令和6年度公認会計士論文式試験講評~企業法

令和6年8月18日(日)に実施された論文式 企業法の講評です。
例年通り、大問2問で、第1問は小問が2問、第2問は小問3問が出題され、事例問題でした。
第1問は株式併合、第2問は取締役の責任が出題されました。
第1問、第2問ともに問題1は、必要条文が掴みやすく、書きやすかったですが、他の問題は細かい条文知識が要求される難問でした。

企業法の解答速報(PDF)は、以下からご参照いただけます。
令和6年度 企業法 解答速報

第1問:株式併合

問題1:差止請求

解答スペース:12行
必須条文番号:182条の3

令和6年7月11日時点で、本件株式併合を阻止すべく、乙会社は甲会社に何を請求できるか?が問われました。
7月11日は、株式併合に係る株主総会決議後で、株式併合の効力発生前なので、阻止するために出来ることとして、「差止請求」というワードが頭に浮かびます。
条文も、180条から始まる株式併合のすぐあとに、182条の3「株式の併合をやめることの請求」があるので、見つけやすいです。
182条の3は短い条文で、適用要件が2つあるので、答案作成上、適用要件へのあてはめも、やりやす問題でした。
1つ目の要件は「法令・定款違反」ですが、問題文に「会社法所定の事項を記載した書面を本店に据え置くことをしなかった」とあり、1つ前の条文、182条の2違反であることが明らかです。
もう1つの要件である「株式併合により株主が不利益を受けるおそれがあること」というのも、配当が1/10になり、議決権も16.7%から2%に低下する点を上げればいい、というのも明らかです。
気分よく答案作成できる問題です。
あと、主要な予備校の模範解答では、3校中2校が、182条の3の適用要件として、182条の2の規定から「単元株式数を定款で定めていないこと」を指摘しています。
これは、182条の2第1項柱書かっこ書の「以下この款において同じ」というのが根拠となるので、指摘するのは難しいです。
書けるのが理想的ではありますが、相対的な試験なので、書けなくても落ち込む必要はありません。

問題2:買取請求

解答スペース:18行
必須条文番号:116条
令和6年7月1日時点で、乙会社は甲会社に対して、本件優先株式の全部の買取請求ができるか?が問われました。
問題1で182条の3を使っていて、すぐうしろの182条の4が「反対株主の株式買取請求」の条文なので、誰もがこの条文に飛びついたはずです。
ただ、残念なことに、本問では「1株に満たない端数」は生じないので、182条の4が適用できないことに、直ぐに気づきます。
次に、「差止請求」というワードから、360条の「株主による取締役の行為の差止」の適用を検討したかもしれません。
ただ、360条は、甲会社に著しい損害が生ずるおそれがあることが適用要件になるので、乙会社に損害を及ぼすおそれのある本問には当てはまりません。
時間のない中、さらに、116条の「反対株主の株式買取請求」の検討を始めますが、条文自体の分量が多く、細かい規定を拾い上げる必要があるので、かなり辛かったと思います。
この116条1項3号のかっこ書きにある「322条2項の規定による定款の定めがあるものに限る」という規定から、322条2項の「種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる」という規定を見にいって、このような定款規定を置いている本問に116条がドンピシャであてはまることを発見できるのが理想的です。この定款規定のある会社の種類株主に対して用意された投下資本回収の途が「買取請求」なので、この点に気づけば、スッキリとした気分で答案作成に取り組むことが出来ます。
ただ、限られた時間の中で、322条2項まで見にいかなかった受験生も多いはずで、相対的な試験なので、この点を答案に反映できなくても、失望する必要はないはずです。
322条2項まで見にいかなかったとしても、116条にたどり着けた受験生は、1項3号イの「株式併合」を見つけて、柱書にある「種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」、及び同条2項にある「反対株主」という2要件へのあてはめで答案が作成できます。この2要件へのあてはめが出来ていれば、合格点をもらえるはずです。
あとは、問題文にある「令和6年7月1日時点」が同条5項の「効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間」であることに言及できれば追加点となります。
最後に、問題文の「・・・手続きを明示しながら論じなさい。」の「手続き」として、何を示せばいいのかが、悩ましかったです。
主要予備校3校の模範解答で確認したところ、3校ともに、同条5項の「その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしなければならい。」という規定を利用して、「株式買取請求に係る本件優先株式の数が1,500株であることを明らかにした上で」といった内容を「手続き」として示していました。
116条を通読しても、「手続き」として使えそうな規定はこれくらいしか見当たりませんが、気づきにくいので書けなかったかもしれないです。
116条は主要校の答練でも出題されておらず、本試験会場で、受験生全員横並びで116条の条文を懸命に読み込んで答案に反映させる必要があったようです。
現場で、知力、体力、気力を振り絞った受験生が勝ち残れる良問でした。

第2問:取締役の対第三者に対する損害賠償責任

問題1:対第三者責任の根拠規定と要件

解答スペース:7行
必須条文番号:429条1項

問題文中に、1.会社法の規定の条名及び項番号、2.①対第三者責任における悪意又は重大な過失対象、3.②対象となる損害、4.③因果関係について、判例の立場で説明しなさい。と明記してあるので、1.429条1項、2.①会社に対する職務の任務懈怠、3.②直接損害と間接損害、4.③相当因果関係が認められること、を指摘します。問題3に当てはめのための答案スペースが十分用意されているので、問題1では問われた内容に対して直接的に、かつ、書きやすいところを記述して、確実に得点していきましょう。

判例の立場でという点は気にしなくても問題ありません。受験生が学習している内容は判例があれば判例の立場に沿ったものだからです。問題2も同様です。

問題2:取締役の監視義務

解答スペース:7行
必須条文番号:362条1項2項2号.366条1項2項

1.平取締役の代表取締役に対する監視義務の根拠、2.監視義務の履行方法について問われています。問題1と同様に解答すべき内容がはっきり指示されているので、1.取締役会の職務執行監督権限(362条2項2号)と取締役会の構成員である旨(362条1項)、2.取締役会の招集権あるいは招集請求権(366条1項2項)を指摘します。

問題1の要件にあった会社に対する職務の任務懈怠と問題2の平取締役の代表取締役に対する監視義務を結びつけるため、「監視義務違反が任務懈怠にあたる」あるいは「監視義務が善管注意義務に含まれる」旨をここで記述しても良いですが、問題3にまわしても良いと思います。

本件では取締役会が数年開催されていないので、取締役会の職務執行監督権限との関係で監視義務が取締役会上程事項以外に及ぶ旨を指摘しても良いですが、これも問題3のあてはめにまわしても良いと思います。

問題3:本件請求への当てはめ

解答スペース:16行

429条1項の要件①~③に本件請求を当てはめていきます。①悪意又は重大な過失による会社に対する職務の任務懈怠の有無が主になると思います。職務の任務懈怠については、問題2で解答した監視義務の履行方法である取締役会の招集権あるいは招集請求権を行使していないことを根拠に「監視義務違反が任務懈怠にあたる」と指摘できます。悪意又は重大な過失については、代表取締役Aは1人株主であることが影響します。取締役Bが監視義務を履行して取締役会が開催されたとして、果たして代表取締役Aの違法行為(食品衛生法違反)を阻止できたかは疑問です。1人株主Aは即時に取締役Bを解任することが可能であり、同様の影響を取締役Cにも及ぼすからです。このため、取締役Bが代表取締役Aに「懸念を伝えた以外に一切の措置を講じなかった」ことを、職務の任務懈怠に悪意又は重大な過失はなかったとすることも、あったとすることも答案としては可能です。

②食中毒に罹患した第三者が被った治療費等の損害が直接損害にあたる旨は議論の余地は無いと思います。

③②の損害と①の任務懈怠相当因果関係があるかについては、①と同様に、取締役Bが1人株主でもある代表取締役Aの違法行為(食品衛生法違反)を阻止してDの損害を回避し得たかに議論の余地があると思いますが、①で十分に論じて答案スペースを埋めたなら、③については相当因果関係ありとさらりと結論付けてしまうのも有りだと思います。また、「相当因果関係が認められる損害」とは、任務懈怠を原因として生じた損害のうち、社会通念上賠償させるのが相当と認められる範囲の損害を意味する点をここで指摘しても良いと思います。

以上です。