令和6年度 第74回税理士試験講評~財務諸表論

第一問

問1:財務会計の概念フレームワーク

第2章の会計情報の質的特性からの出題でした。「意思決定有用性→意思決定との関連性+信頼性(→中立性+検証可能性+表現の忠実性)→内的整合性+比較可能性」の8つの特性を覚えていれば、(1)(2)が答えられます。(3)Aも「我が国の比較可能性は法的形式より経済的実態を優先」との知識があれば、選択肢から選べたと思います。

(2)Bの記述は、①比較可能性の要請=時系列比較・企業間比較の障害とならない会計処理、②実質優先の会計処理=同様の事実→同一の会計処理、異なる事実→異なる会計処理、③事実の同一性・異質性の峻別が可能=比較可能性の確保、この3点について説明します。概念フレームワークの内容を圧縮すれば答案になります。第二問が難しい分、しっかり記述したいところですが、最低でも比較的書きやすい②について記述して部分点を拾いたいところです。

問2:棚卸資産の評価

(1)~(3)会計基準の空欄補充3カ所は正しく選択できたと思います。(5)トレーディング目的の棚卸資産と同様の処理を行う売買目的有価証券も得点できたでしょう。(6)時価算定会計基準の内容は難しかったと思うのでできなくても仕方ないでしょう。

(4)A会計基準における取得原価主義の説明は、回収可能原価とも残留有用原価とも読める、例の説明を記述すればいいのですが、正直、覚えにくいし書きにくいです。B低価評価が取得原価の枠内にある理由の説明も、同様に書きにくいと思います。「回収可能原価ととらえる」または「残留有用原価ととらえる」と決めてしまって記述すると比較的書きやすくはなると思いますが、それでも2~3点の部分点が拾えたらいいくらいだと思います。

問1を中心に15点/25点が目安かと思います。

第二問

問1:社債

社債発行差金の論点なので、受験上パスで良いと思います。某大手専門学校ですら未学習としていましたから、まるっと没問と考えて良いでしょう。

問2:のれん

(1)空欄補充は問題なくできたと思います。

(2)のれんの償却の要否については、①投資原価の回収、②自己創設のれんとの関係、の2点について説明していきます。それぞれが数行書けるほどの充実した論点ですが、全部で4行しか答案スペースがないので、エッセンスを抽出する手腕が問われました。のれんの会計処理については、③償却手続き=規則的な償却or減損処理、の論点もありますが、本問は償却の要否なので①②に絞って記述します。①では収益と償却費の期間的対応と投資額の回収超過額を利益とする旨、②は自己創設のれんの実質的計上の回避、を指摘します。

(3)負ののれんの利益処理の論拠は、バーゲン・パーチェスの説明をします。「国際的な会計基準のどのような考え方を」というのは負債の定義を充足しているか、のことですが果たして思いつけたでしょうか。

問2から6点/9点が目安でしょう。

第三問

貸借対照表、損益計算書、販管費明細、税効果の注記を作成する問題です。今回は例年より処理量が多いので、解くべき問題の取捨選択を誤ると苦戦することになったと思います。以下、注意点を幾つか指摘します。

2.受取手形及び売掛金に関する事項、3.貸倒れ引当金に関する事項:(2)得意先C社の債権を破産更生債権等に、(3)得意先D社の債権を貸倒懸念債権に分類します。C社については「更生手続き開始の申立てを行った」とあるので明らかですが、D社は「回収について重大な問題が生じる可能性が高いと判断」から貸倒懸念債権とします。分類済みの問題の方が多いので、この判断基準を失念してしまうと何カ所も間違えることになります。

4.有価証券に関する事項:(1)前期末の時価データも前T/Bのその他有価証券評価差額金の内訳も不明なので、期首のその他有価証券評価差額金は一括で洗替えをしておきます。(2)減損に伴う繰延税金資産は回収可能性がないとの指示があるので、税効果の注記の「評価性引当額」のために数値を別枠で用意しておきます。(5)自己株式の取得原価に推定が必要なので、他の有価証券との差額で求める手間が必要です。以上から、事務処理能力が問われる事項になっていました。

6.有形固定資産に関する事項:(4)資産除去債務の除去時の処理では、除去時の実際の支出(固定資産除去損としている)との履行差額を除去費用にかかる費用配分額と同じ区分で処理するので、減価償却費のマイナスとして処理することになります。(5)土地の減損処理は、繰延税金資産の回収可能性がないので「評価性引当額」のための数値を把握しておきます。

8.借入金に関する事項:(2)借入時の利息の前払いを長期前払利息として振り替える必要がありました。

10.退職給付引当金に関する事項:間便法が採用されていますが、導入部の指示の通りに計算すればよかったので、資料の多さの割に実は簡単でした。こうした事項を拾えるかどうかも受験上は必要なノウハウですね。

30点/50点が目安かと思いますが、今回は第一問及び第二問の記述が多めだったので、記述の手応え次第で必要な得点は変わってくると思います。

以上です。