令和6年度公認会計士論文式試験講評~経営学

8月18日に実施された経営学の講評です。今年度は特に難しい問題であったため、素点での合格ボーダーは40点を下回りそうです。以下、個別に講評していきます。

経営学の解答速報(PDF)は、以下からご参照いただけます。
令和6年度 経営学 解答速報

第1問

ご存じのように経営学の第1問は、知識の有無のつきますが、日々更新される経営学の用語を受験生がつぶさに追跡するのは無理があるので、問題の誘導やヒントの活かし方についても言及したいと思います。

問題1:モチベーション理論、リーダーシップ論等

問1知識がなければどうしようもないです。

問2A慣性は、「現状を維持しようとする性質を意味する組織(A慣性)を~」という文脈から、B市場も、「新しい財貨の生産、新しい生産方式の導入、新しい(B市場)の開拓、新しい供給源の獲得~」という文脈と「開拓」という言葉との組合せで思いつきたい言葉です。C再凍結は、組織変革の3段階モデルの知識がなければ出てこない言葉でしょう。

問3:2択×2択なので、どちらかだけでも選択できれば正答の確率が上がります。ダイナミック(Cケイパビリティ)論の空欄補充は、capabilityもcompetencyも能力という意味ですが、コンピテンシーは技量という意味もあり個人の特性として用いられている語句です。そこから「組織の環境変化への対応力」を内容としているのでケイパビリティ、と選べたら正解でした。「探索とD深化の活動バランスをとって~」は、組織設計の理論では、創造性or効率性、柔軟性or規律性、差別化orコストリーダーシップ等のトレードオフ関係が議論されがちなことを思い浮かべます。探索を前者の議論と気づけたら、後者にあてはまるのは棄却より深化という判断の仕方が可能です。

問4期待理論のモチベーション=「期待」×「道具性or手段性」×「a誘意性」は知識がなければどうしようもないです。が、メジャーな理論なので知っておくべきでしょう。bの計算については、2項モデルやディシジョンツリーのように確率を扱えば正解できました。

問5:シェアドリーダーシップの概念図は、「シェアド(共有型)」の意味から双方向、ネットワークを連想して両矢印を書き込めたら正解に近づくことができました。

問6:変革型リーダーシップは、「理想化された影響力」としてサーバントよりもcカリスマが適すると分かります。d交流(交換)型リーダーシップは、cカリスマによる強力なリーダーシップと対になるのは「d交流」か「説得」かで判断できなくもないですね。

問7:心理的安全性は言葉通りの内容なので、イノベーションや変革に必要なリスクを恐れない行動と結びつけた説明ができれば答案になります。

問題2:組織文化等

問1:Aの空欄は2ヶ所ありますが、2つ目の「部門化や権限関係、階層数といった組織の(構造)的特性~」から、言葉が出てくるかどうかですね。

問2:終身雇用の説明は書けたと思います。「定年退職まで」がキーワードです。

問3:人名は意識してこなければどうしようもなかったでしょう。BD.マグレガー(XY理論の提唱者)については、人名を覚えてきたかに加えて「セオリーZ~二つの対照的な人間観」が「XY理論」と気づけたかにも左右されました。

問4:文脈から「独自の(D価値)」「単なる(E道具)」「組織は(F制度)に生まれ変わる」と当てはめます。言葉のセンスの問題になってしまいますが、価値・道具・制度のどれが適する表現かで判断できなくもないかと。

問5:書けなくても仕方ないです。

問6:競合価値フレームワークは、言葉の意味がとらえやすい、(Ⅲマーケット文化)について横軸の「組織内部」か「組織外部」かで「組織外部」のⅢの次元に当てはめられ、(Ⅰヒエラルキー文化)について縦軸の「柔軟性と裁量」か「安定性と統制」かで「安定性と統制」のⅡの次元と当てはめられると思います。(Xアドホクラシ-文化)は知識がなければどうしようもないです。

問7:「外見から識別可能な(a表層)的ダイバーシティ」が文脈から当てはめ可能かは難しいところです。女性管理職登用比の計算は、S社とT社の数値を用いて試行錯誤して正解式を導出できれば理想的ですが、時間的制約から困難でしょう。

第2問

問題1:最適資本構成

問1-1:レバレッジ効果の説明文です。「投資プロジェクトの実施や将来に期待できるキャッシュ・フローなど, 実物的な活動はどちらの企業も全く同じ」→(①事業リスク)、「(②債務不履行)が起こり得ないとすれば、債権者は業績の好不調に関係なく, あらかじめ約束された利子を確実に受け取ることができる。」、「株主~の利益~の変動の程度は(③財務レバレッジ)を原因として増幅」、「株主資本と負債から成る~L社の株主は(④財務リスク)も負担」となります。

問1-2:レバレッジ効果に関する正誤問題です。一つ一つの記述は丁寧に読み解けば正誤判断できる内容です。詳細は解説でご確認ください。ただし、他の正誤問題も同様ですが、「適切な説明文を全て選びなさい。」かつ、「ア~オに適切な説明文はない。の選択肢がある」ので、出題形式のために正答する難度はぐっと高くなっています。

問1-3:加重平均資本コストの基本的な計算です。間違えられない問題です。

問2-1:裁定取引に関する空欄補充問題です。「企業価値の小さい企業を買って大きい企業を売る裁定取引の結果、企業価値が等しくなる」と考えます。資金の借入or貸付の箇所は、分かり易い方の「企業価値の小さいL社の社債券(負債)を買う=貸付」で考えて、その逆は?とすると理解しやすいと思います。

問2-2:ペッキングオーダー理論の空欄補充問題です。資金調達方法の優先順位(内部留保→現預金等内部資金→⑫銀行借入→社債発行→⑪株式発行)については即答できたと思います。実物的な過小投資との関連性は、情報の非対称性から有望な投資への資金調達としての株式発行が、株価が過大評価されているとの誤ったアナウンス効果をもたらす点を思い出してください。

問2-3:株主・経営者間のエージェンシー問題と債権者・株主間のエージェンシー問題のどちらか、を考えるとウ~オの正誤判断はしやすくなります。

問題2:企業価値

問1-1:投資額の資料がないので、FCFの割引価値をNPVとして計算します。投資案Aは既存プロジェクトと同一リスクとあるので、CAPMで求めたX社の期待収益率を資本コストとします。投資案BはY社の事業用資産の期待収益率を資本コストに利用すれば良いのですが、事業用資産の他に非事業用資産もあるので、①CAPMでY社の期待収益率を求める、②非事業用資産の期待収益率=市場ポートフォリオの収益率と読み取る、③事業用資産と非事業用資産の加重平均期待収益率がY社の期待収益率として、事業用資産の期待収益率を逆算する、としてやっと割引率が求まります。

問1-2:βに関する正誤問題です。出題形式のために正答する難度は高くなっています。

問2-1:こちらのNPVは設備投資額の控除し忘れに注意です。FCFの算定において気になるのが、第5期にプロジェクトが終了するなら、第5期末(or第6期首)に純運転資本は回収(CIF)されるのではないか?ということです。指示から判断できかねるので「純運転資本額=運転資本投資額-回収額」とした計算にしています。

問2-2:解説では最後まで計算していますが、問自体は3年で回収できるか否かだけで判断すれば良いので、3年分だけのFCFの割引価値を求めて投資額と比較します。

問2-3:IRR法、回収期間法とNPV法の比較の記述です。管理会計論の知識も活用して正誤判断します。出題形式のために正答する難度は高くなっています。

問題3:エージェンシー問題、企業価値等

問1.問2:他の正誤問題よりは易しい内容ですが、出題形式のために正答する難度は高くなっています。

問3(1)(2):割引配当モデルによる株式価値の計算です。サステイナブル成長率の計算で3年後以降の成長率を求めます。

問4:実務的すぎる問題ではないでしょうか?

問題4:証券投資

問1-1:最小分散ポートフォリオ、問2-1:与えられた関数式に当てはめるだけの無リスク資産の効用=リスク資産ポートフォリオの効用となるA、問3-2:プットオプションの価格の計算、は何とか頑張れたかも知れませんが(計算は解説を参照してください)、他は埋没でしょう。

以上です。