【商業簿記・会計学】第170回 日商1級 商業簿記・会計学 講評

日商1級 第170回 商業簿記・会計学の講評です。
商業簿記は損益計算書の作成と貸借対照表の特定科目を解答する総合問題、会計学は正誤判定の理論問題と減損会計と工事契約の個別計算問題でした。収益認識基準を意識した出題で、表現の読み取りにくさも相まって難しい問題であったと思います。

目標点は、商業簿記13点、会計学18点で合計31点です。

商業簿記

  1. 商品売買は、一般商品販売・割賦販売・未着品販売を組み合わせた特殊商品販売の問題でした。単純合算+αで求められる期首商品・売上高・商品保証引当金繰入は必ず正解したい金額です。割賦販売については「契約に含まれる重要な金融要素」の取扱いがポイントとなりますが、「割賦販売の金利部分については利息未決算勘定で処理し、割賦売掛金回収時に利息法で受取利息に振り替える方法(資料Ⅱ1.(2))」との指示が理解できれば、(3)の貸倒が問題なく処理できると思います。この貸倒の戻り商品について適切に処理できると、当期商品仕入・期末商品・貸倒損失の金額も求められます。
  2. 貸倒引当金は貸倒懸念債権についてキャッシュ・フロー見積法が採用されているので、ここで頑張るか特殊商品販売で頑張るかだったと思います。①前期末から貸倒懸念債権としてキャッシュ・フロー見積法による貸倒引当金の設定である事、②貸倒見積額の減少分については受取利息として処理すること に注意して処理します。
  3. 有価証券はその他資本剰余金を財源とする配当金の受入が売買目的有価証券(受取配当金)とその他有価証券(投資額のマイナス)とで異なる点がポイントです。その上で期末時価評価を行っていくので、解答欄3箇所に影響します。
  4. 外貨建短期貸付金には為替予約が付されています。頻出の振当処理ですから確実に正解したい論点です。直々差額(予約時直物@161ー貸付日直物@160)を為替差益に、直先差額(先物@156ー予約時直物@161)を月割で期間配分します。また、経過利息を決算日レートで換算することも忘れずにおきたいですが、今回は貸倒懸念債権の受取利息まで合わせられないと正解しない金額であったので出来ていれば大きなアドバンテージだったでしょう。
  5. 有形固定資産はいずれも易しい内容ですから合格には正解必須でした。①建物の積立金方式の圧縮記帳は税効果会計の適用もないので、200,000千円のうち5年分が取崩済みの計算です。②機械装置の資産除去債務は現価係数の選択(当期末から11年後)がポイントですが、前T/Bの残高 53,845千円もヒントになったと思います。
  6. 新株予約権付社債は前T/Bが空欄になっていて、「当時当社が同じ条件で普通社債を発行しようとする場合は、発行価額100 円につき、96.12 円での割引発行となっていた」「新株予約権部分については、算定の容易な社債部分の対価を決定し、これを払込額から差し引く方法」との指示から、社債発行時の処理を考える必要がありました。額面総額100,000千円の3.88(=100ー96.12)/100が新株予約権となり内75%が当期に権利行使されています。転換社債型ではないので新株予約権とは社債は別個に処理されていくので、社債は別途償却原価法(利息法)で償却原価を求めます。発行から当期末まで3年なので地道に積み上げて行けば確実に正解できます。

会計学

第1問:理論問題

  1. 有価証券の評価に関する正誤問題です。ア.は市場価格のない株式等と満期保有目的債券の評価が混在しており誤りです。イ.は満期保有目的債券を満期前に売却した場合には、他の満期保有目的債券まで満期まで保有する能力が失われたとして保有区分の変更になるので、買戻が必要との内容は誤りです。エ.売買目的有価証券かは保有目的による分類で有り有価証券の種類を問わないため誤った内容です。
  2. 制度会計に関する問題です。ア.会社法のもとで作成される計算書類は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従って作成され、「企業会計基準委員会が公表した会計基準」もその構成要素ではありますが、適用が義務づけられている訳ではないので誤りです。イ.キャッシ ュ・フロー計算書は計算書類に含まれません。ウ.金融商品取引法の一部改正により、上場会社の四半期報告制度が廃止されました。
  3. 引当金の設定要件についての問題です。引当金の4要件(①将来の特定の費用又は損失、②発生が当期以前の事象に起因、③発生可能性が高い、④金額を合理的に見積れる)を満たす場合には引当金の設定が強制されます。イ.は③、ウ.は④を満たさず、エ.は強制でないとしているので誤りです。
  4. 連結固有の税効果会計についての問題です。連結固有の将来減算一時差異のうち繰延法により繰延税金資産を計上する項目は、ア.未実現利益の消去に係る一時差異を指します。課税関係は完了しているので回収可能性の判断は要しません。イ.ウ.このとき適用する税率は販売元の販売時の税率であるため、税率等の変更の影響も受けません。

第2問:減損会計

のれんを含むより大きな単位での減損処理です。解説の余地がないほど基本的な問題ですから合格には完答必須です。

第3問:工事契約

収益認識基準からの出題です。

問1は単純な工事進行基準です。「完成工事未収入金に含まれる①契約資産および②顧客との契約から生じた債権」との指示にドキッとしますが、第1期~第2期の工事進行基準による収益に対応する完成工事未収入金(契約資産)と第4期に回収する完成工事未収入金(確定債権)の違いに気づけると良かったでしょう。契約資産・契約負債は危うくとも、工事収益・工事原価は完答したい問題です。

問2は第1期が原価回収基準、第2期~第3期が工事進行基準となっているひねりのある問題です。ただ、「第1期期末に限り~原価回収基準により処理する」とはっきり指示されているので迷いはしなかったと思います。

問3は「見積総工事原価だけでなく工事収益総額も,500 百万円へ増額された場合」とありますが「この契約変更は独立した契約ではなく、既存の契約(履行義務)の一部として処理」とも指示されているので、工事収益総額について変更のある工事進行基準であるだけです。収益認識基準の複雑な処理が頭をよぎった事でしょうから、試行錯誤して時間を浪費するくらいなら手を出さない方が良かったかも知れませんね。

以上です。