【工業簿記・原価計算】第170回 日商1級 工業簿記・原価計算 講評
本試験お疲れ様でした。
日商1級 第170回 工業簿記・原価計算の講評です。
工業簿記は「標準原価計算」、原価計算は「業務的意思決定」、及び「事業部制組織の管理会計」からの出題でした。
目標点は、工業簿記22点、原価計算17点です。
いつものように、商業簿記・会計学が難しく、工業簿記・原価計算で確実に得点して欲しいところです。
1.工業簿記:「標準原価計算」
25箇所の穴埋め問題でした。出だしの9つの穴埋めは極めて容易です。
混合差異が問われていましたが、先に行われた公認会計士の令和7年第Ⅱ回 短答式試験でも「混合差異」が出題されていました。こういうことも、よくある偶然です。
作業時間差異を⑩加工時間差異と⑪ロットサイズ差異に細分析するところで、はじめて「考える」ことが必要になりました。
ロットサイズを20個から10個に変更した段階で、原価標準の改訂を行うべきなのですが、改訂を行わなかったので、作業時間差異が純粋に能率面の差異になっていないことに気づけば、クリアできたはずです。
ロットサイズが20個のときに、1個あたりの段取時間を0.05hと計算し、1個あたりSHを0.3h(=0.25h+0.05h)と設定しました。
ロットサイズが10個に変更されたのであれば、1個あたりの段取時間を0.10hと計算し、1個あたりSHを0.35h(=0.25h+0.10h)と設定すべきでした。
そうしておけば、SH=0.35h×1,000個=350hで、実際作業時間360hとの差異10時間が、標準能率0.25h/個を維持できなかったことによる差異、本問でいう「加工時間差異10時間」になります。
作業時間差異全体が60時間で、標準作業能率0.25h/個を維持できなかったことによる差異が10時間ということは、残りの50時間分が「ロットサイズ変更差異」になります。
空欄⑫については、悩ましかったですね。問題文の記述から、製造間接費については、「固定費が存在するので、標準原価計算では管理を行うことができず、予算管理が必要である」というのが作問者の考え方です。だとすれば、原価管理上意味のある差異として⑫に入る語句は「予算」差異になるはずです。ただ、多くの専門学校が⑫を「操業度」差異としているので、別解として示しておきます。専門学校によって、解答が分かれる問題は良問とはいえないので、⑫について、受験生は悩まず、他の解答箇所を復習しておけば大丈夫です。
⑬~⑳の製造間接費の差異分析については、2級知識で正答できます。
㉑~㉕は、配合差異、歩留差異に関する問題で、仕掛品の存在しない、とてもシンプルな構造です。
そうすると、⑩⑪⑫以外は、正答必須となるので、工業簿記については、目標点は22点/25点となります。
2.原価計算 第1問:「業務的意思決定」
内容は、主に、「受注の可否」についての業務的意思決定です。
問1は、確定している受講者数320人のもとでの営業利益の算定です。
総原価は、変動費@5,800×320人+準固定費(@210,000×11人+@84,000×6人)+固定費1,347,000円=6,017,000円です。こういった計算は、スムーズに行いたいところですね。総収益は@20,000×320人なので、問1の営業利益は383,000円です。
問2は、受注の最低価格を決定する、といった典型的な業務的意思決定問題です。増減する金額だけを取り出して解答することも可能ですが、総額で考える方が易しいです。
求める受注価格をXとおくと、総収益は60・X+@20,000×320人です。
総原価も漏れがないように丁寧に集計すれば、大丈夫です。総原価=特別教材費@1,800×60人+(教材費@3,400+通信費@1,260+その他変動費@350)×380人+販売手数料@850×320人+準固定費(@210,000×13人+@84,000×7人)+追加校舎家賃45,000+固定費1,347,000円=6,993,800円になります。問1の営業利益を確保しておく必要があるので、総収益-総原価=383,000円として、Xについて求めると、問2の解答となります。
問3は、準固定費の金額が鍵になりそうです。A社からの受講者数が40人~80人ということは、全体で360人~400人です。
準固定費は361人、386人、391人で金額が上がるので、その1人手前の360人、385人、390人のいずれかが利益最大化点です。力仕事になりますが、営業利益を比較しておきましょう。
360人⇒総収益(@18,000×40人+@20,000×320人)-総原価(@1,800×40人+@5,010×360人+@850×320人+@210,000×12人+84,000人×7人+1,392,000円)= 472,400円
385人⇒総収益(@18,000×65人+@20,000×320人)-総原価(@1,800×65人+@5,010×385人+@850×320人+@210,000×13人+84,000人×7人+1,392,000円)= 542,150円
390人⇒総収益(@18,000×70人+@20,000×320人)-総原価(@1,800×70人+@5,010×390人+@850×320人+@210,000×13人+84,000人×8人+1,392,000円)= 514,100円
以上から、全体で385人、A社からの受講者数が65人のときの利益が最大で、そのときの計画営業利益は、542,150円となります。
時間の制約を考慮して、手を出さない方がよかった問題ですね。
第1問は、問1の正答は必須で、できれば問2も合わせて欲しい問題です。目標点は3点/8点とします。
2.原価計算 第2問:「分権組織の管理会計」
問1の事業部別P/L、及び問2の加重平均資本コスト率の算定は、正答必須です。
問3は、各事業部の投下資本利益率と残余利益の算定です。
ともに利用する利益と投資額は、「税引後管理可能利益」と「管理可能投資額」です。「管理可能利益」は問1で計算済みなので、これに(1-税率)を乗じと「税引後管理可能利益」です。管理可能投資額は、売上高に変動資本率を乗じて計算した「変動資本」と資料に与えられている「管理可能な固定資本」を合計して計算します。売上高に変動資本率を乗じて変動資本とする計算モデルは、とても古くからあって、むしろ最近では見かけなくなったモデルです。このモデルの最大の欠点は、売上高がたまたまゼロになった場合に、今までストックしてあった変動資本がどこに消えるのか、説明できない点です。「売上高に一定率を乗じた金額を変動資本として期末保有する。」と仮定するのは、計算モデルとしては、簡単化されすぎていて、破綻している一面もありますが、伝統的なモデルとして、今なお出題がある以上、受験生としては、対応していかざるを得ないですね。
問4は、事業部制組織の管理会計の中で、最も有名な論点である、投資利益率による業績評価の「部分最適化問題」がテーマとなっていることは容易に想像がつきます。
なので、新規投資案の投下資本利益率は、問3で計算したW事業部長の業績評価指標である投下資本利益率9.5%よりも低く、全社的な採否判定ラインである加重平均資本コスト率5.5%よりも高く設定されているはずです。
そして、いつも通り、事業部長の業績を投下資本利益率で評価すると、全社的に採用すべき新規投資案を採用しない意思決定を行ってしまうが、残余利益で業績評価することで、この部分最適化問題を回避できる、というストーリーになっています。
典型論点なので、第1問の問3に手を出さずに、第2問にたっぷりと時間を投入できたのであれば、満点が狙えたはずです。時間制約を考慮して、目標点は14点/17点とします。