令和6年度公認会計士論文式試験 講評 ~ 会計学(午前:管理会計論)

令和6年8月17日(土)に実施された論文式 会計学(午前)~ 管理会計論の講評です。
例年通り、30分問題4問という構成です。
問題用紙が19ページもあり、その多さに驚きますし、第2問が「資金管理」と「設備投資」という難問の出題実績が多い分野だったので、ひどい結果になりそうな予感がしたはずです。ただ、解き始めてみると、最初の計算5問が解きやすかったので、その後は、落ち着いて解答できたと思います。

会計学(午前:管理会計論)の解答速報(PDF)は、以下からご参照いただけます。
令和6年度 会計学(午前:管理会計論)解答速報

第1問
[問題1]
費目別計算 + 部門別計算 + 個別原価計算
[問題2]工程別総合原価計算 + 部品の外注加工
第2問
[問題1]
資金管理
[問題2]設備投資の経済計算

第1問 

問題1:費目別計算 + 部門別計算 + 個別原価計算

計算の解答箇所:9箇所
理論(記述式):3行
理論(穴埋め):3箇所
予想配点:計算18点、理論7点

問1問2の計算5問は簡単で、ここで10点確保できれば、波に乗れます。論文の管理会計論は、素点50点程度が合格ラインになることが多いので、開始早々に10点を得点できれば、合格に大きく近づきます。

問3は、「原価計算基準で認められている、短期的な視点から予定配賦率を設定する基礎となる操業度を答えなさい。」という問題です。
専門学校によって解答が分かれました。
予定操業度・・・1校
期待実際操業度・・・2校
予定操業度、期待実際操業度、予算操業度のいずれも可・・・1校
受験生は、どれか一つを選択する必要があります。問題文の「原価計算基準で認められている」という文言からすれば、「原価計算基準」で使用されている「予定操業度」としておくのが安全です。「期待実際操業度」は一橋系の大学教授が好んで使用するワードですが、「原価計算基準」では使用されていません。

問4も専門学校によって解答が分かれました。予想配点は8点(@2点×4箇所)なので、合格ラインの素点を50点とすると、作問者の採点が合否に与える影響は甚大です。短答式試験でも同様の指示で出題される可能性があるので、自分なりに確りとした方針を持っておく必要があります。
専門学校によって解答が分かれた原因は、作業くず評価額の処理です。
問題文では、「計算方法は我が国の原価計算基準において、原則として用いられている計算方法に準拠すること」とされています。周知のように、基準36は、「個別原価計算において,作業くずは,これを総合原価計算の場合に準じて評価し,その発生部門の部門費から控除する。ただし,必要ある場合には,これを当該製造指図書の直接材料費又は製造原価から控除することができる。」としています。
従って、「原則規定」は部門費から控除、「容認規定」は製造指図書から控除です。

ここで、各専門学校の解答は、きれに分かれました。
原価計算基準の「原則規定」での解答・・・2校
原価計算基準の「容認規定」での解答・・・2校(うち、1校は、別解として原則規定による解答も示す)

「原則的方法に準拠して計算する」という指示があるにもかかわらず、2校が「容認規定」で模範解答を作成したのには、明確な根拠があります。過去の短答式試験で、作業くず評価額の処理について指示を出さずに、[容認規定]で解答しないと選択肢に答えがない問題が複数回出題されているので、今回の本試験も「容認規定」で解答すべきだ、と考えたわけです。作業くずの発生量が製造指図書別に判明しているのであれば、正確な計算の観点からは、その評価額は、当然に、発生した指図書から控除すべきです。私もそう考えますが、ただ、それは、指示がない場合です。
今回は、「原則的方法に準拠して計算する」という指示があったので、専門学校の模範解答としては、忠実に指示に従い、「原則規定」で答案を作成すべき、と考えます。「原則的方法に準拠して計算する」と指示されて、「原則規定」で解答したのに「不正解」と採点されるのは、あまりに不合理ですからね。

一方で、専門学校によって解答が分かれる問題を作問してしまっているということは、案外、作問者は、特段の意図もなく「原価計算基準に準拠して」という指示を入れていて、ご自身では、短答式試験の過去問と同様に、「容認規定」で解答を作成している可能性が高い、という残念な疑念もわいてしまいます。採点がどの様に行われるかは不明ですが、今後も試験を受験するのであれば、明確な方針を持っておかないと、試験会場で無駄な時間を過ごすことになります。

現時点では、作業くずの発生量が指図書別に判明している場合の、作業くず評価額の処理については、次のような方針を持っています。
① 一般的には、とくに指示がない場合、原価計算基準の「原則規定」で処理するのが通例ですが、作業くず評価額は、例外的に、指示がなければ、「容認規定」で処理します。「指図書別発生量が判明しているなら、その資料を使用しない理由はない。」というのが、短答式試験の過去問から得られた教訓です。
②これに対し、本問のように、「原価計算基準の原則的方法に準拠して計算する」という指示があれば、原価計算基準の「原則規定」で処理します。

上記方針は、今回の本試験がどのように採点されるかによって、変更する可能性があります。ここの8点が得点できるかは、合否に直結するので、他の専門学校の先生がおっしゃっていたように、両解答ともに正解と採点されるか、採点除外となることを祈るばかりです。
本問は簡単だったので、この問題の8点を除外した場合の合格ラインは12点と想定します。

問題2:工程別総合原価計算 + 部品の外注加工

計算の解答箇所:9箇所
理論(記述式):2行
理論(穴埋め):0箇所
予想配点:計算19点、理論6点

問1問3の計算は、短答式試験合格者であれば正答できる問題です。ここで、確実に8点(=@2×4箇所)を獲得しておきたいですね。

問2では、「中間材料Zの生産に特化した機械装置の減価償却費が間接費に分類される理由」が問われました。テキストの中で、[A製品専用設備の減価償却費について]というコラム的なものを書いている論点ですが、「中間材料Z専用設備の減価償却費は、中間材料Zにとっては組直接費だが、中間材料Zの一定単位の生産量に対する標準値を設定できないので製造間接費である」という理解で、スッキリします。

問4~問6については、パズルが得意な受験生なら短時間で正答できる、よく練られた良問ですが、材料の有償支給による外注加工というと、材料交付差益勘定がでてくる、ややこしい論点というイメージがあって、解かずに、第2問に移行した受験生が多かったと思います。第2問が資金管理と設備投資なので、そちらに時間を回したくなりますしね。
問4や問5は、何を計算すればよいのか、ちょっと迷いますが、問6の製品Cの完成品単位原価を計算するための準備、というイメージがわけば、解けたも同然です。
問題文によると、外注先に対して、中間材料Zを@900円/kgで有償支給するということですが、@900円/kgは、問1で算定した単位原価と一致するので、利益は付加せずに外注先に有償支給していることになります。なので、P社が買い戻した部品Bの購入単価@4,800円/個には、P社の利益が含まれていないので、@4,800円/個がそのまま、問4の部品Bの「加工品単位あたり原価」になります。資料に与えられている金額をそのまま答案用紙に記入することになります。当期は@4,800円/個の部品Bを15,900個買い戻したので、「加工品の原価」は、@4,800×15,900個=76,320,000円です。
続いて、問5です。資料1(2)(3)から、前月に外注先に有償支給した中間材料Zは@850円/kg×4kg/個×15,900個=54,060,000円で、これに加工作業が施され、部品Bとして、@4,800円/個×15,900個で当月に買い戻されたことが分かります。ということは、当月に外注先に有償支給した中間材料Zは、翌月に買い戻されるので、@900円/kg×4kg/個×30,660個=110,376,000円が「外注加工(支給品)」勘定の当月末残高です。
そして、当月中に受け入れた部品B15,900個のうち、 第3工程に投入されたのは15,000個なので、残りの900個分の@4,800円×900個=4,320,000円が「外注加工(加工品)」勘定の当月末残高です。数量の確認ですが、第3工程へは、部品Bを15,900個、部品Aを10,600個(=15,900個÷3個×2個)投入する予定でしたが、第2工程で部品Aに異常な仕損品が600個発生したので、部品Aは10,000個しか完成せず、この影響で、部品Bは15,000個(10,000個÷2個×3個)しか第3工程に投入できなかった、という設定になっています。
問4と問5が解答できれば、問6は簡単な実際総合原価計算による原価配分ですが、問6までは、たどり着けなかったでしょう。よく練られた良問です。

問4~問6に手をつけなかった受験生が多いと思います。問1問3の計算と正答して、理論でも点数を拾えることを考慮して、10点を合格ラインと予想します。

第2問 

問題1:資金管理

計算の解答箇所:8箇所
理論(記述式):13行
理論(穴埋め):3箇所(計算とセットなので予想配点は計算に含めます)
予想配点:計算15点、理論10点

問1
設問1  キャッシュ・コンバージョン・サイクル

短答式でも出題される論点ですが、「売上債権回転期間」、「棚卸資産回転期間」、「仕入債務回転期間」といったワードを記述する必要がありました。この手の問題は、可能な限り、問題文で使用されている用語を使用するように心がけてください。例えば、「売掛債権回転期間」ではなく、「売上債権回転期間」とするのが、答案作成上のマナーになります。財務数値の端数処理や計算方法の指示に慎重に従えば、短時間で正答できます。ここの予想配点8点は落としたくないですね。

設問2、設問3  理論
与えられている資料を利用して、現場で対応するタイプの問題です。主要な専門学校の模範解答の内容が一致しているので、判断に迷うような問題ではありません。模範解答に近い答案を作成できた受験生も多いと思いますが、正答必須というほど簡単ではありません。ただ、白紙答案でスルーするのは、もったいないので、何らかの爪痕を残したい問題です。

問2
設問1、設問2  正味運転資本の増減額
正味運転資本の計算式を市販されている管理会計論の著作で調べてみると、以下のように、様々です。
① 流動資産-流動負債
② 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務
③ ② + 営業サイクル内の現金預金  などなど
ただ、「指示がないので正答不能」というのでは、自分が損をするだけです。受験生としては、何とか問題文からヒントを見つけ出したいところです。設問2の理論問題で、「資金管理の観点から正味運転資本の増減額を計算する意義を答えなさい。」と問われています。
正味運転資本の増減額を計算する意義は、「短期運転資金の調達時期や調達額を計画するためのデータとなる。」ことです。資金需要を把握するために正味運転資本の増減額を計算するので、短期借入金は正味運転資本から除外するのが理論的です。正味運転資本から有利子負債を除外するのが一般的なので、本問の「リース債務」も除外して、正味運転資本を計算した方が良さそうです。
また、「その他の流動資産・その他の流動負債」を正味運転資本の計算式に含めるか否かも、気になる論点です。
そもそも、管理会計論の入門書で、上記②や③のような計算式が紹介されるのは、棚卸資産等の回転期間や、1日あたり売上原価・売上高を利用して、正味運転資本を計算させる問題では、「その他流動資産・その他流動負債」といった余計な資料を除外しておいた方が都合がいいからです。本問は、そういった計算をさせていないので、正味運転資本の計算から「その他の流動資産・その他の流動負債」を除外する理由はありません。「その他の流動資産・その他の流動負債」は、単独の勘定科目を設けて管理するほどの重要性がないものなので、そういったものの資金需要は、営業サイクル内にあるものに含めて考えるのが自然です。従って、本問における正味運転資本の計算式は次の通りです。
正味運転資本=流動資産合計-(流動負債合計-リース債務)
∴ 正味運転資本の増加額 = 当期の正味運転資本4,786百万円-前期の正味運転資本4,927百万円= △141百万円
他の専門学校の模範解答をみると、4校中3校が△141百万円としています。ただ、解答が分かれているので、正答できなくても大丈夫です。

設問3、設問5  フリー・キャッシュ・フロー
2023年第Ⅰ回の短答式試験の理論問題として、下記記述の正誤判定が問われました。
フリー・キャッシュ・フローを借入先や株主などの資金の出し手に自由に分配できる資金と定義した場合,その金額はキャッシュ・フロー計算書の情報を用いれば,「営業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」を合計して求められる。
→ 「正しい」
この記述の前半部分が設問5に、後半部分が設問3にドンピシャです。ただ、本問では「利息の支払額は控除しないものとする」と指示されているので、
FCF=「営業活動によるキャッシュ・フロー」+「投資活動によるキャッシュ・フロー」+利息の支払額
---
= 13,004 + △6,187 + 217 = 7,034百万円
正答できれば、大きなアドバンテージとなる4点(=2点+2点)です。

設問4  加重平均資本コスト、株式価値総額
リース債務と支払利息の金額を利用して支払利率を計算した上で、加重平均資本コストを計算する問題ですが、端数が生ずるので、途中で諦めた受験生が多いと思います。今まで、割り切れる問題がほとんどだったのに、割り切れない加重平均資本コスト率を端数処理して、企業価値の計算へ進んでいくのは、相当に強いメンタルをもった人でないと無理ですよね。
設問3で算定したFCFを加重平均資本コスト率で割ると、永続モデルの企業価値が算定できます。負債価値は、問題文に「有利子負債の貸借対照表価額と同額とする」とあるので、企業価値からリース債務合計を控除して、株式価値総額とします。
株式価値総額=FCF7,034百万円÷加重平均資本コスト率10%-負債価値(2,107百万円+4,524百万円)= 63,709百万円

設問1の計算で8点、あとは、予想配点12点の理論で2点を追加して、合格ラインは10点と予想します。

問題2:設備投資の経済計算

計算の解答箇所:5箇所
理論(記述式):6行
理論(穴埋め):3箇所(代替案の選択2箇所を含む)
予想配点:計算13点、理論12点

最初の計算4問を正答しておけば、合格ラインに到達です。

問1[当初案]の正味現在価値
年々の正味CFを「各年度の収支差額×(1-税率)+ 減価償却費×税率」で計算して、その割引現在価値合計から初年度投資額を控除して求めます。
NPV=(4,880×0.6+2,000×0.4)×0.926 +(13,880×0.6+2,000×0.4)×(0.857+0.794+0.735+0.681)-10,000= 21,447.704万円→21,447.70万円

問2
設問1

ア.[代替案1]の20X2年度~20X5年度の売上高
当初案の84.5%まで回復する、ということなので、30,000万円×84.5%= 25,350万円

イ.[代替案2]の20X2年度の売上高

20X2年度は[当初案]の80%、ということなので、30,000万円×80%=24,000万円

ウ.[代替案2]の20X3年度の売上高
20X3年度は[当初案]の84%、ということなので、30,000万円×84%=25,200万円

設問2
迷うのが、問題文の「20X1年度末において正味現在価値が最大となる・・・」という記述です。「20X1年度末を現時点として、正味現在価値が最大となる・・・」と理解するのが良さそうです。「20X1年度の生産量は当初案の70%まで落ち込む」という指示を利用すれば、20X1年度の正味CFを算定できますが、その金額は、見直し案、代替案1、代替案2で共通なので埋没、ということで、考慮する必要はなさそうです。もう少し丁寧な指示が欲しいところです。
[見直し案]の正味現在価値
「20X2年度末以降の各年度の収支差額×(1-税率)+ 減価償却費×税率」を計算して、その割引現在価値合計を正味現在価値とします。
NPV=(7,710×0.6+2,000×0.4)×(0.926+0.857+0.794+0.735)= 17,970.912万円 ・・・①

[代替案1]の正味現在価値
「20X2年度末以降の各年度の収支差額×(1-税率)+ 減価償却費×税率」を計算して、その割引現在価値合計から補助設備の取得原価を控除して求めます。
NPV=(10,238×0.6+2,500×0.4)×(0.926+0.857+0.794+0.735)- 2,000= 21,656.9536万円 ・・・②

[代替案2]の正味現在価値
「20X2年度末以降の各年度の収支差額×(1-税率)+ 減価償却費×税率」を計算して、その割引現在価値合計を正味現在価値とします。
NPV=(8,696×0.6+2,000×0.4)×0.926+(9,217×0.6+2,000×0.4)×0.857+(10,004×0.6+2,000×0.4)×0.794+(10,537×0.6+2,000×0.4)×0.735= 21,633.2016万円 ・・・③

[代替案1]>[代替案2]>[見直し案]
NPVの差額 = ② - ① = 3,686.0416万円 → 3,686.04万円


設問3~設問5
TPM(Total Productive Maintenance:全員参加の設備保全)は、もちろん講義で取り扱っていますが、だからといって、本問を正答できるとは思えません。埋没と考えてよいでしょう。

結局、最初の計算4問しか正答できそうにありません。合格ラインは10点(=@4点+2点×3)と想定します。

専門学校によって解答が分かれた第1問の問題1の8点を採点除外とした場合、想定合計ラインは 42点です。
この8点は合否に直結します。迷いに迷ったあげく、問題文の指示に忠実に従って[原則規定]で解答する途を選択した、おそらくは少数派で賢明な受験生が不合格とされないことを切に願います。