令和6年度公認会計士論文式試験講評~監査論
2024年8月16日~18日に実施された論文本試験の講評を順次公開していきます。初回は監査論です。
監査論の解答速報(PDF)は、以下からご参照いただけます。
令和6年度 監査論 解答速報
第一問
今回の第一問は、典型論点や監基報が利用しやすい問が多く、記述しやすかった印象です。標準的な記述量なので、監基報を丁寧に検索して、平易でない適切な語句で記述できたかが合否を分けたのではないでしょうか。特に、今回は第二問が手の付けられない難しさなので、第一問で如何に得点できたかが勝負でした。
問題1-問1:二重責任の原則と経営者確認書
「二重責任の原則うち経営者の責任を、事後的に正式に認める手段となる経営者確認書」について記述します。①二重責任の原則(=監査人の責任+経営者の責任)の説明、②監査の実施のために実際に経営者が責任を果たされる必要がある旨、③②について事後的に正式に認める手段としての経営者確認書、この3点について記述します。
問題1-問2:監査サンプリングと特定項目抽出による試査
1.母集団からの抽出方法と、2.母集団の結論の形成方法、について問われています。監査サンプリングについては、監基報530「監査サンプリング」に答案の基になる記述がそろっています。特定項目抽出による試査は監基報500「監査証拠」に記載があることを突き止められたらスムーズに記述できたと思います。監基報530の「本報告書の目的」の項目に、監基報500とあわせて適用する旨の記載があることがヒントになります。監基報500にたどりつけなくても、金額の大きい等の特定の性質を持つ項目を抽出することや、特定項目抽出からは残余部分についての証拠は得られないことなど、近しい記述はできたのではないかと思います。
問題1-問3:監査要点
①適正性命題は直接立証できない旨、②直接立証可能な監査要点について監査証拠を入手、③②を積み上げることで適正性命題を間接的に立証、の構成で記述していきます。典型論点ですので、用意していた記述例やキーフレーズを上手に利用して高配点を狙いましょう。
問題2:重要な虚偽表示リスクの評価
この問題は様々な答案が考えられると思いますから、公表されている解答例と自身の答案が違ってもがっかりしないでください。リスク対応手続きの中で、リスク評価が修正され監査計画を修正する場面がいくつもあったと思います。その中から思いついた場面を指摘して、リスク評価の暫定性について説明できれば十分だと思います。勿論、監基報315や330の参考になりそうな項目を抜き出すこともできたと思いますが、ボリュームのある監基報なので、最適な項数をピンポイントで探すのは難しかったと思います。
問題3-問1:グループ監査における構成単位の監査人の関与
構成単位の監査人を関与させる役立ちは、監基報600「グループ監査における特別な考慮事項」から探すことが容易です。リスク評価の「企業及び企業環境の理解」の場面を「構成単位及びその企業環境の理解」と考えれば、構成単位の監査人の経験や知識の役立ちについても言及できたでしょう。問題文の「法定監査を実施しているかどうか~」については、深く考えなくても答案に支障はなかったと思います。
問題3-問2:グループ監査人の関与
発見リスクの観点から説明するよう求められていることがヒントになって、グループ監査の発見リスクにグループ監査人と構成単位の監査人のそれぞれが、構成単位の虚偽表示を発見できないリスクが含まれることを誘導している問いでした。この点に気づけないと論点ずれの答案になってしまいます。
第二問
問題1:アサーションと監査手続き
事例問題ではあるものの情報が少ないので、アサーションと監査手続きの関係についての一般論として答案を用意するしかなかったと思います。仕入取引については、「網羅性」に対して「①納品書の閲覧」「②分析的手続き」が指摘できます。手続きの解答欄が1行だけなので、手続名だけでも配点はあるでしょう。「実在性」でも類似の答案が用意できると思いますが、製品残高のアサーションに「実在性」を採用するなら避けた方が無難です。「期間帰属」も指摘できますが、対応する手続きが「①カットオフテスト」だけになってしまうので、「網羅性」がベストだと思います。製品残高については、「実在性」に対して「①実地棚卸の立会」「②期末日後の販売の検証」、「評価」に対して「①期末日後の販売価額の検証」「②分析的手続で評価損の必要性の検証」を指摘できます。
問題2:不正対応
冒頭に「在庫管理等をしてきた一人の担当者が、長年にわたって、輸入商品を利用した不正を行ってきた」とあるので、この不正に関して、問1:固有リスク、問2:統制リスク、問3:リスク対応手続き、の流れで答案を作成していくのが無難かと思います。在庫管理担当者の不正なので、「輸入」の部分にはあえて触れず、資産の流用に絞って答案を用意してみましたが、一つの案でしかないので他の答案も十分あり得ます。
問1:①監基報240の付録1-2にある、棚卸資産の流用の機会となる固有リスク要因を固有リスクの説明として記述し、これを隠蔽するための虚偽表示として、②貸借対照表の棚卸資産残高と③損益計算書の売上原価についての虚偽表示リスクを指摘しています。資産の流用の隠蔽としては、在庫があるかのように偽装する、販売されたかのように偽装するという手段が考えられるので、それが具体的にどのような虚偽表示になるかを考えます。少量であれば棚卸減耗に紛れさせる方法もあり得ます。
問2:長年にわたる不正を可能にした原因がワンオペであったかどうか、問題文からは状況判断しかねますが、「人」の不正には職務の分掌やローテーションが効果があると思います。
問3:リスク対応手続きとしては、問1で指摘した虚偽表示リスクに応じた手続きを指摘します。「具体的に説明」とあるので、立会、実査、突合といった監査手法を手続きの対象と組み合わせて記述します。
問題3:受託会社監査人の作業の利用
監基報402「業務を委託している企業の監査上の考慮事項」に関する問題です。ほとんど受験生がノーマークの論点でしょうから、スルーしても合否には影響がないはずです。
以上です。