令和6年度公認会計士論文式試験講評~会計学(午後:財務会計論)

令和6年8月17日に実施された会計学(午後:財務会計論)の講評です。

会計学(午後:財務会計論)の解答解説(PDF)は、以下からご参照いただけます。
令和6年度 会計学(午後:財務会計論)解答解説

第三問

第五問が難しい分、第三問で高得点を稼いでおく必要がありました。問題2-問3以外は完答が目標です。

問題1:減損会計

計算は基本的な処理ですし、理論も典型論点なので確実に得点したい問題です。

理論はともに「固定資産の減損に係る会計基準」設定前文に根拠があります。(1)減損損失の認識の判定基準に割引前将来CFを用いる理由には①事業資産の将来CFの見積りの不確実性、②減損の存在が相当程度に確実な場合に限るべき旨、③より金額の大きい割引前将来CFを用いる旨、を記述します。設定前文には①②だけですが、問題文に「割引後CFではなく割引前CF」とあるので、金額の大きい方の割引前将来CFを用いることで②相当程度に確実かどうか判断できるニュアンスを③の記述で加味しています。(2)回収可能価額を用いる理由として、問題文に「投資の回収方法の観点から」とあるので、①事業資産の投資回収=売却または使用の旨、②売却による回収額=正味売却価額、使用による回収=使用価値、③いずれか高い方の金額=回収可能価額、を記述します。「いずれか高い方」である理由として経済的合理性に言及できるとなお良いと思います。

問題2:ソフトウェア

計算は基本的な処理ですし、理論も問1は典型論点なので確実に得点したい問題です。問3の理論は若干書き難いので、文章力が必要でした。

問1は「制作目的別」が「市場販売目的と自社利用目的の別」であることは明らかなので、将来収益との対応関係との違いを指摘します。問3は「未償却残高の一部が将来収益で回収不能となる」ことのないように、計算の最後に未償却残高と将来収益を比較して超過額を切り下げる「減損処理」を意味する、と気づけたと思います。(2)の理論では、この計算の状況を文章で説明する難しさがあったと思います。①販売数量基準では販売価格の変動(下落)を償却計算に反映できない、②①によりX1年度、X2年度の減価償却費が不足した、この2点が指摘できていれば十分な配点があったと思います。

第四問

問題1:退職給付会計

計算は基本的な処理ですし、理論も問1、問2は典型論点なので確実に得点したい問題です。問3は正直ノーマークでした。他校の重要性評価も低いので、受験上パスで良かったようです。

問1の「年金資産を貸借対照表にそのまま計上しない理由」は、退職給付債務と年金資産を相殺して純額表示する理由のうち、特に年金資産の計上に関する内容として、①退職給付の支払のためのみに使用される制度的な担保、②収益獲得のために保有する一般の資産との区別の必要性、の2点を指摘します。問2の期間定額基準の論拠としては、①退職給付見込額の期間帰属方法=費用配分の方法、②労働サービスの費消態様に合理的な仮定を置く必要、③勤務期間を基礎とする費用配分の方法である期間定額基準、の3点について記述します。後加重についても記述できれば加点になると思います。比較的書きにくい論点だとは思いますが、典型論点なので少なくとも①③については近しい内容が書けていて欲しいです。

問題2:会計上の変更等

計算は基本的な処理ですし、理論も問2は典型論点なので確実に得点したい問題です。

問1(2)の耐用年数の変更の処理として臨時償却不採用の理由には、①実質的に遡及適用と同様の効果、②新たな事実の発生に伴う処理として不適切、の2点を記述します。臨時償却自体が採用されていない会計処理なため、その本質がとらえにくいのではと思いますが、記述例は用意してあったと思います。問2の減価償却方法の変更は、①「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」に該当する旨、②会計方針の変更+経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴う旨、の2点を記述します。

問題3:金融商品会計

問1の貸倒見積額につての理論は(1)は例外的状況なので書けなくても仕方ないでしょう。(2)は計算条件としても「債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積ることができる債権」であることは認識があったと思いますし、会計基準から探すこともできたと思います。(3)は「資産の収益性が低下」「将来に損失を繰り延べない」「資産の回収可能性を帳簿価額に反映」「過大な帳簿価額の減額」といったキーワードをつなげて答案にします。減損処理は、固定資産、有価証券、貸付債権、棚卸資産に共通の処理として、その論拠も繰り返し学習しているので、書きやすかったはずです。問2の関係会社株式の取得現価評価の論拠は典型論点ですから答案の用意があったと思います。①子会社株式=他企業の支配を目的として保有、関連会社株式=他企業への影響力の行使を目的として保有、②事業投資または事実上の事業投資、③時価の変動を(財務活動の)成果とは捉えない、の3点について記述します。

問題4:自己株式

問1は(1)と(2)の書き分けがしにくかったと思います。自己株式処分差損が、自己株式の取得と処分を一連の取引とみた場合、純資産の部の株主資本からの分配の性格を有する点は(1)(2)で共通であり、それが(1)株主に対する会社財産の分配という点で利益配当と同様の性格であると考え、利益剰余金の額の減少、(2)払込資本の払戻しと同様の性格を持つとして資本剰余金の額の減少、となります。これでは優劣がつかないため、(2)の理由として、自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する側面があることを理由として採用します。(2)については答案の用意があったと思います。問2の自己株式の無償取得を自己株式数の増加として処理する論拠も典型論点として答案の用意があったと思います。①資本取引=株主間の富の移転、②「自己株式の取得=資本の控除」との整合性、③「自己株式の取得=資産の取得→時価評価」は不適切、の3点について記述します。新株の有利発行時の処理との整合性や株主資本の増加がない旨なども加点になると思います。

第五問

問題1:連結総合計算問題

解答箇所は19箇所で、AランクとCランクが5問ずつ、残りがBランクなので、平均するとBランクということになり、バランスの取れた良問でした。復習用には優良な問題ですが、持分法適用会社、在外子会社、間接所有、連結除外といった多様な論点を含む、6社分の処理が必要であったこと、理論に字数制限のあるが故に時間を残しておく必要があったことを考慮すると、正答率37%、7問程度が合格ラインになると思います。特に、いわゆる孫会社D社が、子会社A社に商品を販売し、さらに当該商品を親会社P社に販売しているので、未実現損益の処理は難易度が高いです。この論点の影響を受けない問題や単独の資料で解答できる問題、ア、イ、オ、キ、ケ、ス、ソ、ツを最初にピックアップして優先的に解けば、合格ラインには届きます。連結の計算問題は要領よく解き進めて、理論に時間を回すよう、心がけてください。

問題2:理論問題

問1の非支配株主持分の表示箇所は典型論点でとして、答案の用意があったと思いますが、マス目に記入+字数制限という書きづらさがあったでしょう。①返済義務がなく負債には該当せず→純資産の部、②親会社説+親会社株主に帰属しない→株主資本以外、の2点を記述します。

問2は連結と持分法の計算方法で、連結損益に与える影響が同額となる理由が問われました。書きづらい印象ですが、字数制限があるので、それぞれの計算方法の「親会社株主に帰属する当期純利益」へ影響する計算プロセスを書き並べるしか方法はなかったようです。他の専門学校の模範解答も、ほぼ同じ内容になっています。連結会計は合算FSから非支配株主帰属損益を控除する形で、持分法は親会社の利益に「持分法による投資損益」加算する形で「親会社株主に帰属する当期純利益」を計算する点が書けていれば大丈夫です。

問3は連結子会社を吸収合併した事実が後発事象にあたるかについて①個別財務諸表は注記必要、②連結財務諸表は注記不要、であることを③開示後発事象の意義や目的に関連させて記述します。問題文中に①~③について書くべきことが指示されているので、その意図に沿って記述します。