません。ただし、事後判明事実が頭をよぎって迷った方もいるかもしれませんね。
イ.「子会社株式の評価が過大」とはっきり記述されています。会計上の見積りが合理的でないことを原因として資産の評価の妥当性を欠くという虚偽表示です。
ウ.こちらも「必要な開示が漏れていた」とはっきり記述されています。
エ.被監査会社が必要と認めて追加的な注記を行ったとしても虚偽表示にはなりません。「適正表示の枠組み」の知識も助けになったはずです。
問題3:精神的独立性*
精神的独立性自体が「監査人の心の状態」という曖昧な内容であることと、「欠如が直接的に認められる状況」の「直接的」であるかどうかの判断が難しかったと思います。
監査人の判断が他からの影響を受けて公正性を欠いていないか、主体論における他の人的条件(外観的独立性や正当な注意義務、能力条件)に当てはまらないか、で考えてみると良いと思います。
問題4:公認会計法*
どの記述も細かい内容で正誤判断が難しく、受験上パスで良い問題です。
問題5:一時会計監査人*
一時会計監査人に限定した内容ですし、企業法の知識も助けにはならないであろう問題です。パスして問題なしです。
問題6:監査事務所の品質管理***
品質管理基準が改訂されましたが、本問には特に影響はなかったようです。
ア.品質管理システムは監査事務所の状況によって変化します。
イ.品質管理の内容ではなく、基準間の関係性の問題であり、正誤判断は難しかったと思います。
ウ.審査の省略や簡素化の論点は品質管理の頻出論点として対策していたはずです。金商法に基づく監査が社会的影響が小さく、監査報告の利用者が限定されることはないだろう、と考えてもいいと思います。
エ.「不正リスク対応基準」の「示唆する状況」と「疑義があると判断」は、頻出論点として整理しておくべき内容です。本問も「疑義があると判断」された場合の規定を「示唆する状況」に置き換えています。
問題7:監査業務の品質管理*
イ.独立性に関する確認書の入手についての確認は、監査責任者でなく監査事務所が行います。しかし監査責任者も、監査事務所の方針・手続き違反がないか注意を払うべきとされており、正誤判断は難しいでしょう。
ウ.監査責任者はすべての監査調書を査閲する必要はありません。監査チームの編成は階層的であり、他の監査チームメンバーによる査閲が段階的に行われているはずだからです。
ア.エ.の正誤判断は難しく、正答は難しいでしょう。
問題8:内部統制の不備の報告***
ア.内部統制の整備・運用責任があり、内部統制を無効化できる経営者の関与の可能性を考えれば、内部統制の不備の報告は経営者のみに行うとは限らないと気づけたと思います。
イ.内部統制の重要な不備の報告は、証拠が残る書面または電磁的記録による必要があります。
ウ.経営者や監査役等に内部統制の重要な不備を説明する趣旨を考えれば、影響額や分類・集計の要否についても判断できると思います。
エ.経営者の交代の可能性から再度の報告の適切性が認められます。
要対策論点ばかりですから正答すべき問題でした。
問題9:内部統制監査***
ア.ダイレクト・レポーティングの不採用は頻出論点です。
イ.内部統制監査はあくまでも情報監査ですから、監査役等の業務監査の中身の検討は求められません。
ウ.内部統制監査と財務諸表監査の関係も頻出論点です。
エ.開示すべき重要な不備の是正措置も頻出論点です。内部統制の有効性の評価時点は期末ですから、期末日までに是正されていれば内部統制に不備はなく有効と評価できます。
問題10:保証業務**
保証業務は抽象的内容が多く、正誤判断も難しいことが多いのですが、今回は正答できそうです。
ア.合理的保証業務(監査)の方が、限定的保証業務(レビュー)よりも保証業務リスク(監査リスク)が低くなるはずです。このように、監査やレビューといった分かりやすい内容に読み替えて正誤判断しましょう。
イ.限定的保証業務ですからレビューに読み替えて正しいと判断します。
ウ.「合意された手続き」は監査でもレビューでもない、と気づけば誤りと判断できます。
エ.この記述だけは正誤判断が難しいですが、アイウの正誤判断は容易ですから正答できたと思います。
問題11:守秘義務***
ア.守秘義務は公認会計法で規定されており、守秘義務違反は法令違反であり、刑事罰の対象です。
イ.守秘義務の及ぶ範囲は頻出論点です。「業務上知り得た秘密」の業務には非監査証明業務も含まれます。
ウ.監査人の交代に際して、監査人予定者の守秘義務は監査契約の締結如何によりません。
エ.守秘義務は公認会計士だけでなく、特定社員にも課されています。
問題12:職業的懐疑心***
アイウ.は繰り返し出題されている超頻出論点です。正誤判断は容易なはずです。
エ.職業的懐疑心が正当な注意義務に含まれるものですから、正当な注意同様に職業的懐疑心の保持の如何は、監査人がどのように監査手続きを実施したかで判断されます。
問題13:監査計画***
ア.「監査の基本的な方針」と「詳細な監査計画」それぞれの内容も頻出論点です。整理して覚えておきましょう。
イ.特定の財務諸表項目にも重要性の基準値は設定されますね。
ウ.「財務諸表項目≒アサーション」と考えて問題ありません。監査要点は「財務諸表項目≒アサーション」に対して設定されます。
エ.H14年監査基準改訂前文の内容です。H14年改訂前文は頻出論点が多いので、是非通読しておいてください。
問題14:不正による重要な虚偽表示リスク***
ア.付録1の不正リスク要因をすべて覚えておくことは、受験上必要ではありませんが、経営者や営業担当者が財務数値目標の達成にプレッシャーを受けていることが不正リスク要因になることは想像がつくと思います。
イ.監査計画に企業が想定しない要素を組み込むことは、隠蔽等を伴いがちな不正への対応として有効です。
ウ.従業員が関与する不正について経営者はリスク管理を行っているはずであり、経営者に対して質問することが求められます。
エ.特別な検討を必要とするリスクについて再定義されましたが、依然として不正による重要な虚偽表示リスクは特別な検討を必要とするリスクです。
問題15:リスク評価手続***
アイウ.監査リスクと発見リスク、再定義された特別な検討を必要とするリスク、関連するアサーションの定義を正確に覚えている必要がありました。
エ.過年度に入手した情報は状況の変化の可能性を考えて、監査証拠としての適合性・信頼性の評価が求められます。
問題16:リスク対応手続***
ア.監査手続の種類によって立証できる監査要点が異なるので、リスク対応手続きとして監査手続きの種類が最も重要とされます。
イ.「内部統制に依拠しない=実証手続きのみを実施する」と読み替えます。
ウ.「予期しなかった虚偽表示=不正による虚偽表示」とは限りません。予期しなかったということは、監査計画の策定上考慮されていなかったということなので、監査計画の修正が検討されます。
エ.「重要な取引種類・勘定残高・注記事項」と「重要性のある取引種類・勘定残高・注記事項」は異なるものです。整理しておきましょう。
問題17:監査の過程で識別した虚偽表示の評価***
ア.「明らかに僅少」は些細なために監査上パスしても良い虚偽表示の金額ですから、何らかの疑義があればパスすべきでないはずです。
イ.未発見の虚偽表示が存在する可能性から、集計した虚偽表示の合計が重要性の基準値に近似した時は、重要な虚偽表示が存在する可能性が高まっているといえます。このため、監査計画の修正が検討されます。
ウ.前年度の残高が当年度に繰り越されてきますから、過年度の未修正の虚偽表示が当年度に与える影響の考慮が必要とされます。
エ.監督責任を有する監査役等と監査報告日前にコミュニケーションすることで、未修正の虚偽表示の修正を促す趣旨です。
問題18:グループ監査***
ア.グループ監査といえば連結財務諸表の監査を想定しがちですが、本支店会計による個別財務諸表の監査も含みます。
イ.構成単位の監査人が同じネットワークに属するか否かは、独立性の検討の要否において問題になりません。
ウ.構成単位の監査人の作業の結果を利用する場合でも、監査報告書に責任を負うのはグループ監査チームの監査人ですから、構成単位の監査人の作業を評価する必要があります。
エ.例えば、連結財務諸表は個別財務諸表を合算して作成するので、構成単位の重要性の基準値はグループ財務諸表全体の重要性の基準値より低く設定されます。
問題19:監査報告書**
ア.特別目的の財務諸表に対する監査報告書にもKAMが記載されることがあります。細かい内容です。
イ.KAMの区分は監査報告書に必ず用意されます。
ウ.継続企業を前提とすることが適切ではない被監査会社が継続企業を前提として作成した財務諸表には不適正意見を表明せざるを得ません。
エ.財務諸表に継続企業の前提に関する注記をする必要がなくとも、経営者にはそれを評価・必要な開示をする責任がある旨が監査報告書に記載されます。
問題20:監査報告***
ア.KAMの決定プロセスは頻出論点です。監査役等と協議した事項→特に注意を払った事項→特に重要と判断した事項と絞り込んでいきます。
イ.これは細かいのでパスで問題なしです。アウエの正誤判断で正答できます。
ウ.これも頻出論点です。「将来の帰結が予測し得ない」「影響が複合的かつ多岐にわたる」がキーワードです。
エ.特別の利用目的の財務諸表の監査報告書の追記事項(強調事項)も頻出論点です。①作成目的と利用者の範囲、②他の目的に適合しない可能性、③監査報告書の配布・利用の制限の可能性、の3つです。
以上です。