令和6年第Ⅰ回公認会計士試験短答式試験講評~監査論
令和6年第Ⅰ回 監査論 短答式本試験の講評です。
監査審査会の発表によると今回の合格ラインは 75%でした。監査論の平均点は59.1%で、全体の平均点50.5%を大きく上回っていて4科目の中でも最も高い水準です。監査論単体での合格ラインも、81%程度を想定しなければなりませんでした。
詳しい解答・解説はこちらからどうぞ。
令和6年第Ⅰ回公認会計士短答式~監査論
2024年1月17日にYou Tubeチャンネルを開設しました。解説動画などをアップしていきます。
YouTubeチャンネル: 資格試験のFIN
FINのホームページを移行中です。講座のお申し込みは、どちらのホームページからでも可能です。
現行のホームページ
新しいホームページ
問題1:財務諸表監査***
ア.ご存じのように、財務諸表監査の目的は適正表示=全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないがどうか、についての意見表明です。「重要な虚偽表示」が「財務諸表利用者の経済的な意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる虚偽表示」に置き換わっているだけです。イ.試査採用の理由は、論文対策としても覚えておく価値のある内容です。ウ.財務諸表監査の保証水準は、「絶対的な保証」ではなく「合理的な保証」であるため誤りです。エ.「監査基準を理解し実施するために参考となる文書」とは、実務ガイダンス、周知文書、研究文書を指し、これは監査実務指針に含まれません。
問題2:公認会計士制度の歴史的経緯*
ウ.監査法人の特定社員制度、エ.内部統制監査制度、は比較的新しい内容ですが、ア.イ.が非常に古い内容であるため受験上スルーで良い問題だと思います。
問題3:公認会計士法上の独立性関連規定***
ア.パートナーローテーション制度、イ.非監査証明業務との同時提供の禁止規定、ウ.就職制限、エ.共同監査の義務化、いずれも頻出の独立性関連規定として必ず確認していると思います。
問題4:金融商品取引法***
ア.金商法上の罰則としては、行政処分の方を詳しく学習するとは思いますが、「刑事罰もある」とだけは覚えておきましょう。イ.挙証責任の転換、ウ.監査証明の不受理、エ.法令違反等事実の申し出、いずれも頻出論点です。
問題5:会計監査人***
ア.会計監査人の再任、イ.監査役監査と監査対象の違い、ウ.権限(子会社調査権)、いずれも頻出論点です。エ.会計監査の流れについては、時系列で確認すべき論点ではありますが、見落としがちな点かなとは思いました。
問題6:内部統制監査制度***
ア.ダイレクト・レポーティングの不採用、イ.財務諸表監査との一体的実施、エ.経営者の評価の利用、いずれも頻出論点です。ウ.内部監査人の業務の利用は財務諸表監査と同様なので、内部統制監査の論点としては注目していなかったかも知れませんね。
問題7:保証業務**
「保証業務の概念的枠組み」は、抽象的すぎるので財務諸表監査に読み替えて正誤判断するのがお約束です。ア.以外はこの手法で対応できたと思います。監査基準や監基報315の改訂で、アサーションレベルの重要な虚偽表示リスクは、固有リスクと統制リスクを分けて評価するとされましたが、財務諸表全体レベルでは重要な虚偽表示リスクとして評価しますし、「財務諸表監査以外の保証業務も」とされていますから「固有リスクと統制リスクを結合して評価することは想定されていない」は誤りとなります。改訂に引きづられないようにしたいですが、間違えても仕方ないと思います。
難しいことの多い保証業務ですが、今回は***よりの**だと思います。
問題8:監査人の交代**
ア.「監査報告書を提出する前に監査契約を解除した者」は監査期間中に監査人が交代した場合が想定されてます。イ.監査人予定者の書面による通知、ウ.引継事項、は重要論点として確認できていたと思います。エ.「監査役等に提出した監査実施結果を記載した報告書」が何を指しているかが分かりにくい気がしますが、監査の実施において、未修正の虚偽表示の内容・金額の一覧や内部統制の不備の一覧を想定してください。
問題9:監査事務所の品質管理***
「品質管理基準」の改訂点を中心に出題されています。ア.リスク・アプローチの採用、イ.品質管理責任者の明確化等、ウ.外部の業務提供者の利用、エ.品質管理システムの不備の評価、です。変更点ではなく明確化された点がほとんどなので、間違えにくいとは思います。
問題10:審査*
イ.監査報告書の日付は審査完了日以降、という頻出論点以外は、斜め上から問われた記述だったので*としました。
問題11:監査人の資質***
ア.CPDは今年度に開始されたばかりの制度ですが、イ.ITの基本的知識、ウ.経営者の誠実性の想定、エ.精神的独立性の位置づけ、はいずれも頻出論点です。
問題12:職業的専門家としての正当な注意**
ア.正当な注意義務は監査基準の設定当初から規定されています。イ.正当な注意の水準の具体的内容を示しているのが監査の基準であること、エ.責任(過失)の有無の判断基準であることは頻出論点です。ウ.監査事務所外部の審査担当者にも正当な注意義務が求まられるかについては、求められないはずがない、と判断していただきたいです。
これも、***よりの**だと思います。
問題13:監査役等とのコミュニケーション***
ア.監査期間中に直面した状況、イ.監査報告書の草案、は監査役等とのコミュニケーション事項の代表です。ウ.は経営者との事前の協議は設けない方が良い場面があるため、正誤判断が難しかったと思います。エ.は質問と行動させようとしているのが明らかなので誤りと気づけたはずです。
問題14:法令の検討***
イ.エ.は「財務諸表作成に直接影響を及ぼす法令」と「事業運営、事業継続能力、重大な罰則回避のために遵守する他の法令」の監査上の取扱いの違いについての記述で、典型論点です。ア.経営者確認書の記載事項は、記載例に目を通しておくことをお薦めします。ウ.監査調書の記載事項は監基報毎に列記されていることも多いのですが、監査の過程を査閲者や審査担当者が知るためにはこれくらいは必要だろう、という感覚があれば一つ一つ覚える必要はないと思います。
問題15:リスク対応手続き***
ア.財務諸表全体レベルのリスクがアサーションレベルのリスクに影響しリスク対応手続きに影響することも、反対に、アサーションレベルのリスク対応手続きのなかで、財務諸表全体レベルのりすくが識別されることもあります。イ.監査アプローチの選択について、運用評価手続と実証手続は組み合わせて、あるいは、それぞれ単独で実施されることがあります。ウ.実証手続きによって虚偽表示を発見したかいなかと、内部統制が有効か否か、不備があるか否かは直接には結びつきません。エ.特別な検討を必要とするリスクに対するリスク対応手続では、①内部統制に依拠する場合は当年度に実施し、過年度に実施した運用評価手続きの結果は利用できない、②リスクに個別に対応する実証手続を実施、かつ、実証手続のみの実施では詳細テストを含める、の2点を覚えておきます。
問題16:監査証拠***
ア.確認による立証は、実在性や期間配分の適切性のアサーションに適しますが、評価の妥当性や表示の妥当性には適合しません。イ.実地棚卸の立会で実施される手続きのうち実地棚卸手続の遵守状況の観察は内部統制の整備状況の評価を目的とします。ウ.アサーションと監査手続を実施する母集団、の適合性についての記述です。網羅性=帳簿に全て計上されているか、計上漏れがないかの検討であり、帳簿に計上されていない買掛金は帳簿からは発見できないので帳簿計上額を検討しても見つけられません。エ.質問の回答には、必ず裏付けが不可欠です。
問題17:会計上の見積りの監査***
ア.会計上の見積りに係る特別な検討を必要とするリスクについても、他の重要な虚偽表示リスクと同様に「固有リスクの重要度が最も高い領域に存在」するかどうかで判断します。イ.監査人の許容範囲は、監査証拠に裏付けられた虚偽表示にならない範囲、虚偽表示の原因にならない範囲のことです。ウ.遡及的な検討の結果、過年度の認識額=会計上の見積額と、確定額に差異があった場合でも、過年度の財務諸表作成時に入手可能な情報、入手すべきと期待される情報に基づくなら虚偽表示だったとはいえませんが、そうでないならば、虚偽表示であったと判明することもあります。エ.会計上の見積りは経営者の偏向の影響を受けやすいため、監査調書の必須の記載事項になっています。
問題18:監査報告書***
ア.「独立監査人の監査報告書」この表題によって、独立監査人の監査報告書を独立監査人以外の者が発行する報告書と区別してます。イ.監査人の監査の実施責任と意見表明責任がある旨の記載は、意見不表明の場合にも記載されます。ウ.基本的に、強調事項に記載する事項はKAMに該当しない事項であることが要求されていますが、監基報で強調事項とすること要求されている事項が、KAMにも該当する場合には両方に記載することになっています。エ.継続企業の前提に関する「監査報告書の類型」については、場合分けして整理しておきましょう。継続企業の前提に関する重要な不確実性があることからスタートすると、GC下での財務諸表作成妥当、かつ、注記適切の場合は「無限定適正意見+追記」となります。
問題19:除外事項付意見**
ア.財務諸表に開示すべき情報で開示されていない事項を、限定付意見の根拠として監査報告書に記載する場合があります。ただし、条件があり、法令等で禁止されていない、実務的に困難でない、情報について十分かつ適切な監査証拠を入手=情報の適切さについて、確かめていることが条件です。イ.ウ.除外事項付適正意見の根拠の区分の記載事項は、頻出論点です。エ.複数の財務報告の枠組みに基づく財務諸表には、国際会計基準と日本基準の両方に準拠して作成される場合をイメージしてください。要求される処理の違いから、一方は遵守 、一方は遵守していない、という状況になった場合に、ことなる意見が表明されることになります。
エ.以外は正誤判断が難しいともいえないので***よりの**だと思います。
問題20:不正リスク対応基準**
ア.不正リスク対応基準の対象は上場企業等です。金融商品取引法に基づく開示は、上場企業等に限られず、非上場であっても有価証券届出書を提出している企業や所有者1000名以上の有価証券の発行会社も行います。イ.経営者関与が疑われる不正については監査役等と連携するため、まず先に監査役等との協議し、経営者に是正措置を求めるのはその後です。ウ.不正リスク対応基準は四半期レビューには適用されません。監査とレビューでは保証水準が異なるためです。エ.不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況、が識別された場合、経営者に質問し追加的な監査手続きを実施して、不正による重要な虚偽の表示の疑義があるかどうかを判断します。経営者の説明に合理性がないなどして、疑義有りとなれば、想定される不正に直接対応した監査手続を実施します。反対に、疑義がないことが十分かつ適切な監査証拠により確かめられたなら、その旨を監査調書に記載します。
これも***よりの**です。
以上です。