令和6年度 第74回税理士試験講評~簿記論
令和6年(2024年)8月6日~8日に実施された第74回税理士試験について講評していきます。まずは簿記論からです。
第一問 退職給付会計、その他の包括利益
中心は退職給付会計の仕訳の空欄補充や特定勘定の残高を求める問題でした。単純に退職給付引当金や退職給付費用の金額を求めれば良いという問題ではなかったので、退職給付会計の計算構造を理解していないと訳が分からない問題だったと思います。一目見て厄介なことが分かる問題でもあるので、受験上は一旦保留にして〔第二問〕〔第三問〕を優先し、余った時間で対処するが吉でした。
正答を拾える問をあげてみます。誘導も多いので丁寧に問題文を読んでいけば7カ所/24カ所は難なく拾えたと思います。
給付算定式による前半は苦戦すると思いますが、②X03年度の退職給付費用547は期待運用収益の計算に期首年金資産拠出分を含める指示を読み落とさなければ簡単でした。⑤外部基金(年金資産)への拠出時の借方勘定「退職給付引当金」、⑦退職給付費用の相手勘定の「退職給付引当金」、⑨税効果会計の仕訳の金額は無理でも、貸方勘定「法人税等調整額」も間違えないはずです。
⑩期間定額基準による退職給付見込額の当期帰属分の年割り1000、⑪退職給付債務と年金資産の単純な差額の退職給付引当金1130、⑫退職給付規定改訂後の当期帰属分の年割り1200位までは、簡単に拾えた得点です。⑭以降の数理計算上の差異の計算は、年金資産の年金終価係数による計算の構造理解が必要なので、解けたら素晴らしい。
⑱以降はその他有価証券評価差額金がその他の包括利益となる仕訳問題です。税理士試験受験生にとっての苦手分野だと思うので受験上スルーで問題ないでしょう。
第二問 個別問題
問1:有形固定資産
セール&リースバックの仕訳の空欄補充、資産除去債務を含む特定勘定の総勘定元帳空欄補充の問題でした。
①~⑭、㉕車両のセール&リースバックび仕訳問題のポイントは、リース料の支払いが半年毎であることをうまく処理できたかです。年6%で5年間を、3%で10期間としてリース料総額の割引価値を求める必要があります。結果として売却額=貸手の購入価額と一致するので、一か八かで貸し手の購入価額を選んでもよかったのですが、所有権移転外FLなので本来はリース料総額の割引価値と貸し手の購入価額の比較をすべきです。ここさえクリアできれば、15カ所の完答も狙えたと思います。
⑮~⑱、㉒~㉔機械装置Bは資産除去債務の処理が必要でした。除去に要する支出の見積りの変更(3000千円→2700千円)があるので、資産除去債務を減額する割引率の選択(3%)がポイントでした。ここは楽に完答可能です。
リース取引も資産除去債務も割引計算の手順によっては端数処理の都合で解答が異なってくる可能性がありますが、そこは気にしなくても大丈夫です。安心してください。
⑲~㉑備品は定率法から定額法への減価償却方法の変更です。償却率を求めるところから計算しなければなりませんが、取得からたった3年目の減価償却計算なので、さほど手間もかからず正解できたと思います。
問2:新株予約権
新株予約権の消却仕訳の空欄補充と新株予約権残高の問題です。特に解説すべき点がないくらい簡単な問題でした。
第二問は20カ所/34カ所が目安かと思います。
第三問 総合問題
決算整理前残高試算表に決算整理事項等を加味して決算整理後残高試算表を作成する例年通りの出題です。注意点をいくつか指摘していきます。
3.為替予約:(3)の指示より、輸出取引に非資金取引の容認処理が採用できることがわかります。
5.有価証券:(2)外貨建て満期保有目的債券は金銭債権との類似性から期末決算日レート換算が必要です。償却原価法(定額法)による有価証券利息は平均レートで換算するので、為替差損益は貸借差額で求めることになります。
6.固定資産:(6)E備品のリース取引は、⑩利息法による利息相当額の算定に必要な利子率年5.7%の指示から、リース資産・リース債務の計上額が見積現金購入価額1799000であると推定でき時短になります。
7.借入金:(4)金利スワップは「特例処理」と指示されているので、(2)の金利スワップの正味の時価はダミーです。
8.新株予約権付社債:(2)⑤資本計上額1株あたり6000円とあるので、権利行使された新株予約権が何株分か(120口×1個×10株×70%=840株)を求める必要があります。
9.債権の貸し倒れ等:一般債権の貸倒実績率の算定では「(注)貸倒れの発生が期首の一般債権から」との指示を読み落とすと期ズレをおこしかねないので注意が必要です。
11.自己株式及び剰余金の配当等:(2)準備金の要積立額が資本金の1/4に達するので配当額の1/10も必要ないこと、(3)新株予約権の権利行使時に新株発行と自己株式の処分での対応となっていますが、自己株式の処分で処分差損が生じて、新株発行への払い込みのマイナスとなっていること、この2点が注意点です。
それなりに処理量がありますが、資料が散らばることもなく指示も読み取りやすかったので攻略しやすい問題でした。
25カ所/40カ所が目安かと思います。
以上です。